第90話 大披露宴④
「皆さま、これより新郎新婦が入ります」
「もう来てしまうのか……もっと遅くてもよかったのに」
「ウゴウ様、表情にお気をつけください」
思わず顔をしかめていると、従者から警告を受けてしまった。
若くしてツェペリア領主となって、スクラプ領をも奪った傑物……そんな者のことなど分かるわけがない。
きっとあのライラス辺境伯と同じく何考えているか分からない。自分の考えることなど欠片も出さないようなタイプだろう。
そして会場の扉が開いて中に入って来た。
「な、なんと!?」
「おおっ!?」
周囲の貴族たちが驚きの声を上げる。私も驚愕の表情を隠せない。
入って来たのは……黄金や銀で造られたゴーレムたちだった。新郎新婦はそのゴーレムに抱きかかえられて入室してきたのだから。
黄金のゴーレムには新郎とライラス辺境伯が、銀のゴーレムには残り二人の側室が運ばれている。
なんという贅沢か……なんと羨ましい! あのような黄金の塊、もはや芸術品の類だろう!
ところで一番後ろで鉄のゴーレムが躍っているのだが、あれはいったい何なのだろうか……? うわ空中で回転したぞなんだアレは……いかん、それよりも新郎の人となりを見極めねば。
そうして新郎新婦はゴーレムから降ろされて私たちを見回した。何かを話すつもりだがいったいどんな内容を……。
「本日は招待に応えて頂きありがとうございます。私はべギラ・ボーグ・ツェペリア。この度、レイラスの夫となった者です。そしてゴーレム魔法使いでもあります。この会場のゴーレムは全て私が用意しました」
やはりあの男が会場のゴーレムたちを造り出したのか。ツェペリア領主のゴーレム魔法は有名だからな……。
そうして更にライラス辺境伯や側室の妻たちの自己紹介が続くが、私は新郎のことばかり考えていた。
うーむ、見た限りでは普通の少年だ。これでは何も分からないな……やはり個人的に話しかけてみるしかない。
そんなことを考えていると誓いのキス中に、意味不明な暴漢が現れたが新郎があっさりと成敗した。何やらあの暴漢は元ツェペリア領主とか名乗っていたが、本当ならヤバイにもほどがある。
新郎はツェペリア領を力で奪ったというが、相手があの暴漢というならばむしろ民を救った者と言わざるを得ない。
そして改めて挨拶などが終わってまた立食パーティーが再開された。新郎と話すべく彼の近くへと歩いていく。他の貴族たちも同じように集まっているので、彼らの会話内容も耳に入れておこう。
「新郎殿、ツェペリア領を建て直した手腕はお聞きしております。まさに天才ですな」
「ありがとうございます。ですが私ではなくゴーレム魔法の力です」
「スクラプ領の侵略を防いだのも見事ですな。いったいどのように?」
「ゴーレムの力でやりました」
「旧ツェペリア領主とのお家騒動に勝ったのは……」
「ゴーレムこそパワーです」
他の貴族たちが色々と質問しているが、やはり新郎は受け流している……! ゴーレムだけで全てやってきたとでも言うつもりか! そんなわけないだろう!
やはりこの男はあのライラス辺境伯と同じタイプか? 己の全てを隠すので全く分からずに不気味な……おっといかん、私が話しかけられるタイミングが来たようだ。
とは言え特に聞きたいこともないな……問う予定だったことは全て他の者に言われてしまった。仕方がないのでてきとうに世間話でもするか。
「いやはや見事なゴーレムでしたな。あのゴールデンゴーレムたちは何故造ったのですか?」
他愛のない話題だ、間違いなく財力を見せびらかすためだろう。だが新郎は少し自慢げな顔を見せた?
「黄金のゴーレムはよいと思いませんか? なんかこう、豪華と言いますか。無駄に贅を尽くすのがこう。男の夢というか」
分かる。黄金のゴーレムはなんかこう、贅沢の極みみたいで素晴らしいと感じた。
……む? 随分と心のこもった返答だな。てっきり「黄金が余ったのでー」とか言うと思っていたのに。ライラス辺境伯なら間違いなくそう答えていただろう。
もしかして……この男、案外俗物の類か?
確認したい! 新郎と話したい者で後がつかえているが少し無理やりにでも、もうひとつだけ質問を投げねば!
「ところで……何故ライラス辺境伯と婚姻を?」
「可愛いでしょう? それになんかこう、身分が上だった者を嫁にとれるのは男として燃えるものがあります」
「確かに」
わ、分かるぞ!? この男の考えていることがすごく分かる!
やはりこの男、決してライラス辺境伯のような怪物に属する者ではない! むしろ私たちのような者と同じ俗物の類だ!
ライラス辺境伯と違って分かりやすいからすごく助かる! あの少女は何考えているか分からなくて本当に不気味なのに比べて、この者は親しみもあるし!
「ありがとうございます。参考になりました」
新郎の側から離れて考えを整理しようとする。新郎は割とよい男だと分かった、ライラス辺境伯よりも話しやすいのは助かる。
だが……やはり王家派とライラス派のどちらにつくかは迷うな……迷う……迷う……迷う……。
「皆さま、夜も更けてまいりました。これよりお見せしたいものがございます!」
悩んでいるといつの間にかパーティーの進行が進んでいた!? 老執事がまた叫んでいるが……いかん、全く決まらんぞ!?
ま、まずはお見せしたいものを見てからにしよう……うん。
老執事の側には机があり、その上には三つの箱が置いてある。あの中にあるのが見せたいものとやらかな。
「それではご覧ください」
老執事が箱のフタを開いて中身を取り出した瞬間、パーティー会場は恐ろしい悲鳴の渦に包まれる。
そして大披露宴に参加したもののどちらの派閥に着くか迷っていた者が、レイラス派につくと決断した瞬間だった。
当然だ、当然に決まっている。だってそれは……エルフの生首三つだった。あの最強のはずのエルフですら、ライラス辺境伯の前では……ああ恐ろしい! 本当に恐ろしいのはやはりあの女狐だ!
さらにその後に連れてこられたのは、調教しきられて娼婦にされた女エルフだったからな! 随分といい趣味をしておられる!
------------------------------------------------
全く分からない相手よりも、多少人間味ある方が好感が持てますよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます