第71話 招待手紙を送ろう


 御者から盗賊が出たと悲鳴があがったので、スノウゴーレムに命令して戦わせようかと馬車の窓から外を覗いた。


 そこにはゴーレム師匠が盗賊を足蹴にしている姿。知ってた。


 自動車の馬力に獣の敏捷性が備わった師匠はチートだからな……たかが盗賊風情どころか、王家の騎士団が相手でも圧勝しかねない。


「メイル、どうやら盗賊は撃退したようだ。ただ念のためにまだ馬車の中にいてくれ」

「ぼ、坊ちゃまはどうするです!?」

「ちょっと盗賊の面を拝んでくる。それともう坊ちゃまじゃないだろ?」


 俺はメイルを安心させるために笑った後、扉を開いて馬車の外に出た。


「師匠、お疲れ様です。そいつら何か言ってました? この馬車を襲うなんて正気の沙汰じゃないですよ」


 後ろに無数の百鬼夜行スノウゴーレム、更に爆走する師匠が側にいる馬車だ。


 何か大きな目的でもなければ、魑魅魍魎すら避けて通りそうな俺達の前に立ちふさがるはずがない。


『うむ! こ奴らはゴーレム魔法を根絶をもくろむ者達! 我が弟子がゴーレム魔法を広めるのを嫌悪しているため、その芽である弟子を殺すために来た! というのはどうじゃ?』

「師匠、流石に無理があります」

『やっぱりダメかのう。いやこやつらな、ワシの動きに対して気持ち悪いみたいな視線をぶつけて来たのじゃ! こやつらはゴーレムを憎悪しておるに決まっている!』


 空中バク転するアイアンゴーレムを見れば、むしろ普通の感覚だと思います。


 のびて倒れている盗賊たちは耳が長くとんがっている。ということは北のエルフ公国の者だろう。


 エルフ族、それは数より質を最重視する者達。実際エルフ公国はレーリア国と国土の広さは変わらないが、人口は五千人程度しかいない。


 レーリア国は最低でも五万人以上はいるので、エルフ公国の人口は我が国に比べて物凄く少ない。


 だがエルフ族は各個人が人間に比べて優秀だ。全員が優れた弓の名手である上に風魔法を操る魔法使い。更に長寿で五百年以上生きる。


 彼らは「エルフが人間より劣るのは純粋な腕力だけ。我らはより上位種だ」とまで言うほどだ。


 そんなエルフが盗賊に身をやつすわけもなく……彼らは俺を狙っていたのだろう。


 そうなると理由は……。


「王家に雇われたと思うのが妥当でしょう。ライラス辺境伯と俺が婚約したとなれば、最も困るのは王家なので」

『やはりそうかのう。しかしこのエルフ共、ワシを明らかに毛嫌いしておったぞ』

「そもそもです。この国の人の大半はゴーレムによい感情を持ってませんよ?」

『ぐぬぬ……やはりこの世界は間違っておる!』


 師匠は空に向かって吠えるのだった。


 こうしてこの二人のエルフを捕縛して馬車に詰め込み、俺達はライラス辺境伯の屋敷に帰還した。


 スノウゴーレムは屋敷の庭で待機させることになった。庭は雪まつり顔負けの風情になってしまった。


 そして晩飯の時間にみんな集まって席に着いたので、盗賊に襲われたことの顛末を話すと。


「べ、ベギラ! 怪我はしてないの!?」

「ゴーレム師匠が無双したからな」

「普通に考えれば王家が暗殺を仕掛けて来たのでしょうねー。少し気になることもありますが」


 ライラス辺境伯は張り付いた笑みを浮かべている。


 ……この人は暗殺予想してたもんなぁ。下手したら俺があの場で殺されたとしても、それを利用して王家を貶めていたかもしれない。


「気になることとは?」

「あくまで私の予想なのですがー。エルフは基本的に公国のために尽くしていますー。なので公国にメリットがなければ王家の頼みなど聞かないはずですー。そこが少し気になるのでまた調べておきますー」


 確かにそうだな。


 俺を暗殺したいのは王家だが、それを聞く理由がエルフたちにはない。


 そうなると王家以外からの命令の線もあるのか? 


 いやでも俺を殺す理由が分からない……まさか本当に師匠の『ゴーレム魔法使い抹消』が目的じゃあるまいし。


「ひとまず今後はより警備を強化しましょう。エルフの暗殺者は優秀な者が多いですからー」


 ライラス辺境伯がこの話をいったんしめる。こうなるとフレイアも護衛に呼び寄せた方がよいかな。


 もうツェペリア領はライラス領と一心同体なので、周辺貴族も攻めてこれないだろうし。もし来たらライラス領に喧嘩を売ることになるから。


「それで今回の披露宴なのですがー。私とベギラの結婚式ですが、メイルさんとミレスさんも一緒にやりましょうかー」


 ライラス辺境伯は楽しそうに手を小さくパンと叩いた。


「えっ、メイルたちもです?」

「はいー。お二人は披露宴やってないでしょうー?」

「やってないですが……」


 俺はメイルやミレスと披露宴を行っていない。


 理由は簡単だ。そんなことする余裕も意味もなかったから。


 貴族はよく披露宴に関わらず、夜会などのパーティーを行う傾向にある。それは決して遊びたいからではなくて、客人を招待して顔を売るなどの目的があった。


 文字通りの顔見世というやつだな。それをすることで人脈を広げて自分の立場を優位にしていく。


 他にはパーティーにかけた金を見ることで、その領主がどれだけの財力を持っているかを図るのも大きい。


 すごく豪華なパーティーを開ける貴族は力があり、貴族たちはそれを見て誰と仲良くしていくべきかなど考える。


「……ツェペリア領にはお金がなかったからな。下手に披露宴なんてしたら周辺貴族にアピールどころか逆効果だ」


 逆に言えば見ずぼらしいパーティーを開けば、むしろ大恥になるし力が弱いことを見せびらかすことにもなる。


 ツェペリア領の今までの金欠不足はご存じの通りなので、とても披露宴など行える状態ではなかった。何なら披露宴をまともに開ける建物すら建っていなかった。


「メイルさんもミレスさんも、どうせなら披露宴を行いたいのではー? ほら純白の綺麗なドレスに身を包むとかー」

「や、やってみたくはあるのです……」

「ぼ、ボクも……」


 メイルとミレスは俺の方をチラチラと見てくる。


 なるほど、それが嫁たちの希望ならば叶えてやるのが俺の役目!


「じゃあ合同披露宴にしよう! いや待て、夫が同じだと合同になるのか?」

「細かいことはよいのですー。ではそういうふうに手紙を出すとしましょうー」

「わかった。なら俺はゴーレム馬車を出す手紙の枚数分用意しよう」

「あらあらー。私が提案しようと思ったのですがー、話が早くて助かりますねー」

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