第81話 抜き打ちテスト?


 俺、メイル、ミレス、そしてレイラスは馬車の席に座っている。


「今日は街で一番高い飲食店を予約しましたー。美味しいですよー」

「へぇ……」


 レイラスがいつものように笑みを浮かべていて怖い。


 彼女は俺達の気晴らしに遊びに行こうと誘ってきたが俺には分かる。これは……礼儀作法抜き打ちテストだ! ゴーレムのコアをかけてもいい!


 考えてもみろ! あのレイラスが遊びに行こうだなんて言うわけがない! 偉い貴族の権化たる彼女だぞ!


 俺達を油断させたところで礼儀作法出来てるか調べる気なんだ! 披露宴で問題なく行えるかを確認するためにな!


 馬車はリテーナ街の中を走っている。どんどんテスト会場へと近づいているのだろう。


 メイルやミレスも緊張した面持ちで顔が強張っている。俺達は「頑張ろう!」とアイコンタクトを送り合った。


 その瞬間、レイラスがメイルの方を向いた。


「メイルさんの衣装、可愛いですねー」

「い、以前にレイラスさんに紹介された服屋の人のおススメです!」


 まずは衣装のチェックか……メイルもミレスもまだ着慣れていない高級ドレスを纏い、俺も装飾の凝った貴族の衣装を着ている。


 以前のようなツェペリア領の少ない予算で買った物ではなく、レイラスのお金を借りて購入したお高い代物だ。更に言うなら超高級な服の良しあしは分からないので、衣服屋の目利きに頼ったやつ。


「ミレスさんもベギラもよくお似合いですよー」

「あ、ありがとうございます! 汚さないようにします!」

「似合ってるならよかった!」


 必死にボロを出さないように言葉を選ぶ。


 すでに精神的に参ってしまったがまだテスト会場についてもないんだよなぁ……そんなことを考えていると馬車が停止した。


 御者をやっていたメフィラスさんが、外から馬車の扉を開いた。


「では外に出ましょうかー」


 レイラスがスカートのすそを少し手であげて、華麗な動作で馬車の外へと出て行く。


 見本を示すからちゃんと真似するようにというテストか……メイル、ミレス頑張れ!


「えっと、両手でスカートのすそを持って……」

「ヒールが動きづらい……」


 メイルもミレスも何とか取り繕って馬車から外に出れた。先ほどのレイラスに比べるとぎこちない動きだが仕方ない。俺もすごく頑張って背筋を伸ばして、以前にメフィラスさんに習った動きで外に出た。


 馬車はいかにも高級な造りの建物の前に止まっている。


「さあ行きましょうかー。ここの料理は美味しいですよー」


 レイラスは笑みを絶やさずに店の中へ入っていく。


 俺達も頑張ってついていき、店員に案内されるがままに貸し切りの部屋へとたどり着いた。


 凄まじく広い。四人どころか、二十人くらい宴会できそうな部屋。そこに長~~~~いテーブルが三つ並べられている。


 その上には大量の皿に贅をつくした料理の数々が盛られていた……。


「どうですかー? これなら思う存分、好きな物を食べれますー」


 レイラスが俺達に対して笑っている。


 なるほど……数々の豪華に見える食事の中から、貴族が選ぶにふさわしい物をチョイスしろってやつか!? 芸〇人格付けチェックか! 


 きっとこの中には外れの食事が混ざっていて、食べたら怒られるタイプのやつか!?


 百を超えるだろう皿を見回す。被っている料理もない上に、どれもこれも豪華で金持ち料理にしか見えない!


「どうしましたー? 好きな物を食べてくださいー、遠慮しなくてよいのですよー? 皆さんのために用意したのですからー」


 レイラスは微笑みながら早く選べと勧めてくる。


 くっ……どの料理が正解だ! いやむしろ外れを見抜いた方がよいのか!? 


 メイルやミレスも部屋を観察して正解の皿を探そうとしている。


「よ、よし! これだ!」

「メイルはこれです!」

「ボクはこれ!」


 俺は豚の丸焼きの皿、メイルは鶏肉のローストが盛りつけられた皿、ミレスはなんか薄い橙色の高給そうなスープの入った皿を選んだ。


 店員の人が俺達がそれぞれ選んだ皿を、小皿に取り分けて俺達に渡してくる。


 豚の丸焼きを切り分けたもの、鶏肉のローストの切り身、そしてスープ皿。よい匂いがするし見た目も悪くない。


 更に店員からフォークやスプーンを受け取って、立食形式なのでそのまま立って食べる。


 もちろん口は閉じたまま。口角や食べている最中の表情にも気を使い、背筋は真っすぐに! フォークでカチャカチャと音を立てない! 疲れる!


 メイルやミレスも必死に食べている。……味は美味しいけど食べるのに疲れてなぁ。


「なるほどー。皆さんの好みがわかりますねー。私も同じ物をもらいましょうかー」


 レイラスは綺麗な仕草でフォークを扱って肉を食べ、スプーンでスープを飲んでいく。


 すごくこなれているのがよく分かる。俺達とはまさに月とスッポンだなぁ!


「さあもっと食べてくださいー。お酒も飲みましょうー、高級なものを取り揃えてますよー」


 レイラスは悪魔の微笑を浮かべている。すごく楽しそうだ、他人のテストって楽しそうだもんな!


 少し酔っぱらった状態でも礼儀を崩さないテストか……ええい、やってやろうじゃないか! 


 俺は葡萄酒の入ったグラスを店員から受け取ると、まずはグラスに鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。そうしてグラスを回してなんか更に匂いを嗅ぐ。


 そして葡萄酒を飲んでいくのだった。




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 超高級晩餐会は何とかやらかしもなく終了。


 俺達は馬車で帰って屋敷の前に戻っていた。


「よいお食事会でしたねー」


 レイラスは笑っているがいつもに比べて少し機嫌がよさそうに見える。


 これは抜き打ちテストを完璧にクリアしたということだろう!


「つ、疲れた……レイラス、俺達の礼儀マナーはどうだった? いきなりので驚いたけど問題なかっただろ?」


 何気なく告げた一言だった。


 その言葉にレイラスは一瞬だけ驚いた表情になったが、すぐにまた張り付いた笑みを浮かべた。

 

「…………ええ。よかったですよ。これなら大披露宴でも問題ないでしょう。私も試験をした甲斐がありました。今日は疲れましたので失礼しますね」


 レイラスはそう言い残すと俺達から背を向けて屋敷へ入っていく。


 その背中は普段に比べて寂しそうに感じた。いつも感情が分かりづらい彼女なのにだ。


 ……もしかして本当にただ食事に誘っていただけだったのか? それを俺達はテストと勘違いして……最悪だ、レイラスの気持ちをムダにしてしまった。


 謝罪したところで彼女に追いうちをかけるだけ。となると俺達の出来ることは……。


「なあメイル、ミレス。ちょっと手伝って欲しいんだが」

「協力するです。メイルも完全に勘違いしてましたし」

「ボクも。それで何をやるのかな? だいたい予想つくけど」


 メイルもミレスも頷いてくれたので、俺は高らかに宣言することにした。


「改めてお食事会をするぞ! 招待を受けたなら返さないとな!」


 レイラス風にもてなされたのなら今度は俺達風にもてなし返す! それで今度は全員で楽しむんだ!

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