第86話 大披露宴前日


 俺達が貴族の振る舞いの訓練を毎日行って数か月が経った。


 必死に頑張った。メイルとミレスは淑女としての作法を、俺は貴族としての偉そうさの出し方をすごく厳しく教えられたのだった。


 休みなく六時間毎日、しかも訓練外でも礼儀ができてなければすぐに指摘される! しかも屋敷中にメイドなどの目があるから気を休める暇もない! こんな恐ろしい日々を過ごしたのだ!


 もちろん俺はゴーレム製造も行った上でだ! メイルたちはその分だけまだ楽ということはなく、毎日八時間訓練だっただけだぞ! 加減とか手心がまるでなかったな!


 ちなみに訓練中に少し面白いやり取りもあったりした。


「メイルさんもミレスさんも胸が小さいのが残念ですー。大きければ多少の作法の甘さは胸の谷間で誤魔化せるのですがー」

「レイラスもあまり変わらないのです!」

「そうだそうだ!」

「私は作法完璧なので誤魔化す必要がありませんー」

 

 修行訓練中にこんな冗談めいたやり取りを聞いたので、レイラスと俺達の距離は少しは縮まっている気がする。ちなみに三人とも少し身長が低く、それと比例するような胸のサイズである。


 ようは慎ましい。でも俺は少し小さい方が好きだから! メイル以外もいつか揉みたい。


 俺もメフィラスさんにビシバシと鍛えられた結果、レイラスの夫に相応しくなった気がする。


 そして厳しい修行に耐え抜いた俺達は屋敷の食堂へと集められていた。


 食卓の席に一同に座って歓談している。


「ご苦労様でしたー。色々とありましたが何とか間に合いましたねー」


 レイラスが愉快そうに微笑む。


 彼女は忙しいのにも関わらずメイルとミレスの訓練にちょくちょく付き合っていた。選任の作法教師がいるにも関わらずだ。


 レイラスがメイルたちに教える時、物凄く楽しそうな顔をしていた。ついでに俺のところにもやってきてダンスを踊ったりもした。


 訓練以外にも食事とか休憩などの時も、何せレイラスは時間があれば俺達の元に来ていたのだ。日中で来なかった時間帯を探すのが難しいくらいだ、夜の寝室にはやってこなかったが。


 あ、でもメイルやミレスの寝室にはやってきて一緒に寝たらしい。くっ、俺も間に挟まりたかった……!


「俺たちが本気を出せばこんなものだ。まさに満点完璧に鍛え上げたから万全だろ!」


 あれだけ厳しい訓練を潜り抜けたのだ! もう俺達に怖い者なんていない!


 男爵だろうが伯爵だろうが王族だろうが! 俺達の鍛え抜かれた礼儀作法で蹂躙してやるよ! もう頂きまで登ってしまったんだよ、礼儀山のな!


「及第点を取るところまで間に合って何よりですー」

「あっ、はい……」


 悲報、まだまだ俺達は登り始めたばかりだった。果てしない礼儀作法山を……。


「さて皆さん、明日は大披露宴になりますー。準備手配などは全て万全に終わっていますのでー、後は無事にやり遂げるだけですー」

「き、緊張するです……!」

「ボクも……」


 メイルもミレスも今から身体を強張らせている。分かるぞ、大勢の人の前に立つのは緊張するよな。俺は二人よりは慣れているが。


 これでも前世は地球の会社員だったので、上司相手にプレゼンした経験もあるからな。今は遠き懐かしき日々だが。


 電車のホームから押し出されたのも今やよい思い出……なわけがない。今なおたまに夢に出てくるぞアレ。やっぱりミクズは許せねぇ絶対に潰す。


 あの殺人事件のおかげで俺が今ここにいるのは事実だが、それはそれとして殺されたことへの復讐はなさねばならぬ。更に言うならあいつは幼いメイルも蹴り飛ばしたりしたからな。


 そういえばそろそろミクズを逃してから二年だ。


「レイラス、ところでな。ミクズの件なんだが……」

「アレなら大披露宴で使いますー。そこで終わりですねー、後はご自由に好きにしてくださいー。約束通りに煮るなり焼くなりどうぞー」

「分かった」

「わ、悪い顔してるのです……」


 メイルが俺の顔を見てドン引きしている。だが彼女の言葉を否定はしない。


 何故なら悪いことをしようとしているからだ。普通の人間になら倫理観でやりづらいことも、ゴミクズ相手ならば気兼ねなく行えるのだから。


 ゴーレム魔法の更なる発展、それにはやはり人体実験が必要な段階に来てしまっている。特に後進を育てるに向けて、ゴーレム魔法の効率的な修行方法発掘のために試したいこともある。


 だが流石に普通の人相手には行えないが……ゴミクズ相手ならばいいだろう。


 俺はあいつに前世に当世の二度も殺されかけたのだ。なら流石に相当なことをし返しても許されるはずだ。


「それにしても大披露宴は楽しみだな」

「よく楽しみにできるのです……メイルは緊張で今晩眠れるか怪しいのです……」

「じゃあ一緒に寝るか?」

「それだと余計に寝れなくなるのです!」


 メイルは顔を真っ赤にして叫ぶ。ミレスが少し顔を赤く染めていて、レイラスはいつもの笑みを絶やさない。


 まだメイルとしか寝れてない。他の二人は仕事が多いので妊娠すると困るからだ。


 ちなみに俺の仕事だったツェペリア領の内政に関してはトゥーン兄貴に押し付けた。なんか悲鳴あげてたけど知らない。


 それにミクズが異世界転生しなければ、トゥーン兄貴が長男になって継ぐはずだったのだ。そういう意味では元鞘とも言えるかも? いや本来の鞘だから本鞘か?


 スリーン兄貴は副領主と元スクラプ領の代官を兼ねている。二人ともちょくちょく俺に手紙を送って、ツェペリア領の現状を報告してくれていた。


 なおトゥーン兄貴はまだツェペリア領を継いでないと言い張っていて、代官を自称しているらしい。まったくムダなあがきをするなぁ。


 俺はもうツェペリア領主の資格はない。レイラスと一緒にライラス領も治める必要があるので、ツェペリア領の面倒だけを見てはいられないのだ。


 領主とは自分の領地のことを第一に考える必要がある。例えば東京都知事が日本のためだからと言って、東京のことを蔑ろにしたらすさまじく文句を言われるだろ? おそらく民衆の心も離れるだろう。


 今の俺はライラス領のことも考えないとダメだからな……無理だ。


「ふふふ、まったく大披露宴が楽しみだなぁ!」


 俺は更に口に出してしまう。


 大披露宴が楽しみな理由は二つある。


 一つ目はゴーレムのお披露目ができることだ。やはり自分の作品を他人に見せびらかすのは心が躍るからな! ゴールデンゴーレムとか反応が楽しみだ!


 二つ目は……レイラスの唇を奪って彼女を俺の物にできることだ。何度でも言うがかつて届かなかった天上の女性を、俺の隣に引きずり落としたような気分なのだ。


 そんな女神を穢すような行為を大衆の面前で行えるのだから、胸が躍らないわけがない! 例えが酷いって? 俺は俗物だからなすまんな!


 そうして明日になり大披露宴の当日となるのだった。



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この主人公、やはり俗物……現代地球でハーレム希望する時点で高尚な人間ではないから仕方ないね。

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