第79話 俺達の意識改革!? 


 黄金の用意をした翌日の朝。レイラス屋敷の地下、宝物庫の間。


 そこには黄金のインゴットが山のように積み上げられている。高さは俺の身長ほどある……。


 レイラスが手配して集めてくれた金の延べ棒の山なのだが……あまりの光景に俺達は圧倒されていた。


「す、すげぇ……」

「すごいのです……」

「商人の夢だよこれ……」


 俺もメイルもミレスも現実を忘れさせる黄金の輝きに、夢心地になっている。

 

 まさに黄金郷はここにあったのだ……。


「これで足りますかー?」


 圧倒されている俺達に対して、レイラスはいつもの笑みを絶やさない。これだけの金を集めたというのに驕りもない!?


「こ、これが大金持ちと平民の『格』の差……!」

「レイラス様すごいのです……」

「こんな人に勝てるわけないよね……」

「貴方達も貴族とその妻のはずなのですがー。他の貴族に圧を与えるための黄金で、貴方達が圧倒されてどうするのですー?」


 レイラスは黄金インゴットの山の一番上に置かれたものを、両手で重そうに手に取った。


 俺達平民の視線は彼女の持つインゴットに吸い寄せられていく。


 手に持ったインゴットを俺達に差し出しながら、レイラスはニコリと微笑んできた。


「……もし何でも言うことを聞くなら、一本差し上げてもよいのですがー」

「何なりとお申し付けください、ライラス辺境伯!」

「め、メイルも何でもするです!」

「ぼ、ボクも!」


 俺達は即座に魂を売った。いやだって黄金のインゴットだぞ!? くれるなら大抵のことはこなすぞ!?


 ライラス辺境伯はそんな俺達を冷ややかな目で見つめてくる。す、すごく冷たい笑顔だ怖い……。


「ベギラ、貴方は私の夫です。メイルさんとミレスさんはその妻です。こんなインゴット一本で動揺されては困るのですー。いや冗談抜きで困ります」

「「「すみません……」」」


 俺達は素直に頭を下げた。


 レイラスはインゴットが重かったのか、元の場所ではなくて黄金の山の横に無造作に置いた。高く並ぶ山の横に一段だけの黄金インゴット、なんか違和感出て気持ち悪い。


「黄金のインゴット一本くらい、そこらの領主でも用意出来うるものです」

「「「えっ?」」」


 また俺達は一斉に声を上げてしまった。


 おかしい、ツェペリア領にとてもそんな余裕はなかったはずなのだが……俺達はそこらの領主ではないはずなのに。


「はぁ……よろしい。ではしばらく特別に豪華な暮らしをしてもらいますー。流石にこの程度で動揺しないようには」


 レイラスが手をパンと叩いて、俺達の意識改革の暮らしが始まるのだった。





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 俺達は宝物庫から食堂へ移動した。


 朝食を食べるためなのだが……食卓に並んでいるのはいつもの肉などではなかった。


「う、嘘だろ……?」

「こ、こんなご馳走見たことがないのです……」

「これ今から食べるの……?」


 俺達はテーブルの上の皿に盛られた食べ物に圧倒されていた。


 そこにあったのはスイーツたち。バターを塗りたくったケーキ、砂糖をまぶしたクッキー、同じく砂糖をまぶしたパンにレーズン混ぜたのとかマカロンっぽいのとか……。


 地球とは違ってこの世界では砂糖はものすごく高価だ。砂糖を使ったお菓子は貴族の食べ物で、平民にとって甘味とは果物から得るもの。


 俺がこの世界に転生してきてから八年以上経つが、砂糖などまともに口にしたことがない。甘い香りがあまりにも久しぶり過ぎて……。


「よい匂いですねー。では席について頂きましょうか」

「い、頂いてよいです!? メイルたちには不相応だと思うのですが!?」

「ぼ、ボクもちょっと……」

「そこまで驚かれると本当に困るのですがー。大披露宴本番だともっと豪華なモノを出すのですがー……」


 すまんメイル、ミレス。俺の稼ぎが少ないばかりに……今までお前たちに貴族らしい生活をさせてやれていなかった……!

 

 ここは俺が見本を示さなければならない! 地球にて数々の甘味を味わって来た俺が! 


 臆するな! 地球で百円で買えるケーキは! この世界での超高級品だっ!


 俺は勢いよく席に座る。そしてテーブルに置いてある包丁を手に取って、ホールになってるケーキを切り分け……。


「ベギラ様、ご自身でケーキを切られては困ります。何のために私がいると思っていらっしゃるのですか?」


 包丁を手に取ろうとしたところで、メフィラスさんに止められてしまった。


 すみません、菓子に圧倒されてそもそも存在に気づいてなかったです。


 俺達は何とか席について、朝から甘い食べ物を貪っていく。


「あー、甘い。やっぱり砂糖はいいなぁ」

「こ、こんな美味しい物があったなんてです……」

「砂糖が高く売れる理由が分かるよ……」


 メイルとミレスが感激しながらクッキーを食べている。


 俺も久々の甘味に舌鼓をうちながらケーキを食べていく。バタークリームなのが少しくどいがやはり甘いは正義だなぁ。


 ところでレイラスがさっきから俺達の様子をガン見して来るのだが……。


 そうして食べ終わった後、レイラスがニコリと微笑みかけてくる。


「……ベギラはひとまず合格としましょう。メイルとミレスさんはもうしばらく甘い物を食べてください」

「「えっ?」」

「仮にも私の夫の妻たちが、普通の甘いお菓子に骨抜きにされるのは困るのですー。舌を慣らして頂かないとー」


 メイルとミレスはしばらくの間、毎朝お菓子を食べることになるのだった。


 頑張れ二人とも。俺も草葉の陰から応援を。


「ベギラ様。貴方は貴族としての礼儀作法をみっちりお教えいたします」


 メフィラスさんが俺の肩に手を置いてきたのだった……。




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ベギラとメイルは平民に毛の生えた程度、ミレスに至っては貴族の作法ほぼ知らないですからね。

ド貧乏のツェペリア領ならともかく、超上級のライラス領では通用しないのでこうなるのは必然だった。

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