第76話 ゴーレム軍編成開始
「え? ゴーレム軍を編成して欲しいだって?」
「はいー。エルフが攻めてくる可能性はゼロではないのでー、備えをしておきたいのですー」
俺はライラス辺境伯屋敷の執務室に呼び出されて、ライラス辺境伯から話を聞いていた。
「なるほど。ライラス辺境伯はやはりエルフ公国を強敵と見るか」
「こら、ベギラ。私はレイラスと呼ぶように言ったはずですー。私の名前はレイラス・シルヴィア・ライラス。いつまでも妻の名前を俗称で呼ばないでください、貴方は私の夫なのですよー?」
ライラス辺境伯……じゃなくてレイラスはひとさし指を立てて、片目をウインクして注意してくる。
うっ、可愛い……これ絶対狙ってるポーズだと思う。でも可愛い……なんか負けた気分。
彼女のことずーっとライラス辺境伯と言い続けたから、もうこのまま呼び続けようかなと思ってたら先日注意されてしまった。俺が悪い。
「これからは気をつけるよ、レイラス」
「わかればよろしいですー。それで改めましてゴーレム軍の編成をお願いしたいですー。具体的には後進のゴーレム魔法使いを育てつつ、ゴーレムの数を揃えて欲しいですー」
レイラス辺境伯じゃなかった、レイラスは笑顔でお願いして来る。
……ようは俺がツェペリア領でやろうとしたことだな。それを更に本格的に推し進めて欲しいと言われていると。
「ただなぁ。思ったより魔法使いが応募してくれないぞ? ツェペリア領でも募集したけどまともな奴が来なかった」
レーリア国でゴーレム魔法使いは最低の評判を受けている。
そのためにゴーレム魔法使いになりませんかと募集かけても、まともな魔法使いは応募してこないのである。やって来るのはロクに魔力を持ってなくて、流石に使い物にならないレベルばかりだ。
具体的には全魔力振り絞ってマッチ程度の火を灯せるレベル。それは流石に無理だ、魔力増やす修行しても無理。
なので未だに我が国のゴーレム魔法使いはオンリースリーである。いやオンリーツーか、師匠は魔法使えないし。
「ゴーレム魔法の有益性とか示したんだけどな。どうやらまだダメみたいで」
「可愛い方法ですね、ベギラ。貴方に貴族のやり方というのをお教えしましょうー」
「貴族のやり方?」
俺も一応はツェペリア領主として頑張ってきたんだけどな。レイラスの智謀をもってすればよい方法があるのだろうか。
首をひねっているとライラス辺境伯はニコリと笑って来た。
「人が希望してこない仕事に人材を集めるのは簡単なのですー。金貨ばら撒けば大抵のことは何とかなります」
「ただの力技!?」
「貴族ですからー。ゴリ押せるところはゴリ押しますよー。ベギラもお金の使い方を覚えてくださいねー?」
な、なるほど。
確かに俺は今まで金に余裕があったことはないからなぁ……。元々は衛兵上がりな上に、領主になってからもツェペリア領は常に金不足で困っていた。
札束で殴るというような発想は頭の中から完全に消えていた。だが今後は色々と考える必要がありそうだな。
……金貨ばら撒き勿体ないなぁって思ってしまうから向いてなさそうだが。
レイラスは二本の指を立てた。
「ゴーレム魔法使いの給金は通常の魔法使いの二倍出します」
「に、二倍!? 魔法使い自体が高給取りなのに!?」
「最初の内はそうしないと雇われてくれないでしょうからー。いずれ少しずつ落としていきますよー」
に、二倍……魔法使いはかなり給金が高い。
貴族でも魔法使いを常時雇っている家はそこまで多くなく、戦争の時に一時的に傭兵として雇用することが多いくらいだ。
そんなただでさえ高い魔法使いを、更に二倍の給与で雇うとかヤバイ……何なら俺が雇われたかった……。
たぶんその給金でハーレムを維持できるくらい稼げるぞ……。
「それとツェペリア領に俺の愛弟子がいるぞ。ゴーレム魔法もそこそこ扱える」
「フレイアさんですよね? すぐ呼び寄せてくださいー。それと……その少女は絶対に逃がさないでくださいねー。寝取ってしまってよいので」
「寝取る」
「ええ。一緒に寝てしまえば王家派につくことはないでしょうー」
レイラスは俺に可愛らしい笑顔を向けてくるが……寝取るの意味、違うくない?
俺をからかってるのだろうか。いや彼女の表情からは全然読み取れないから分からん……。
「ようはフレイアさんも貴方のハーレムに囲ってしまいなさいー。そうすればお給金も安く済みますしー、信用できる優秀なゴーレム魔法使いを得れます」
「ひ、ひどくない……?」
「なんで酷いのですかー? 政略結婚みたいなものと思うのですがー? 貴族たるもの恩恵を考えて婚姻相手を選ぶはずですしー。貴方が私の隣にいるのもそういうことですよねー?」
俺は即座にレイラスからそっぽを向いた。
い、言えない……色々と言い訳つけたけど、結局可愛いから妻にしたいのが一番大きい理由だなんて。
「どうしましたー? まさか純粋に好きだったから妻にしたわけでもないでしょうー?」
「…………実はそうなんだ。俺はレイラスに憧れて、妻にしたかったから頑張った……」
「あらあらー……嬉しいお世辞を言ってくれますね。お世辞でも嬉しいですよ、では魔法使いが応募してきたら教えつつ、ゴーレム軍の編成をお願いしますね、フレイアさんもすぐに呼び寄せてください、お願いしますね、では私はちょっと野暮用があるので失礼します」
レイラスは普段より早口で矢継ぎ早に話すと、普段より早歩きで執務室から出て行ってしまった。
……なんで呼び寄せた側の彼女が自分の執務室から失礼するんだ。
まさかとは思うが俺が好きだと言ったことに動揺した? いやそんなはずはないか、あのレイラスに限ってそんな乙女チックなことは。
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レイラスは執務室から出て私室に戻ると、ベッドにある枕に顔をうずめた。
「~~~~~っ! まさかベギラ、私のことを本当に好いて婚姻を申し込んできたの!? それだとあの時の交渉は、ただツェペリア領とライラス領の今後の話だけじゃなくて、ベギラの意思も混ざってて……!?」
彼女にとって婚姻とは手札。色恋沙汰や私情は抜きのものだった。
なのであの時のベギラとの話し合いは、純粋に商売の交渉のように行っていた。なのでベギラの方も当然そうだと思っていた。
そこに実は恋心が混ざっていたと言われれば、彼女にとってそれは大きな計算外だった。
「わ、私が貴族令嬢の間で盛り上がる恋話みたいなことになってるの!? そんなはずは……!」
彼女はしばらくもだえ苦しみ、落ち着いて部屋の外に出られたのは三十分後であった。
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知将というより恥将になってる。前話の威厳はどこへ?
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