アイガーク王との謁見

第93話 拝啓


 大披露宴を成功させたことによって、レーリア国の中立だった貴族の大半はライラス派についた。これにより趨勢は明らかになって、王家派からこちらに寝返る者も現れ始めている。


 もう王家に大した力はなく名目が残っているだけなので、このまま時間が経てば更に裏切りで弱体化していく。


「というわけでー、大披露宴は大成功ですねー」


 大披露宴の翌日、俺達は屋敷の食堂で朝食をとっていた。


 レイラスが機嫌よさそうに笑っていることからも、昨日どれだけうまくいったかが見てとれる。


「王家派は時間の問題ですねー。味方する貴族がどんどん減りますしー」

「王家自体はそこまでの戦力持ってないからな。もうあいつらが動かせるのは直轄領くらいだろうし」


 王とはいえ国中の土地を自由にできるわけではないし、兵を好きに集められるわけではない。何故なら領主に土地を与えているので、王が直接民に命ずるのではなくてその土地の領主に協力を要請する必要がある。


 だがそれだと王が弱くなりすぎるので、王自身が領主となって自由に兵など動かせる直轄領を持っている。逆に言うとその直轄領以外では王が好きに動かせる土地はない。


「うふふー。王家に降伏をほのめかすお手紙を書きますー。どんな文章にしましょうかー、なるべくプライドを煽るような内容がよいですねー」


 レイラスが物凄く愉悦そうに話している。


 最近のレイラスは感情が分かりやすいのだが、彼女自身が隠すのをやめているのか俺達が理解できるようになったのかは不明だ。でもレイラスの考えていることが分かるのは嬉しい。


「でも王家は絶対降伏しないと思うのです……」

「するわけありませんし、させるわけもありませんー。ここで半端に許すと数十年後にまた反抗される恐れもありますしー。そうすればまた国が荒れてしまって民が困りますからー、憂いの芽はたっておきますー」

「厳しいなぁレイラスは……ボクには真似できないや」


 レイラスの考えは当たっている。地球でも古来より半端に降伏を許して生き残らせた勢力が、いずれ力を盛り返して逆らってくるなんて日常茶飯事だった。


 完膚なきまでに潰せるのならばそうしておいた方がよい。いずれ災いの芽になるのだから。


 ……どれだけ頑張っても数百年が経てば、大抵の政治基盤は覆されるのも歴史が証明しているが。


「じゃあレーリア国はライラス国になるわけか?」

「うふふ、名前はまだ決めてませんけどねー。ですがまだ王家にも逆転の目はありますので、それを潰したいのですー」


 レイラスは俺に対して一枚の手紙を渡して来た。開いて文章を見てみると。


 ――俺の国に遊びに来い。もてなしてやる。アイガーク王より。


 太くて大きい文字でこんな文章が書いてあった。要約ではなくてこの文だけがでかでかと。


「……あいつすげぇなぁ。本当に一国の王か?」

「アイガーク王は成り上がりなのですよー。一代で各豪族をまとめあげたので、純粋な貴族ではなくてー野蛮というかー」


 レイラスは笑みを浮かべているが目が笑っていない。


 断言できる、彼女はアイガーク王を苦手としているのだと。緻密な計算で盤面を動かすレイラスに対して、大胆不敵に予想外のことをしでかしそうなアイガーク王は相性悪いだろうなぁ。


「ベギラ、アイガーク王のところにもてなされに行ってくださいー。私だと毎度のように話がこじれるのでー」

「やっぱり毎度こじれてるのか」

「あいつ苦手ですー」


 とうとう『あいつ』とか言っちゃったぞあのレイラスが。本当に苦手にしてるんだなぁ。俺としては嫌いじゃないんだけどなあいつ。


「いいけど、一応は敵国になるが大丈夫か?」

「もし貴方に何かあれば即座に攻め込みますのでー」

「こっわ」

「私の夫に危害を加えてくるなら当然の処置ですー」


 俺は顔が緩みそうになるのを必死にこらえる。聞いたか!? あのレイラスが「私の夫」なんて言ったぞ! 


「ですがただもてなされるのはダメですー」

「また力を見せつけたいと?」

「はいー、外交の場ですからー。その結果次第では戦わずして降伏を促す……のは無理ですね、あいつは戦わない選択肢は取らないから」


 レイラス、さっきから素っぽいのが出てない? 俺とキスしたからなんかこう、口が柔らかくなったとかそういうのじゃないだろうな?


「ゴーレム馬車で向かえばいいかな」

「もうそれは披露しましたので可能であればもっと派手なモノがいいですね。ベギラの方で何も思いつけないなら私の方が用意しますがー。流石のベギラも大披露宴で披露し過ぎて種不足でしょうしー」


 レイラスは流し目で俺の方を見てくる。


「ほう、それは俺に対する挑戦か?」

「いえいえー? もしベギラが失敗しても貴方は何も悪くありませんー、私の見る目がなかっただけのことですー」

「なるほど。少しは考えてみるよ」


 とはいえ俺は大披露宴でゴーレムを出して目立たせた。今回はそこまで活躍しなくても、レイラスの夫として面目ははたしたと思うのだが。


 俺が用意できなかったら彼女がしてくれるらしいし、たまにはサボっても許されるのでは……。


「ちなみにーもしアイガーク国と講和できたらー、ツェペリア領に信頼できる代官を派遣しますー。そうするとミレスさんの手が完全にあくので、彼女が動けなくなっても問題がなくな」

「任せろ、俺の全精力を持って渾身のゴーレムを造るから!」


 俺はミレスの肢体をまじまじとガン見しながら宣言する。


 やってやらぁ! アイガーク王が腰をぬかすゴーレムを製造してやんよ! そうして後は……!


「べ、ベギラあんまり見ないでよ……」


 ミレスが恥ずかしがりながら自分の身体を抱きかかえる仕草を見せる。それがまたよい!


 ここで照れるからこそ俺はミレスが好みなのだから! 

 

 さあやるぞ! 俺のゴーレムでアイガーク王に「やべぇ」と言わせてやるぜ!

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