第91話 大披露宴の裏で
俺とメイルとミレスは大披露宴の会場である大広間から出て、応接間で椅子に座って待機していた。
レイラスからお願いされたのだ、とある要人と会って欲しいと。ところで先ほどパーティー会場からものすごい悲鳴が上がったのだが何かあったのだろうか。
そんなことを考えていると扉が勢いよく開いた!
「待たせたなぁ! ライラス辺境伯の婿ぉ!」
偉そうな壮年の男が部屋に入って来て、ずかずかと置いてあった椅子にドカッと腰を下ろして机を挟んで俺達と相対する。
なんだこいつ? 来るのは要人って聞いてたからてっきり大貴族と思ってたが有力な冒険者とかか?
更にその後ろには活発そうな雰囲気の可愛らしい女の子がいる。高価なドレスを身にまとっているが、やはりおしとやかな貴族令嬢という感じはしない。
「えっと、どなたですか?」
俺の問いに対して目の前の野獣みたいな男は、少し訝し気な顔をして頭をぼりぼりと掻いた。
「はぁ? ライラス辺境伯から何も聞かされてないのか? まあいい、俺はアイガーク国王! ベルギール・ノヴァ・アイガークだ!」
「「「!?」」」
俺達は彼の言ってることが意味不明過ぎて驚くしかなかった。なんで敵対国であるアイガークの国王がこんなところにいるんだよ!? 嘘だろ!
いやでもレイラスが要人が来るから待っておいてと言ってたし、もしかして本当だったりするのか!? もう分からんぞ!
アイガーク王? が「酒をよこせ!」と叫ぶ。すると部屋の外からメフィラスさんが入ってきて、ワインの入った瓶と空のグラスをそれぞれ五本ずつ机に置いて帰っていった。
その時に必死にアイコンタクトを取ったところ、メフィラスさんはパチンとウインクしてきた……どうやらこの男がアイガーク王なのは事実のようだ、マジかよ。
「まったくよぉ! あの女狐をよく嫁になんてしたものだなお前! 見てくれはともかく内面がヤバ過ぎるだろあいつ! 俺だったら絶対嫌だ!」
アイガーク王はグラスにワインを注ぎ込むと一気に飲み干して、机にたたきつけるようにグラスを置いた。
む、レイラスのことを悪く言うとは無礼な奴だな! 彼女は可愛いんだぞ、ちょくちょくいや頻繁に怖いけど。
「その言葉は取り消してもらいましょう」
「おう、タメ語で話せや。その方が話しやすい口だろお前」
アイガーク王は俺を睨みつけてから、新しいワイングラスにワインを注いで俺に手渡してくる。こいつ本当に王か? 実はメフィラスさんと一緒になって俺を謀ってるんじゃないのか?
俺はワイングラスを飲み干しながら男をにらみつける。
なら乗ってやろうじゃないか。俺にも何というかこう、レイラスの夫としての器がある! というかもはやライラス領は他国と単独で争う『一国』に等しい! ならそこまで下手に出る必要はないだろ!
「その言葉取り消せ! レイラスは内面も清く可憐……ではないが、平和を愛して……もないな。他人を蹴落としたりはしてな……しまくってるな」
「そりゃ国盗ろうとしてる奴が平和の使者なわけねーからな。あいつ内面ヤバイだろ」
「うるさい! レイラスは内面も可愛いんだぞ! 基本怖くて恐ろしいけどすごく稀に女の子らしいところがあってだな! ほら毒持ちの獣でも食べられるところは美味しいとかあるだろ! そこを知らずにヤバイとか言うな!」
レイラスの普段見えるところは、フグの毒針部分みたいなものだ! その毒とか中の肝とかをうまく捌ければ美味しく食べられるのだ!
アイガーク王が空になった二つのグラスにワインを注いできたので、更に俺達はそれを飲み干した。
「自分の妻を毒持ちと例えるのもどうかと思うが」
「やかましい! 綺麗な花には毒があるんだよ!」
「あ、あなた飲み過ぎなのです!」
「ベギラ落ち着いて! 相手は一国の王……」
「父上、これは流石にマズイのでは!?」
周囲から女の子たちが警告してくるが知らん! そもそも先に無礼を取ったのは目の前にいる男! そしてここは俺達の本拠であるライラス領だぞ、ヤバイのは明らかに目の前の男だ!
アイガーク王は少し腕を組んで俺の方を見た後、合点がいったように頷いた。
「面白い考え方だなお前。なるほどなぁ……先ほどの披露宴でお披露目された黄金のゴーレム、提案したのお前だろ。あの女狐にしては趣味が良過ぎると思ったぜ」
野獣のような獰猛な笑みを浮かべるアイガーク王。
「悪いか?」
「いや悪くない、むしろよい。俺はあの女狐は好まねぇ、何考えてるか分からねぇしな。なんつーかな、人間っぽくないんだあいつ」
それについては否定できない。
レイラスが何を考えているかについては、俺も未だにあまり分かっている自信がないのだから。こないだの食事会でようやくレイラスの人らしい一面を見たと思ったくらいだ。
彼女は自分の感情を隠すのが上手過ぎるのだ。だから他人から理解されないし、恐怖を覚えられてしまう。
でも実際はレイラスも可愛らしい女の子だ。それは自信をもって宣言できる!
「だが逆にお前は分かりやすい! あのレイラスの治世の下に入るのはお断りだ、間違いなく臣下に共感を得られずに粛清の嵐になるからな! だがお前がいればうまくバランスよくなるんじゃねーか、俗物代表」
俺達は更にワインをついで飲み干していく。すでに三瓶くらい空になったところで、メフィラスさんが追加の瓶を運んできた。
まったく俺のことを俗物代表だなんて……分かってるじゃないか。俺はレイラスに比べれば俗物も俗物だとも!
そして更にアイガーク王との話し合いが続いていく。メイルたちはメイルたちでなんか俺たちと離れて会話し始めていたが知らん。
「俺はなぁ! 王ってのはやはり欲に塗れるべきだと思うぜ! お前には見込みがある!」
「俺が俗物だと分かるのか!」
「分かるぜ! 黄金のゴーレムもだ! まさか黄金を自由に持ち運びできて、かつ盗まれないようにするなんてよ! いくらでも見せびらかせるじゃねぇか!」
「あれは俺の夢を具現化したものだからな!」
「男の夢のひとつだなぁ! お前は本当に面白い、気に入った! もし俺に勝てたら娘をやる!」
アイガーク王は更にワインを飲み干した。あれどれくらい瓶空けたっけ? まあいいや細かいことは!
「勝つってどうやってだよ!」
「そりゃお前、なんかこうよい案考えるんだよ! 気に入った相手が治める国なら、血みどろになるまで争う必要ないしな!」
「それいいな! 流れるのは血じゃなくてワインでたくさんだ!」
「よっしゃ決まりだな! あの女狐に乗せられた気はするが細かいことはどうでもいいぜ!」
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こんな性格のアイガーク王とレイラスが合うはずがなかった!
たぶん今までずっと話し合うたびにこじれていたのでしょう。
ちなみにアイガーク王を招待したのも、ベギラを応接間で待たせていたのもレイラスです。
彼女もまた成長しているのです。具体的には俗物の扱い方を学んでいる。
俗物には俗物をぶつけろと。
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