第94話 将来性を感じればヨシ


「やべぇ、何も思いつかねぇ……」


 早朝、俺は屋敷の私室のベッドに座って唸っていた。


 アイガーク王を「やべぇ」と言わせられるようなゴーレムのネタがないのだ。今まで何度も凄いゴーレムで相手を唸らせていたが、流石にずっとネタが続く物でもない!


 純粋に役立つゴーレムだけならば用意するのは簡単だ。性能高めのを造ればよいだけだし。だが相手を圧倒させるほどのモノとなると話は別だ。


 フィッシュタンクゴーレム、ゴールデンゴーレム、スノウゴーレム……こいつらみたいなのは物珍しい上に有用なのはそうそう思いつかない。


「あなた、まだ悩んでるのです?」


 俺と同じベッドで寝ていたメイルが目を覚ましたようで、眠そうに目をこすっている。もうメイルとは同じ寝室で毎日寝ている。夫婦だし。


「役に立つゴーレムならネタはある。でもアイガーク王に圧を加えられるようなのと言うとなぁ……」

「スクラプ領をやっつけた巨大ゴーレムはどうです?」

「あれは既に使ってしまってるからなぁ。レーリア国内の噂になってるし、知られてる可能性が高いとレイラスが言ってた」


 巨大ゴーレムは派手に目立ったので、スクラプ領内の民ならば誰もが知っている。つまり他の領地や国にも間違いなく情報は流れているはずだ。


 レイラス曰く、アイガーク国は俺が巨大ゴーレムを作成できるのは知られているらしい。むしろその情報の効果もあって、アイガーク王が披露宴にやってきた可能性が高いとも。


 アイガーク国は俺の巨大ゴーレムを厄介と考えて、その上で近づいて来ているということだ。奴らに見せてもそこまでの衝撃は与えられない。


「そもそもなぁ。巨大ゴーレム見せても武力で脅すみたいで好きじゃない。明らかに喧嘩腰だし、せっかく戦以外で矛を収められる可能性があるんだから」

「あなたって戦うのが好きなんじゃないです?」

「違う、俺は基本的には平和主義者だ。相手が襲ってくるから迎撃してるだけで」


 確かに俺は戦争で手柄を立てるためにレイラスの配下になった。だがそれはアイガーク王国との戦いがあると聞いていたから、それならば利用しようと考えただけだ。

 

 ミクズやスクラプ領の件は向こうから攻めて来たのを、迎撃して徹底的に叩いただけ。あいつらは叩かないとまた仕掛けてくるからな。


「俺のモットーは人命大事だぞ、師匠と同じく」

「師匠さんもあなたも普段の言動がダメなのです」

「そんなにダメ?」

「ダメです」


 うーむ、俺としては普段から清く正しく、自分に正直に生きているつもりなのだが。


「あなたももう少し大人になるです。成長に期待してるです」

「成長かぁ」


 もう俺は地球と含めて三十年以上生きてるので、将来性には期待しても無駄な気がする。発展途上ならまだまだ伸びる可能性もあるのだが。


 ……ん? 待てよ、成長というか将来性に期待か。


 ふーむ。それってつまり今は出来てなくても、将来的にヤバイと思わせればよいってことか。アイガーク王国に対して、レーリア国の将来性をアピールできる何かがあればよいと。


 いやまあ将来性でアピールできるものも思いつかないんだがな! ゴーレム馬車なら今までの運搬の常識を覆す可能性は高いが、それでも積載量とかに限界があるから革命とまではいかないし。


「よし。こういう時は他の皆にも相談してみるか」

「それがいいです。信用できる人が多くいるのは貴重なのです。せっかく家族としてつながった仲なのです、力を合わせるのです。繋がりは力なのです」


 繋がりは力か、なんかいいなそれ。俺もメイルたちの夫として頑張らないと。


 こうして俺たちは食堂に向かい、待っていたレイラスとミレスと共に朝食をとり始める。


「それでアイガークを驚かせるゴーレム案が欲しい。将来性を見せられるモノでも可なんだが」

「なるほどー。私たちを頼って来るということはかなり悩んでいるようですねー」


 レイラスが少し嬉しそうに微笑んでいる。彼女は少し黙り込んだ後に。


「やはり分かりやすいのは武力ですねー。力を見せつけて服従を迫るのが最も簡単ですー」

「俺もその理屈は分かる。でも出来れば武力以外でも脅したい」

「それは難しい話ですねー。やはりゴーレムは数が用意できないので限界がありますー。少ない数で与えられる影響には限りがありますしー、ましてや国単位となるとー」


 レイラスの言うことはもっともだ。


 確かに馬車ゴーレムは通常の馬車より優れていて、商人や貴族ならば誰でも欲しがるだろう。だが現状ではそこまで数を用意できない。俺が二日に一体造れるとしても、一年で百八十体くらいが限度だ。


 もし馬車ゴーレムが国中に行き渡れば経済の循環は上がるが、現状では無理なので持っている者が大きく得するモノになってしまう。


 そして馬車ゴーレムを造るのは難しい。少なくともちょっと教えた程度のゴーレム魔法使いではとても無理だ。なのでレーリア国中に行き渡るのは百年後とかになってしまう。


「ボクは馬車ゴーレムは凄いと思うよ。商人からすれば喉から手が出るほど欲しい代物だし、情報伝達速度で優位を取れるのはすごく大きい」

「確かにそれは大きいですねー。国であってもそこは見過ごせませんー。ですが伝令役なら数体いれば事足りてしまいますー」


 馬車ゴーレムが現代地球のトラックレベルで平民に行き渡らせることができるなら、運搬革命と言ってもよいのだろうけどなぁ。


「いっそすごく大きい馬車ゴーレムを造ってしまえばよいのです。そうすればいっぱい運べちゃうのです」


 大きいゴーレムなら運搬力は高そうだ。でもネックが色々とあるよな。


「メイルちゃん、そんなの造ったら街道を走れないよ。道じゃないと車輪が回らないから」


 俺もミレスの言葉に頷く。大きいと身動きが取れないからな。


 トラックだって車道で走れるサイズしかないだろう。それより大きいのは飛行機や船とかくらい…………あ。


「これだ!」


 俺は思わず立ち上がってしまった。

 

「ど、どうしたです!?」

「ベギラ?」

「食事中にいきなり立ち上がるのは行儀が悪いですがー」

「すまん、だが思いついてしまった。本当に交通の常識を変えかねない策を」


 さっきメイルは繋りは力と言った。確かにそうだ、繋げればいいんだ。


「馬車ゴーレムを繋げるんだ! そうすれば長くなってもっと運べる!」

「「「???」」」



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※この作品のメインはゴーレムです

※戦記物ではありません

※ハーレム作りつつゴーレム造る話です


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