第87話 大披露宴①
「ウゴウ子爵、お迎えに上がりました」
このウゴウ子爵たる私の屋敷の前で御者が恭しく頭を下げる。こやつは奇妙な四足歩行のゴーレムが曳く馬車で私を迎えに来た。
迎えとはもちろんライラス領で開かれる大披露宴のことだ。普通ならば自分で馬車を手配して向かうのが当然なのだが、何故か今回はライラス辺境伯が用意してくれるのだ。
ほぼ間違いなく力を見せびらかすためだ。私は招待客全員に迎えの馬車をよこせるほどの財力を持つとの。
それとこの馬車の性能を知らしめるためだろう。すでに貴族たちの間でこの奇怪なゴーレム馬車の噂は広まっている。
「うむ。では乗せてもらうとしようか」
私は護衛を兼ねた従者を連れてゆっくりと馬車に乗り込むと、馬車はそれなりのスピードで走り出すのだった。そして三日ほど馬車に乗って披露宴の開かれる街へと着いた。
そして私は馬車から降りた後、高級宿の前に止まるそれを観察する。
このゴーレム馬車、最高速はそこまでではなかったが噂に聞いた通りだ。普通の馬車よりも長い時間を走り続けられる。確かに優秀だな。
本来ならこのゴーレム馬車が得られるのなら、ライラス派についてもよかった。
だが……先日届いた王家からの手紙のせいで決断できない。ライラス領とエルフが敵対となると話は大きく変わる。
「うーむ……」
「やはりお悩みですか、ウゴウ様」
私と共に馬車に乗り込んでいた警備の男が訪ねてくる。この者は私の側近であり腕も立つので重宝していた。
「そうだな、本来なら王家など早々に見限りたい。だがエルフはすさまじい力を持つ者たちだ。単騎にて戦場を変えうる力を持つほどの者、それが五千人もいるとなるとな……」
エルフは人間よりも遥かに強い。それは間違いない。
レーリア国に伝わるおとぎ話にもエルフの凄まじさは頻繁に出ている。それにエルフの傭兵が世界で数人いるのだが、彼らは全員が恐ろしく強大な力で戦場を暴れていた。
エルフ公国はそんなエルフが五千人もいるのだ。もはや天災のようなものにも感じてしまう。
「私は戦場でエルフの傭兵を見たことがあります。あの者はまさに一騎当千の猛者でした」
「やはり王家派につくべきか……だが王家もなぁ……この大披露宴が終わる頃には決断せねばなるまいが」
こうして私は大披露宴開催日までの一週間、宿でずっと苦悩し続けた。だが決断できずに無情にも大披露宴当日の夕方になってしまう。
会場であるライラス辺境伯屋敷の門前に到着してしまい、私は思わず二の足を踏んでしまう。
いや私だけではない。他にも門の前で待っている貴族たちがいるが、彼らもまた目の下に隈をつくって表情も優れない。おお、同志たちがいる……。
彼らも必死に悩んでいるのだ。なにせここで選択を誤れば領地も家もおとり潰し、一族郎党処刑だって大いにあり得るのだから。
延々と迷っていると無情にも屋敷の門が開いていく。ええい、開くな! もっと閉じていてくれ! 披露宴が始まったら決めなきゃならないだろうが!
「お待たせいたしました。今宵は我が主の誘いに応えて頂きましてありがとうございます」
門の中から現れたのは老執事。そして彼の後ろには……二体の大きな土ゴーレムが門の上から頭をのぞかせていた。
人より大きい程度のサイズではない、なんという巨体……! 全長5mはあるぞ!?
「お、大きいな……アレがライラス辺境伯の婿殿のゴーレムか」
「強力な戦力になり得る。あの大きなゴーレムがいれば、スクラプ領を奪取できたのも頷ける……」
他の貴族たちもやはりあのゴーレムは脅威に思えたようだ。くっ、余計にライラス派と王家派のどちらにつくか決めづらくなったではないか!
エルフもすさまじい脅威だがあの大きなゴーレムもまた恐ろしい!
「ご案内いたします」
老執事の勧めに従って、待っていた貴族たちがゆっくりと門をくぐっていく。庭に立っている巨大ゴーレムたちを横切って屋敷に入る。
そして大広間へと案内された。その部屋は金銀細工の家具がこれでもかと飾られている。数々のテーブルが並べられ、その上には豪華絢爛な食事の盛られた皿の数々……。
以前に開かれた王城のパーティーよりも、明らかに金をかけている……やはりライラス辺境伯の方が王家よりも力は上だ。だが王家にはエルフがついている。
悩みながら酒を配っている給仕から、水の入ったグラスをひとつ受け取る。本来ならパーティーで飲むのは酒だ。だが……こんな頭を必死に働かせないとダメな状況で酒など飲めるか!
実際に他の貴族たちもみんな水の入ったグラスばかり持っておる! いかん緊張で喉が渇いた……まず一口とグラスに口付けて私は思わず目を見開いた。
「!? つ、つめたっ……!?」
この水、怖ろしく冷たいぞ!? まるで雪を溶かしたかのように!
まさか氷室か!? そんなモノまで用意して……と焦ったところで、私の目に信じられない光景が写った。
会場に真っ白な雪の人形が何体もいた。そいつらは全部腹がくり抜かれていて、そこから大量の水の入った容器を取り出している。そして水差しでその容器から水をすくって、グラスへと注いでいる……。
「お、おい。あれってゴーレムか……?」
「おそらくは」
私の言葉に従者は迷いながら頷く。
なんとゴーレム魔法とは便利なモノだな……ゴーレム馬車も素晴らしいではないか。いやはや何でこんな優秀な魔法の評価が低いのか。
私もゴーレム魔法使いを雇いたいものだ。
「皆さま、これより新郎新婦が入ります」
そんなことを考えていると先ほどの老執事の声が聞こえてくる。
ふむ……ライラス辺境伯はそれなりに知っている。だがその夫は見たこともない、だが初見で見極めねばならないな……ああ気が重い……。
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すごいなー、エルフ恐れられてるからさぞかし強いんだろうなー。
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