第80話 エルフ公国の宣言


 俺達はレイラスに屋敷の執務室に集められた。


 そうして呼び寄せた張本人は椅子に座ってため息をついている。


 彼女の手にあるのは一枚の手紙だ。


「全員集まりましたねー。とうとうエルフ公国が重い腰を上げたようですー」

「こないだも俺達を暗殺仕掛けて来たが」

「裏工作ではなくて、一応は大々的に動いてきたという意味です。この手紙は他領へ向けてエルフ公国から届いた手紙なのですがー、中身を見てくださいー」


 レイラスから手紙を受け取って文章を見る。


 ――エルフ公国が命じる。王家についてライラス領を攻めろ。人間たちよ、我らに逆らうということは滅びを意味すると知れ。


 ……なんじゃこりゃ。ここまで上から目線とか王家でもやるか怪しいレベルだぞ。


「この手紙を受け取った貴族が、すぐに私に送ってくれましたー。流石はエルフですねー、人間を見下すにもほどがある」

「まあエルフが高慢なのは有名な話だからね……でも、これに従う貴族も出るかもしれないよ?」


 ミレスが俺の横から手紙の文を覗きながら呟く。


 普通ならばこんな手紙に従う者なんていない。だが送り主がエルフ公国であるというのは無視できないことでもある。


 エルフは人間よりも魔法や剣は強いので、そんな彼らが集まっているエルフ公国も強い国家ではある。そんな強い国家が王家を推すとなれば、このバカげた手紙に従う貴族たちも現れる恐れがある。


 後は純粋にライラス領が不利になると予想する貴族も出てくるやも。なにせ俺達は東西北に敵を抱えているのだから。


 俺達についた貴族たちもまた敵を多く持つことになる。対して王家につけばエルフも味方になるからな……今度は俺達が敵になるけど。


「エルフが強いのは有名なのです」

「でしょうねー。ですがこの手紙が酷いのもあって、すぐにエルフにつく貴族はそういないでしょうー」


 俺もそう思う。


 いくらエルフが高慢と知っていても、こんな手紙もらって喜ぶ奴はいないだろう。貴族ともなれば大抵がプライドが高いのでなおさらだ。


「ですがこの手紙が送られてきたことは意味がありますー。きっと周辺貴族は王家と私たちをまた秤にかけるでしょうー。どちらにつけば勝ち組につけるかとー」

「せっかく王家派を追い詰めたのに……」


 これでもし周辺貴族がまた王家派についたら、せっかく俺達に傾いた趨勢がまた覆ってしまう。本当にエルフはロクなことしないな……!


「嫌らしいことをしてきますねー。とはいえやることは変わりませんがー。周辺貴族は必ず大披露宴に参加してきますー。そこで私たちの力を見せつければ問題ありませんー」


 ライラスはニコリと微笑んできた。


 彼女の言う通りだ。すでに貴族はほぼ俺達につくはずだったのを、再度交渉などで寝返らせればよいだけか。


 大披露宴が実質出来レースだったのが、しっかり審美される場になったに過ぎない。


「それに大丈夫ですー。私には周辺貴族を説得する切り札がありますからー」

「切り札? いったい何を用意したんだ?」

「内緒ですー。切り札は披露宴の場には相応しくないので、終わった後に披露する予定ですー」


 披露宴に場に相応しくない切り札とはいったい……。


 というか俺のゴールデンゴーレムやスノウゴーレムでも勝てないレベルなのだろうか? 


「それほどの豪華な代物、早々手に入らないと思うが。ヒントだけでも教えて欲しいんだけど」

「ふふふ、あなたが私に下さったモノですよ」

「??? 馬車ゴーレムか?」

「違いますー。それと切り札披露時に貴方達は他の場所に出向いてもらいます。他にやって欲しいことがありますのでー」


 ??? 俺がレイラスに渡したものでそんな高価なものなんてあったか?


 今までに彼女に渡したことのあるもの……工事用のゴーレムと馬車ゴーレムくらいだよな? ゴールデンゴーレムとスノウゴーレムはカウントしないのだし。


 あっ、わかったぞ!


「レイラス、師匠を貴族たちの前で魔物と戦わせるつもりだな!」

「違います。そもそもあなたの師匠を貰いうけた記憶はないのですがー」


 言われてみればそりゃそうだな……そもそも師匠は俺のモノじゃないし。


 マジで分からん。俺がレイラスに渡したもので、貴族に対して俺達の力を知らしめる……心当たりがまるでない。


 ふとメイルとミレスに視線を向けるが彼女らも首を横に振った。


 そんな俺達にレイラスは優しい笑みを向けてくる。


「皆さんはそれでよいのですー。それは皆さまにとって弱点ですが、武器にもなりますからー。誠実というのは清いものですー」

「「「???」」」


 俺達が首をひねるとレイラスは愉快そうに笑うのだった。


 いや本当に何なんだろうな、切り札って……レイラスは教えてくれそうにないが。


「さて。では引き続きやるべきことをやりましょうー。大披露宴に向けて礼儀作法を覚えてくださいー」

「うっ……」

「ま、まだ高級なお菓子を毎朝食べるのです!? もうメイル辛いです! こないだ間違えてお菓子を落としてしまったので拾おうとしたら、怒られて捨てられてしまったのです!」

「ボクも……なんかこう。高い商品を食べてる感じで全く落ち着かない……」


 俺もメイルもミレスも訓練に参っていた。


 急に生活環境が変わり過ぎるとよくないんだなって……。


 それを見ていたレイラスは手をポンと叩いた。


「どうやら皆さんお疲れのようでー。でしたら気分転換にー、明日は少しお買い物に行きましょうかー」


 レイラスはすごく楽しそうに笑うのだった。俺達は背筋が凍る、絶対に何か裏があるんだろうなぁ……。





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 ベギラ達が解散した日の夜。


 レイラスは私室のクローゼットから色々と服など取り出して選んでいた。


「初めて皆さんと遊びに行くのでー。綺麗な服を選びたいものですねー。どこに行けば喜んでもらえるでしょうかー。なるべく高い店の方が喜んでもらえますよねー」


 実はレイラスは善意百パーセントで遊びに行こうと提案したのだが、ベギラたちには全く通じてなかったのであった。



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エルフ公国が敵対宣言したぞ! だから何だって話ですよね(

それとレイラスは普段の行いって大事ですよね。

次回から四話くらいレイラス回です。


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