大貴族の夫

大披露宴

第68話 北へ向かおう


 俺はベッドの上で目覚めた。

 

 隣には一糸まとわぬ姿で布団だけまとっているメイルが寝ている。


 やったぞ、俺はやったぞ。とうとう……! 苦節二年、とうとう……!


 メイルめちゃくちゃ可愛かった。照れてたし可愛い声出してたしで。


「んぅ……」


 そんなことを考えているとメイルが薄目を開いた。

 

 彼女は少しすると自分の状況を把握したようで、雑にまとっていた布団をしっかりかぶって身体を隠す。


「み、見ないで欲しいのです」

「と言っても昨日散々」

「そ、それとこれとは話が別なのです! 早くお仕事するのです! 色々とやることがあるはずなのです!」


 メイルが顔を真っ赤にして叫んでくるので、俺は着替えて部屋を出て行った。


 うんうん、いやぁ何と言うか。もう負ける気しないよな、何に負けるかはともかくとして。


「おはようございます、旦那様」


 気分よくライラス辺境伯屋敷の廊下を歩いていると、すれ違ったメイドが頭を下げてくる。この人は俺の元同僚でたまに話もしていた。


「うむ、おはよう!」


 俺は少し偉ぶりながら告げる。これは別に自分が上の立場になったから図に乗ってるのではない。


 下手にメイドに丁寧に話すとほら、懸想とか疑われる恐れがね? いや知らんけど。


 そんなことを考えながら更に歩いていると、メフィラスさんがやって来た。


「ベギラ様、朝食の用意ができております。食堂へどうぞ。ご婦人方も三人ともお待ちしております」

「わかった、すぐに向かう」


 俺がスキップしながら食堂に向かうと、すでに妻三人は全員が席についていた。何やら少し話をしていたようだが俺が来るととたんに黙ってしまう。


 どうやらガールズトークだったのかな。


「あなた、おはようございますー」

「おはよう、ベギラ」

「……おはようございます」


 ライラス辺境伯、ミレス、メイルが口々に挨拶してくる。


「おはよう! 今日も頑張ろう!」

「物凄く元気ですねー」

「相変わらず単純というか何と言うか……」

「……」

 

 そんなに元気に見えるかな? いや俺としても長年の悲願が叶って、ほんの少しだけ浮かれているかもしれないけど。


 そんなことを考えているとライラス辺境伯が、俺にいつもの笑みを浮かべてくる。


「ふふふ、あなた。浮かれるのはよいですがー……それで大披露宴失敗したら怒りますよ?」


 な、なんだろうか。ものすごい圧がある……というか普通に怖い……。


 冷や汗まで出て来たぞ……一気に熱が冷めて行く気がする……。


「ガ、ガンバリマス……」

「よろしい。では朝食といたしましょうかー」

「「「「頂きます」」」」


 俺も席について朝食を取り始める。


 食卓に並んでいる皿に盛りつけられたのは、ツェペリア領で食べたこともない豪華な食事の数々だった。


 綺麗な白いパン! 焼いた豚を切り分けたものや、焼いた鶏肉のレッグ! なんか綺麗な色の豆スープ!


 ちなみにツェペリア領の朝食は大抵が、日持ちさせるために水分極力消し飛ばした黒くて硬いパン、塩分控えめ味薄スープにひたしてどうぞ。


 か、格が……格が違いすぎる……! もしライラス辺境伯との交渉前に朝食もらってたら、心へし折られて婚姻交渉できなかったかも……。


「こ、こんなの頂いてもよいのです……!? メイルはちょっとその……」

「豪華過ぎて気後れしちゃう……」

「あらあらー。貴女たちは領主の妻、相応のモノを食べないと夫まで嘲笑されてしまいますー。あの男は妻にロクなモノを食べさせられないのかとー」


 ライラス辺境伯は目を細めてこちらを見てくる。視線と耳が痛い。

 

「ち、違うんだ! ツェペリア領は今までお金がなかっただけで! スクラプ領を飲み込んだ後はこう、もう少しまともな食事に改善予定だったんだ! すみません、俺が甲斐性なしでした!」

「気を付けてくださいねー? 今後貴方は私の旦那です。一挙一動が周囲に見られているので、節約がよいとは限らないのですー」

「き、肝に銘じておく……」


 そう告げて俺は白いパンを口に含む。


 やわらかい……スープに浸さなくてもパンが食べれる……。


 お肉も柔らかい……俺が今まで食べていた肉は何だったんだ……。


「美味しいのです……」

「本当にね……」


 メイルとミレスも見せつけられた格の差を痛感している。


 い、いや落ち着け! これは俺達に振る舞うから普段よりも頑張った食事で、いやいつもライラス辺境伯の朝食こんなのだったな!? 屋敷で働いてる時に見たことあった!


「メイルさん、ミレスさん。今日の昼ごろに衣装店の者を呼んでいますー。そこで採寸を採って新しい服を注文しましょうー」

「「は、はい……」」


 メイルとミレスはたじたじになっている。


 この意図は言われなくても分かる。今の衣装ではライラス辺境伯の夫である俺の、側室としては相応しくないと。


 いや二人の衣装は決して平民のものではないよ? 仮にもライラス辺境伯のところに行くので、それなりのモノを揃えたよ?


 ただライラス辺境伯からすれば安物に見えるだけで……こ、これが財力の差か……。


「それであなた。北に向かうのですよねー?」


 ライラス辺境伯は今度は俺の方を見てくるので頷く。


 彼女には伝えていたがレーリア国の北へ向かう。大披露宴の武器になるものを用意するために。


「誰を連れて行くのですかー? 護衛も必要でしょうー? もはや貴方は私の夫、暗殺を狙われる恐れもありますー」


 ライラス辺境伯の提案はもっともだ。もう俺はライラス辺境伯の夫の立場、つまりかなり偉いのだ。


 今までのようなノリで外に出ると、暗殺者に襲われる可能性が出てしまう。


 だが今回は問題ない。もしライラス辺境伯と決別した時に、無事に帰るための護衛を用意してきた。


「護衛は大丈夫だ。連れて行くのはメイル、それと我がツェペリア領の最凶を……」

「大変ですお館様! 鉄のゴーレムが人語を叫んで屋敷の前に立っております!」

「……すみません。それうちの師匠です」



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少し裏話。ライラス辺境伯は覗いてました。


実験で新作投稿しました。

『ざまぁカンパニーへようこそ! ~パーティー斡旋から復讐まで、全て我が社にお任せください!~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330650714129790


タイトル通りです。よければ見て頂けると嬉しいです。




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