第78話 ゴールデンとかどうですか?
ライラス辺境伯ことレイラスが大披露宴に向けて頑張っているのだ。
俺もスノウゴーレムだけで満足してはダメだ。他にも貴族たちに見せつけられるモノを用意しないと。
そんなわけで俺はレイラスの屋敷に与えられた私室。そこのベッドの上に座って昼間から頭を悩ませていた。
「あなた、すごく悩んでますね」
細工の凝った紫色のネグリジェ姿のメイルが、ベッドに寝転びながら俺の方を見てくる。今までの質素な下着ではなくて上等な物をレイラスから与えられたようだ。
……もうメイド姿のメイルは見れないのかなぁ、と思うと少し寂しいところもある。彼女は常にメイド服がコスチュームだったからな。
しかも俺の自宅ももうこの屋敷。思えば遠いところまで来たものだ……などと懐かしむ時間はない!
俺はまだまだやることがあるからな! 王家ぶっ倒して安定したハーレムライフを築き上げるためにも! ここで妥協はナンセンスだ!
「なあメイル。貴族たちが見るだけで涎を垂らして欲しがるようなよいモノはないかな?」
「貴族様はお金持ちなのです。メイルが欲しいモノなんてほぼ全部持ってるので分からないです……」
「そうだよなー……ちなみにほぼと言ったが、持ってないモノもあるのか?」
言ったら悪いが今までのメイルは、とてもよい暮らしをしてきたとは言えない。俺自身がそこまで金に余裕がなかったし、それはツェペリア領に戻ってからも同様だ。
そんな彼女なのに、貴族が得られないモノがあるのだろうか?
メイルは俺の問いに少し俯いた後、顔を少し赤らめながら。
「あ、あなたです……。他の貴族令嬢の方は持ってないのです……」
「…………」
やばい、なんかこうクルものがある。このままメイルを押し倒したくなる……!
「すーはーすーはー……ほ、他にはあるか!?」
「な、ないのです!? メイルの持っている自慢できるモノはそれくらいです!?」
「なるほど!? じゃあメイルが欲しいモノはなんだ!?」
「金貨です!?」
「生々しいな!?」
俺とメイルは声を少し荒げながら話し合う。いかん落ち着け、このままでは誰かの思うつぼだぞたぶん。
メイルの欲しいモノは金貨かー……そりゃ誰でも欲しいよな。金自体がすごく価値があって綺麗だし絶対に役に立つ代物なのだから。
お金持ちのレイラスですら金貨の山を不要だとは言わないだろう。
「金貨はみんな欲しいだろうよな。でも流石に金貨の山を大披露宴で見せびらかしても、ただの業突く張りの自慢にしか見えないからなぁ……」
「ですよねぇ……メイルも金貨の山を見せびらかされてもドン引きなのです」
メイルも小さく頷いた。
金貨の山を見せびらかして自慢する者、人はそれを成金と言うだろう。
確かに金貨の山を用意すれば、ライラス領の財政の自慢は可能かもしれない。
だがいくら財力を見せびらかせると言っても、そのまま金貨の山を出してもドン引きされる。金にがめついとかでむしろ立つのは悪評だ。
「黄金自体は本来綺麗でよいモノなんだけどなぁ……金閣寺とか黄金の茶室とか……」
黄金は芸術品にも使われるからよいモノのはずなのだ。
金閣寺も黄金の茶室も権力を見せつけるのに持ってこいだっただろう。
ただ金貨そのまま見せても無意味だ。文字通りの現金をポンと見せられても、人は綺麗だとか感じる前に悪感情が前に出てしまう。
金細工の食器とかならむしろ賞賛されそうなのにな。俺ならゴーレム魔法で製造できるが……インパクトに欠けるよなぁ。
良い線言ってる気はするのだが、と頭を悩ましているとメイルが冗談交じりに口を開いた。
「いっそゴールデンゴーレムでも造ればいいのです。逆に清々しくて受けるかも」
「それだ」
俺はメイルに思わずうなずいてしまう。
ゴールデンゴーレム、動く金の像。いや黄金でなくても銀などでもよい。
人サイズの高価な金属が動くさまは、人の欲望を刺激するはずだ! 更にそれほどの黄金を用意するとは……と財力を見せびらかせる!
そして何より……大披露宴が終わった後にゴーレム魔法を解除すればただの黄金の塊だ! 黄金自体に価値があるので、集める費用はかかるが損もない!
というか何より俺が造りたい! 黄金のゴーレムだぞ!? なんか勝った気がするじゃん、こう人生か何かに。
「よし! レイラスにゴールデンゴーレム製造の許可をもらいに行くぞ!」
「正気です!? そんなの無理です!」
「成せば成る! 行くぞぉ!」
俺はメイルの手を握って、レイラスの執務室へと向かった。
「そういうわけで黄金が欲しい」
「……相変わらずあなたの発想は派手ですねー」
俺は椅子に座っているレイラスに対してお願いする。
ライラス領の財政は彼女が握っているからな。俺ではゴールデンゴーレムを製造できるほどの黄金は用意できない。
黄金の象徴を造って権力を見せつける。これ自体はよい線いってると思うんだよ。日本でも何度も事例があるくらいだし。
レイラスは少し悩んだ後に。
「そうですねー……ゴーレムを黄金で造るのですよねー?」
「その予定だ。ゴーレム魔法で製造すれば手間もかからないからな」
「なら形状は人型のゴーレムですよねー?」
「希望があればレイラスの彫像にもできるが」
「やめてください」
微笑みながら食い気味で拒否してくるレイラスは目が笑ってなかった。
流石に黄金の彫像のモデルにされるのは嫌らしい。俺も嫌だ。
「ライラス領の力を見せつけつつ、ゴーレム魔法を重用していく宣言になりますねー。エルフと相対するならゴーレム魔法の地位向上は急務……流石はベギラ、そこまで考えていたのですねー」
「ふっ……」
俺は意味深な笑みを浮かべた。
いやゴーレム魔法の地位向上なんて、欠片足りとも考えてませんでしたが? 純粋に黄金のゴーレムとか格好良くね? レベルですが?
「レイラスさん。この人はそこまで考えてないです。力を見せつけるところまでです」
「あらあらー。ですが案としては上々だと思いますよー。黄金は集めますのでゴールデンゴーレムを造ってくださいー」
「任せてくれ! 何としても凄いのを造るから!」
俺はガッツポーズをしながら高らかに宣言する。
だがレイラスは笑いながら首を横に振った。
「いえ普通ののっぺらゴーレムでいいですー。あなたの好き勝手は予想できなくて怖いのでー」
「はい……」
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レイラスからしたら、ベギラは予想できないことしでかすので怖い。
でもだいたい彼の予想だにしないことはよい結果をもたらすので、ある程度は好きにやらせようスタイル。
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