第88話 大披露宴②


 俺は屋敷の大広間の隣の部屋で、俺の妻たちと待機していた。


 もうすぐ出番なのでパーティー会場に出て行く予定なのだが……妻たちの純白のドレス姿に見とれていた。


 三人とも背中が露出していて可愛らしい肌が見えているのでなんかエッチだ。俺としては隠すべきだとも思うがこの世界ではこれが常識だから仕方ない。


 実は俺は前世で生きていた時、無駄に露出の高い衣服は好みではなかった。だが今なら言える、これはよいものだと。


 いずれもっとエッチなの着てもらおう。ほら名称分からないけどランジェリーみたいなドレスあるじゃん。


「ベギラー? なにか変なこと考えてませんかー?」

「いや考えてないぞ。決してレイラスたちに下着みたいな服着てもらおうとかは」

「頭に冷水を被りますかー? 今なら凄く冷たいの用意できますが」

「許してください」


 レイラスがいつものように笑みを浮かべている。やはり彼女は大披露宴と言えども緊張していないようだ。


 それに比べるとメイルとミレスはガチガチだった。


「よ、よくこんな時にそんなこと考えられるのです……!」

「お、大勢の人の前に立つのに緊張しないの? ボク正直帰りたいんだけど……!」

「別に。だってそいつら全員、俺に羨む役みたいなものだし」


 レイラスにメイルにミレス、こんな美少女三人の妻を見せびらかすのは心地よい。参加者たちからきっと嫉妬の視線をぶつけられるだろうが、そんなことは些細なことである!


 他人の目を気にしてる奴がハーレムを希望するかよ! そもそも俺は注目を浴びることには慣れてるんだよ! 街中でゴーレム引き連れてどれだけ悪目立ちしていたと思ってるんだ!


 思い出すなぁ! リテーナ街に来てからのゴーレムへの罵詈雑言を! 今となってはそれもよい思い出では断じてないが酒の肴だ。


「それに大丈夫だって。貴族たちが注目するのはメイルたちじゃなくて、俺とレイラスだと思うぞ」

「それでも緊張はするのです!!!!」


 このパーティーに出席している貴族たちの狙い。それは間違いなく俺を見極めること。


 あのライラス辺境伯と婚姻する幸運男の正体を知りたいのだ。有能なのか無能なのか、どんな考え方なのか話は通じるかなど色々と。なにせ彼らにとってライラス派と王家派のどちらに着くかは死活問題だ。


 ライラス派の有力者になる俺のことは知っておきたいだろう。


 対してメイルやミレスはあくまで俺の側室扱いで、貴族たちに対して直接の影響力はないからな。まずは俺のことを必死に探って来るだろうなぁ。


「それに本当にこれでパーティー会場に入るの……? ものすっごく目立つと思うんだけど……」


 ミレスがゴールデンゴーレムやシルバーゴーレムに視線を向けた。


 俺は頷く。当然だ、そいつらは特注品だぞ。


「さあ行くぞ! 俺達の輝かしい社交界デビューに!」


 こうして俺はレイラスの手を取って部屋を出て、パーティー会場の扉をくぐった。


 本来ならメイルとミレスとも手を繋ぎたいが、この大披露宴の主役はあくまで俺とレイラスである。というか何なら俺もオマケである。


 貴族たちはライラス辺境伯の結婚式に来ているのだ。なのでオマケは大人しくしておくべきだろう。


 俺達が大広間に入場した瞬間に、部屋にいた全員の視線が俺達に向けられる。くっ…………なんて、なんて心地よいのか!


 こんなに注目浴びたことは前世含めても初めてだぞ! 悪目立ちじゃなくて普通に注目されるのって気持ちいいな! プロのスポーツ選手とかこんな気持ちなのだろうか!


 気を昂らせているとレイラスが俺に微笑みかけてくる。なるほど……これは無駄にテンション上げるなということだろうなぁ……。


 そうして俺達は大広間の中央部へとたどり着く。他の貴族たちはそこの空間を開けているので、部屋自体には人がいっぱいだが中央部に無人の円ができていた。


「これより新郎新婦の誓いを行います」


 メフィラスさんの言葉と共に俺とレイラスは向かい合う。


 とうとうこの時が来た。レイラスが俺の妻になったことを、衆人環視の元で示す時が。彼女を俺の隣に降ろす時がやって来たのだ。


 少し緊張するな、流石に。俺は目立つのは結構好きだが、それでもこの大勢の目の前でキスを行うのは少しためらってしまう。


 そんなことを考えているとレイラスがつま先を立てて、目を閉じて俺に顔を近づけて来た。流石は大貴族であるレイラスだ、こんな状況でも全く緊張していな……と思ったが彼女もほのかに顔が赤い。


 どうやらレイラスですら緊張しているようだ、可愛い。しばらく観察していると……。


「早くしてください。怒りますよ?」


 レイラスに催促されてしまった。珍しく彼女が顔を紅潮させているので、しばらく見続けていたがもう限界のようだ。


 俺はレイラスの肩を持って、彼女の顔をまじまじと見る。もう今はこの大披露宴の目論見もどうでもよい。貴族失格と言われようが、俺はレイラスが欲しいから結婚したのだ。


 ツェペリア領のことを考えてなどももちろんあるが、何よりも重視したのはレイラスへの憧れだった。転生というチャンスを与えられたからこそ、ハーレムに加える娘は選びたかった。妥協はしたくなかった。


 その上で俺はレイラスがよいと思った。だから彼女と婚姻を結ぶのだから。


 目をつむっているレイラスを最後に観察するがやはり可愛い。そして……俺達は誓いのキスをしたのだった。


 とうとう俺はやったのだ。ライラス辺境伯を、いやレイラスをこの手に掴んだのだから。



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ベギラは緊張してるとほざいてましたが、お前そこまでしてないだろと言いたい。

何だかんだでメイルの時もですが、人の目を集めることに強いですねこいつ。

そもそも注目されるのが苦手ならゴーレム引き連れて街を歩けないでしょうが……。


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