第70話 エルフ公国の焦り
どこかの場所、どこかの森の巨大な大木をえぐって作った住居の大部屋。
家具は全て木製の風変りな部屋、そこでは巨大な円卓を囲んで大勢の者が話し合っていた。
基本的に全員が成人している見た目、その中でひとりだけ幼女がいた。明らかに若くて異質に見える小学生くらいの。
エメラルドの髪をポニーテールにしていて、まるで人形のようであった。
そんな幼女は小さく厳かに呟いた。
「レーリア国のゴーレム魔法使いが、ライラス辺境伯の小娘と結婚すると決まった」
「ば、バカな!? 何故ゴーレム魔法使いが!?」
ひげを蓄えた老人が狼狽する。幼女は気にせずに言葉をつづけた。
「さらに大披露宴を開くようだ。そこではゴーレムを全面に出して宣伝すると」
「そんなこと絶対に許してはなりませぬ! さすればまた人間どもはゴーレム魔法に有用性を求めてしまう!」
「人間はなんとあさましい! 無知め! ならば我らがムチを与えねばならない!」
そこにいた全ての者が人間を侮辱する。
ゴミ、無価値、家畜などの暴言ばかりが飛び交っていく。
「静まれ、故に我ら賢人会議は決を下す。様子見で人間などに機会を与えたのがダメだった。速やかに消す」
「しかしライラス辺境伯と婚約した者を殺すとなると、我らの存在は間違いなく明るみに出ます」
「構わぬ、いっそあの少女も消せばよい。今の王家の方が扱いやすい。我ら賢人たるエルフは愚かな人間を導く義務がある。間違った者が頭になるなら首をはねよう」
「「「「「意義なし」」」」」
幼女は静かに宣言してエルフたちは一斉に同意した。
「ならば実行部隊に言葉を送ろう。速やかにゴーレム魔法使い、処断すべしと」
「彼らは人類最強すらたやすく屠る腕。暗殺など容易であろう」
「なにせ十頭のドラゴンを瞬殺したほどの者よ」
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二人の緑のフードを被った者たちが、馬を走らせて必死に街道を進んでいる。
彼らはライラス領の北へと向かう道中だ。
「くっ! まだ追い付けぬのか! 我らはゴーレム魔法使い監視の命を受けているのだぞ! 見失うなど!」
「仕方がないだろう! あのゴーレム馬車は休息なしで走り続けるのだ!」
口争いを始めた男たち。そんな彼らの周囲に声が響いた。
『ゴーレム魔法使いを速やかに殺しなさい。次の失敗は許しません、必ず殺すのです』
「「……はっ! 仰せのままに! 女王様!」」
男たちは馬を走らせながらも軽く頭を下げた。そして口論をやめて馬の足を止めさせる。
「殺すならばもはや見張りの必要はない! ここで待ち伏せして万全の状態で殺す!」
「ふっ、我らは人間でいう最高ランクの冒険者をも屠る力を持つ。人などとは格の違う存在! 見張らず殺すならばゴーレム魔法使いなど塵芥よ!」
そうして彼らはここら付近で待ち伏せを開始した。そうすること七日、ようやく対象が乗っているゴーレム馬車が走って来るのを確認する。
「……なんだあの後ろに続く白いのは。雪でゴーレムを造ったのか? 相変わらず横で爆走するアイアンゴーレムはいるし」
「ふん! ゴーレムなど相手にしなければよい! 行くぞ、馬車の前に立ちふさがって止めるのだ!」
彼らは街道に馬を連れて立ちふさがり、ゴーレム馬車の進路を妨害する。
ゴーレム馬車に乗った御者は流石に人を轢いてはと、ゴーレムに停止命令を出して馬車が止まった。
我らはそれを見て腰につけた鞘からレイピアを抜いた。
「と、盗賊です! 道を立ちふさがっています!」
御者が叫ぶがもう遅い。ゴーレム魔法使いよ、馬車を止めた時点で貴様は終わっているのだ!
我らの俊敏にして気高き剣で死ねるのを光栄に思うがよい!
馬車の横には謎の脚力を持つアイアンゴーレムが護衛にいるが、ただ足が速いだけでどうせ小回りは効かぬ!
我らは連携して左右から馬車に一気に飛び襲い掛かった! このまま馬車の扉をこじ開けて、中にいるゴーレム魔法使い。そしてその妻を殺す!
だがいきなり、私の相方が飛び上がったところで吹っ飛んだ。
「ぐはぁ!?」
『来たわぁ! 待っておったぞぉ!』
相方はアイアンゴーレムのビンタで吹き飛び、地面をゴロゴロと転がった。何とか受け身は取れたようでヨロヨロと立ち上がる。
『我が名はアイアンゴーレム一号! 貴様ら、よく来たなぁ!』
「しゃ、喋っただと!?」
アイアンゴーレムは両拳をガンガンとぶつけて、我らを威嚇してくるだと!?
どうなっている!? 何故ゴーレムが喋っている!? そんな魔法聞いたこともないぞ!?
「チッ! 《古に眠る風の刃よ。邪なる敵を微塵に処せ、全てを刈り取れ》!」
我がエルフ族に伝わりし最上級攻撃魔法、《ウインド・サクリファイス》。最強とうたわれるドラゴンすら一撃で出血死させる最強魔法。
致命の一撃を込めた風の刃がアイアンゴーレムに縦横無尽に襲い掛かる……だがその身体を僅かに削り取るだけ。
ちいっ……だからゴーレムには分が悪い……! もっと早く命令してもらえれば楽だったのに!
それにこのアイアンゴーレムは何なのだ! 喋るし理不尽な速さで走るしで意味不明に過ぎる! こんなものは我ら千年の歴史を持つエルフ国にも伝承がない!
いや落ち着け。そもそもこのゴーレムを相手取る必要はない。
我らの目的はあくまでゴーレム魔法使いと、その子供を宿しているかもしれない妻どもの暗殺だ。
魔法使いが既に子づくりをしたかは知らぬが、災いの芽は摘んでおくに限る。
ゴーレム魔法使いの産んだ子供が、父の意思を継ぐなどのたまう恐れもあるのだから。我ら上位の存在であるエルフが間引いておかねば。
「やはりそいつは無視して魔法使いを消せ! そうすれば全て……」
私は次の言葉を発せられなかった。
何故なら……離れていたはずのゴーレムが、瞬時に目の前に現れた。
『遅いのう。ほれ、お前ものびとけ』
「……は?」
目に映ったのはすでに倒された相方と、眼前に迫るゴーレムの拳だった。
みぞおちに鉄拳を受けた私は、眩暈とともに地面に両ひざをつく。
「ばか、な……我々はエルフ、至上の……存在……が……」
『何が至上の存在じゃ! そんなものはゴーレムに決まってるじゃろうが! とりあえず寝とけ。しかし弱いのう……ワシの全力を出せる敵はいないものか』
アイアンゴーレムが更に私に拳を振り下ろすのだった……。
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念のためですがエルフたちは強いです。
彼らの強さ談義に間違いはありません。
……なんか私の作品、だいたいが主人公より強いチート味方いますね。
新作の宣伝です。
『ざまぁカンパニーへようこそ! ~パーティー斡旋から復讐まで、全て我が社にお任せください!~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330650714129790
オムニバス形式でざまぁし続ける話です。
よろしければ見て頂けると嬉しいです。
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