第69話 スノウゴーレム
朝食を食べた後、俺とメイルはゴーレム馬車に乗り込んだ。
馬車はライラス領北部の山へと進んでいて、俺達は座席で隣り合って座っていた。
運転は御者に任せている。そもそもゴーレムなので口頭指示できるので、御者が必要かは怪しいが。
ほらあれだ。自動車がもし自動運転実装されても、緊急時に備えて人はいるよねみたいな。
「…………」
メイルは俺の横で真っ赤な顔をしていた。
「メイル、また帰ったら……」
「あぅ……」
更に顔が赤くなった。可愛いかよ。
ただそんなムードをぶち壊すように、ガシンガシンと大きな音が常に馬車の横から響いている。
馬車の木窓を開くとそこには、ジョギングしているアイアン師匠がいた。
『弟子よ! これならワシが馬車を引っ張った方が数倍は速いぞ! ワシはまだ本気を出しておらぬ!』
人間のようなモーションで走っているので、とてもゴーレムには見えない動きだ。ゴーレムにここまで機敏に動かれると気持ち悪いまである。
「馬車の車輪が絶対に壊れるのでダメです! それより師匠! 呼んでおいてなんですけどよく来ましたね!」
俺は窓の外に向けて叫んだ。
師匠は実はリテーナ街のすぐ側までついてきていた。ライラス領の街にいれると、普通に危険なので外で待機してもらっていたのだ。
一応は俺も領主なので護衛が欲しかった。でもフレイアはツェペリア領に残したかったので、領の戦力にできない師匠に護衛をお願いした。
戦争で暴れるのはダメだが護衛くらいならと受けてくれたのだ。
『ワシも自分の戦闘能力など知りたいからのう! じゃが全然盗賊に会わないのじゃ! いつ来るんじゃカモは!』
師匠は走りながら叫んでいる。
普通に考えて欲しい。爆走するアイアンゴーレムの横につけている馬車を、どんな物好き盗賊が襲うと言うのだろうか……。
「たぶん現れないと思いますよ!」
『それは困る! 何とか襲われてくれんか!』
「いや俺は領主なんですよ! そんな危険な頼みはもう無理です!」
『ええい! ならまた強さを測る方法を考えるか!』
師匠は腕を組んで何度もうなずいた。どうやら納得して下さったようだ。
なお腕を組みながらもずっと走っているのでシュールであった。
こうして俺達は一週間ほどノビノビと移動。特に問題も起きずに目的地である山へとたどり着いて馬車から降りた。
「さ、寒いです!」
メイルが自分の身体を抱きしめて凍えている。
そりゃそうだろうな。何せ……目の前の少し先に広がるのは真っ白な雪景色だからな!
俺達は雪山のふもとに来たのだから! これ以上進むと雪で馬車が動かないので降りたわけだ。
『弟子よ、こんなところに何をしに来たのじゃ?』
師匠は特に寒がりもせずに告げる。
どうやらゴーレムボディは特に寒さなどは感じないようだ。
「こんな雪山にまで来たのですから、目的は当然雪と氷です! スノウゴーレムとアイスゴーレムを製造します!」
『ほほう。そのゴーレムの氷などを披露宴の目玉にするつもりじゃな』
「正解です! レーリア国で氷がとれるのはこの場所だけなので、きっと度肝を抜かすと思いますよ!」
『よいぞ! ゴーレム魔法の有用性を示す絶好の機会じゃ! もっとやれ!』
ゴーレム師匠は愉快そうに叫んだ。
早速少し歩いて綺麗な雪が積もっている場所の近くにつく。
稼働一年分の魔力を注いだゴーレムコアを作成して、雪のつもっている場所に下手でぽいっと投げた。いや上手投げだとどこ飛んでいくか分からないから……。
雪の積もった場所にコアが落ちると、光って人型のゴーレムの形状になっていく……。
「まずは完成! スノウゴーレム! こいつで酒など冷やせば絶品なはず!」
『ほう。ではワシが後でテストを兼ねて試飲を……む、ワシはゴーレムだから飲めぬのじゃ! まあよいか、他の者の感想聞けば』
「師匠って何も食べれないし寝れないですが大丈夫ですか?」
『問題ない、むしろ都合がよい。ゴーレムになってからそういった欲求は全て消えたので、四六時中ゴーレムのことだけ考えられる』
師匠は淡々と俺の問いに答えてくれた。
いやサラッと言ってるけどすごいなこの人……睡眠取らないので誇張抜きで四六時中ゴーレムのこと考えてるぞ。
「それでスノウゴーレムを量産していきます。ただどうせなら少し遊び心も」
俺は更に一年分のコアを作成して、別の雪の積もった場所に下手投げ。
コアを含んだ雪は二足歩行の豚の魔物である『オーク』の姿をしたゴーレムになる。
「雪でつくった像、貴族に受けると思いませんか!」
「すごいです! でもオークを選んだ感性は最低です」
メイルは俺を褒めてるのかけなしてるのか分からない。
ゴーレム師匠はしばらく雪像を観察した後に。
『それでこのオークの姿に何の意味があるんじゃ? 鼻が利くとかではあるまい?』
「えっと、風情的な」
『なんじゃつまらん。それでは普通の雪ゴーレムと変わらんではないか』
師匠は興味をなくしたようにそっぽを向いて、さっき作ったゴーレムの近くに戻った。流石は師匠である、風情なんぞ知ったこっちゃないと。
「さてもっとスノウゴーレムを量産だ! いっぱい連れて帰って披露宴の目玉にする! 次はどんな形で造るかな!」
「ウサギさんがよいです! ネコちゃんも!」
『ふむ。大きな雪玉にして自動で回転するのはどうじゃ。面白いかもしれぬ』
「可愛くないです……」
『ゴーレムに可愛さなど不要じゃ。必要なのは性能』
俺としてはウサギも雪玉もありだと思う。
色んな雪像があった方が受けそうだしな! そんなわけで色々と作り始めて、近くの村で何泊かして様々な雪像を造った。
興が乗ったのでゴブリンとか河童みたいなのも製造したり、まあ好き放題統一性なしにめっためたに。
そして俺達は帰路について再びゴーレム馬車を走らせる。行きよりも少しスピードは遅い。
後方には大量の異種スノウゴーレムによる百鬼夜行……やりすぎたかも知れない。
そうして帰路の途中だった。御者の人が走行中に突如悲鳴をあげた。
「と、盗賊です! 道を立ちふさがっています!」
馬車の外からそんな叫び声が聞こえる。その盗賊正気か!?
この百鬼夜行スノウゴーレムを後ろに、横には師匠ゴーレムを連れた馬車を襲う!? 頭おかしいんじゃないのか!?
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