第74話 捕らえたエルフたち


「それで……お前たちは何で俺を襲ったんだ?」

「「…………」」


 リテーナ街の地下牢。


 俺は牢に入れられたエルフたちに対して、檻ごしに話しかけていた。


 こいつらはあの魑魅魍魎ゴーレム軍を襲って来たのだ。ただの通りすがりの盗賊であるはずがない。どう考えても何かしらの目的があった。


 だがエルフたちは俺を見下すように睨んでいた。


「黙れ下等種族。貴様らに話すことなどない」

「さっさと我らを解放しろ。人間風情がエルフを捕縛するなどおこがましいにもほどがある!」


 こいつら自分の立場分かっているのだろうか?


 俺の胸先三寸でこいつらを処刑できるというのに。仮にも人間を下等種族とか言うなら自分の立場くらい理解して欲しい。


「なんだその態度は。言っておくが俺はお前らを処刑できる立場なんだぞ」

「下等種族の人間ごときが我らエルフを処刑? 冗談ですら口にしてよいことではないぞ!」

「人間風情が!」


 あ、ダメだ。こいつらまるで話にならない。

 

 実際のところ、冗談抜きでこいつらを処刑するのは妥当だ。何せ俺はライラス辺境伯の婚姻相手にして、ツェペリア領主でもあるのだから。


 そんな俺を襲った盗賊など見せしめに公開処刑が妥当な判決だ。とはいえ……エルフが俺を襲って来たというのが不気味だ。


 何かしらの情報を仕入れてから処分したい。


「頼むから目的を話してくれ。俺が優しい間に話した方が身のためだぞ」

「くどい! 貴様こそさっさと死ね! さもなくば貴様の妻も含めて全員を我らエルフが皆殺し……」

「あ゛?」


 こいつら今なんて言った? 俺の妻を殺す? 


 メイルやミレス、それにライラス辺境伯を殺すと言ったか? 


『弟子よ、落ち着くがいい。こやつ等から情報を聞き出すならばワシに任せよ』

「師匠、何か策があるのですか?」


 俺の護衛をしてくれているアイアン師匠ゴーレムが、腕を組みながらエルフたちに顔を向けている。


『ゴーレム魔法で聞きだせばよい』

「……いやどうしろと」


 師匠、ゴーレム魔法は万能ではないのですよ。

 

 そもそも生きている者にはゴーレム魔法は効果がない。だが師匠は首を横に振った。


『弟子よ、ワシはゴーレムだ』

「ゴーレムですね」


 師匠は自分を指さして当たり前のことを言い出した。


『主人を設定したゴーレムは言うことを聞かせられる』

「……あっ。ま、まさか……」


 俺は師匠の言葉の意味を理解して身震いした。


 考えて欲しい。師匠は人間からゴーレムになった。


 そして本来ならゴーレムは作成時に主人を設定する。つまりこの二つの理屈から成り立つことは……。


『エルフよ、聞くがいい。貴様らをゴーレムにして、無理やり喋らせることもできるのだぞ』


 師匠はエルフたちに対して冷酷な事実を突き付けた。


 エルフたちは少し驚いた顔をしていたが、すぐに馬鹿にしたような笑いを浮かべた。


「何を言うかと思えば。ゴーレム魔法は生物にはかけられない。そんなことも知らぬとはやはり人間は下等種族よ」

「愚かの極みだ」


 彼らは明らかに俺達を見下す笑いを浮かべている。やはりこいつらバカだろう。


『では聞くが。貴様ら、ワシが何者か分かるのか? その上位種を名乗る頭で答えてみよ』 

「どうせ中に人が入っているなどだろう!」

「我らを謀ろうとしてもそうはいかん! 我らエルフは貴様ら下等種族の考えなどお見通しだ! ゴーレム魔法は生物には使えぬ、それは絶対の法則だからな! そこから逆算すれば答えはおのずと出る!」


 エルフたちはゴーレム師匠を睨んだ。


 ヒートアップしているせいか、彼らはどんどんと口が軽くなってくれていた。


 こいつらゴーレムに詳しすぎるぞ。そして俺を殺そうとしたこともある……まさか本当にゴーレム魔法の使い手を消したかったのか?


 師匠が先日述べたゴーレム魔法根絶の仮説は、話した本人すらも眉唾ものだったのに……よしもっと煽ろう。


「え、じゃあなに? お前らは鉄の着ぐるみ纏った人間に負けたの? 流石自称上位種族様は違うなぁ」

「「き、貴様ぁ!!!!」」


 顔真っ赤にして激怒して檻に両手を叩きつけるエルフたち。


 いいぞもっと怒れ。無駄にプライド高い奴らだからそのうちぼろを出す。


『弟子よ、言ってやるな。こやつ等はワシが今まで戦った中で最も弱かったぞ』

「黙れ! それは相性の差だ! 全身鉄で纏ったゴーレムみたいな者は、我らにとって相性が最悪だっただけだ! そもそもそれは嘘だろう!」

『嘘ではない』


 師匠の淡々とした呟きにエルフたちは激高する。


 ちなみに師匠は全く嘘をついてない。そもそも彼がゴーレムになってから、初めて戦ったのがこいつらだからだ。


「師匠、実はこいつら何も知らないんじゃないですか? 無知だけどそれっぽく言ってるだけで、ただの使いパシリの切り捨て要員では?」

『む、確かにそうだな。こやつ等の弱さを鑑みればそれが妥当か。もっと強敵を期待したのにこれじゃからなぁ……』


 俺の煽りに対して師匠は本気で落ち込んだように呟く。


 ……いやこれ本当にガッカリしてるっぽいな。もっと強敵と戦って自分のスペックを試したかったのだろう。


 お、エルフたちはもはや顔面が破裂しそうなくらいに真っ赤になってる。


「図に乗るなよ人間! 貴様らが過去に我らに勝ったのは、ゴーレム魔法と我らの相性が最悪だったからだっ!」

「お、おいよせ……」


 とうとうエルフの片方が我慢の限界に来たようだ。もうひとりが口止めしようとするがもう遅い!


「下等種族め! 貴様らはもうゴーレム魔法を使える者はほぼ残っていない! 我らエルフが全ての書物を燃やし、使える者を滅ぼしたからだ! そんなことすら知らない下等種族が、我らに偉そうなことを言える立場か! 身のほどを知れっ!」


 ……なに? エルフがゴーレム魔法使いを滅ぼした?

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