第84話 涙目の盗人エルフ


 エルフ公国は派遣した二人が殺された後、懲りずに再度隠密の者を繰り出した。


 もちろん彼らとて反省を活かす能力はある。前とは色々と異なるタイプの者たちを用意した。以前は男二人だったが今回は男女のペアだ。


 更に以前の二人は戦闘力が高いタイプだったが、今回は暗部としての能力をより高めた凄腕を用意したのだ。


 そんな彼らはリテーナ街のライラス辺境伯屋敷の前にやって来ている。深夜の闇の中でもエルフの目は光り輝いていた。


「あれがライラス辺境伯の屋敷ね」

「人間だけあって愚かな住居だ。自然への敬意が欠片も感じられない。なんて醜いのか……我らの崇高な家を少しは見習えばよいものを」

「下等種族なのだから仕方ないわ。それよりもさっさと仕事を終わらせてしまいましょう」

 

 エルフたちは顔を見合わせて頷く。


 彼らの仕事とはライラス辺境伯やベギラの暗殺、ではない。エルフたちとてゴーレムという天敵だけは脅威と思っている。つまりベギラとその周囲に直接手を下すのはリスクが高い。


 なので自分達の手を汚さずに王家と潰し合わせると決めたのだ。だがそのためには王家に対して支援を行い続ける必要がある。


 いくらエルフでも無限の金を持っているわけではない。つまりは金不足のためにライラス辺境伯屋敷から奪うという発想を思いつく。


 敵を弱体化させつつ自分達の懐が潤う策であった。


「よし行くぞ。《我が身体を風が運べ》」


 エルフたちは屋敷を囲んでいる塀の前で呪文を告げると、彼らの身体が浮き上がって塀を越えて庭へと入り込んだ。


 暗闇の中でも松明を炊いていないため彼らの姿は人間には見えない。


「この屋敷の地下だ。大量の黄金が運ばれたらしいからな」

「さっさと盗んでしまいましょう。人間風情が私たちに気づけるわけもない」


 エルフたちは顔を見合わせ静かに裏口から屋敷に侵入する。


 そして風魔法で空気の流れを読んで、地下部屋の階段へと迷わずに進んでいった。


 更に階段を下りていき地下の倉庫の扉前へとたどり着く。当然だが扉の前には錠がかかっていた。


「人間風情の鍵など私にかかれば余裕……っと」


 女のエルフはピッキングでカチャカチャと錠前をいじると、本物の鍵かのように簡単に錠が開いた。エルフの風魔法で錠前の構造を把握して即座に開いたのだ。


「下等種族などが我らを侵入を防げるわけがないからな。まあ下等種族同士なら通用するのだろうが」


 男のエルフが腕を組んで嘲笑する。


 エルフは手先が器用で俊敏かつ風魔法が扱える。凄まじく恵まれた能力を持っている、盗賊として。盗人ならば誰もが羨む才能だ。


 彼らは扉を開いて倉庫の中に入ると、そこには金や銀のインゴットが山のように積まれていた。更に純金や純銀の人形までもが床に座っている。それを見てエルフたちは大きくため息をついた。


「本当に人間は愚かだなぁ。こんな金など何の役にも立たないというのに。不要な物に踊らされるのは滑稽に過ぎる。流石は人間だ」

「そもそも貨幣なんて不要よ。優秀ならば物々交換で成り立つというのに」

「とは言え人間にとっては大事な石ころだ。盗って王家に渡して……」


 彼らは慢心していた。


 この部屋に見張りがいないと勘違いして油断して気づけなかった。彼らの後ろで立ち上がっていく純金と純銀の人形たちに。


 人間相手と侮らなければ理解できたはずのことに。宝物庫の警備が薄いはずがないということに。


 エルフたちは黄金のインゴットを掴むと、背中に背負った布袋へといれはじめる。そこには黄金に対する蔑みがあった。


「よっと、これで六本目か。これ以上は重いから運べないし一度外に出っ……」


 黄金のインゴットを袋に詰め終えた男は、背後に立っている黄金人形に頭を殴られて床に倒れた。意識を失って気絶している。


「えっ……? は? 黄金のゴーレム……!?」


 エルフの女は倒れた男を見て、ようやく黄金人形――ゴールデンゴーレム――に気づいた。


 まさか黄金のゴーレムなど製造するはずがない、と思い込んでいたのだ。故に座り込んだゴールデンゴーレムを悪趣味な彫像の類と勘違いした。


 更に純銀の人形――シルバーゴーレム――も動き出していて、彼女は二体のゴーレムの間に挟み込まれていた。


「な、舐めるなっ! ただの趣味悪いゴーレムなんかに捕まるわけが……!」


 女は倒れた男を見捨てて扉へと逃げ出していく。だが入ってきた時に比べて動きが鈍い。背中に背負った布袋が黄金のインゴットで重いせいだ。


 それでもゴーレムたちに捕まらずに扉の前にたどり着き、彼女は少しだけ安心した顔を見せた。そして扉を押して開こうとするが……ビクともしない。


「あ、開かない!? なんで!?」


 扉を叩くがやはりビクともしない。その隙にゴーレムたちが迫って来るが、エルフの女は扉から離れてまた逃げ纏い始めた。


「舐めるなっ! ゴーレムなんかに捕まるものかっ!」 

 

 なお扉はいつまで経っても開くことはない。外から鍵をかけられているからだ。


 エルフ女はいずれ力尽きてゴーレムにぶっ飛ばされる運命であった。


「遅いのよ! 人間ごときがエルフをはめても無駄と教えてあげるわ!」


 ゴーレムから距離を取りつつ、何度も扉を開こうと試みるエルフの女であった。


 エルフたちは今なお慢心していたのだ。人間ごときがまともな罠を仕掛けられるわけがないと。


 人間が獣の知能を舐めるが如くに。確かに獣が高等な罠を仕掛けるのは難しい。


 だが人間は獣よりも利口だ。エルフが人間と自分達の頭脳にそこまで差がないことを限り、今後もエルフたちは自滅していくだろう。


 確かにエルフは人間よりも身体能力が高く、また魔法の腕も遥かに優れている。だが頭脳においては大差なく、エルフは長生きだから知識を蓄えている者が多い程度の違いだった。


 




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 エルフ達は侵入が絶対にバレていないという自負があった。人の目では暗闇を視認できないのだからと。


 確かにそれは正しい。人の目では見えない、だが人でなければ見えてしまうということを失念していた。


 エルフたちが塀を乗り越えた時、屋敷の一室で彼らを窓から覗く者達がいた。


「メフィラス殿、実は裏からエルフ共が入って来たのじゃが」

「ご丁寧にありがとうございます。私の方でも特注で造らせた感知式の魔道具に反応がありましてね。地下室に向かうようなのでおびき寄せます。出口を塞げば逃げられませんから」

「そんな魔道具があるのか? 初耳じゃが」

「試作品ですから」


 師匠ゴーレムに目視で発見されている上に、屋敷の防犯設備にも引っかかって見事にバレバレであった。



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エルフたちはベギラを警戒してるのか舐めてるのかはっきりしろ。

実際は人間自体を下等種族と思ってるので、表面上は厄介な敵と言いつつ心の底では舐めプしてますが。

女エルフはたぶん薄い本展開でしょうね(てきとう

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