第67話 正妻確定


 俺は椅子から立ち上がって感動していた。


 俺は成り上がった! とうとうあのライラス辺境伯を嫁にしたのだ!


 かつて手が届かなかった仕えていた主を、自分の横にひきずり落とした! 


 ものすごくクルものがある! 本当にすごくよい! 


「あらあらー、いきなり立ち上がってはしたないですよー」


 ライラス辺境伯改め俺の正妻が微笑んでくる。もうこの笑みは全く怖くない、それどころか物凄く可愛い!


 というかこの人は物凄く見た目よいし性格も悪くないからな! 仕えた主君でなければとっくに嫁にしようと画策していただろう。


「え。じゃ、じゃあメイルとライラス辺境伯が親族になるです……!?」

「ボクも……? え、待って? 住んでいた場所のトップと……? え、嘘待って……?」


 メイルとミレスは俺の横で座り込んで混乱している。


 俺とライラス辺境伯が結婚するということは、彼女らにも当然影響があるからな!


 彼女らも今後さらに身分が上昇するはずだ。それこそもしライラス辺境伯がレーリア国を盗った場合、俺は王族関係になるわけだ。


 メイルとミレスも自動的に王族の妻ということになる! なんとビックリな成り上がりだろうか! まさかこの二人もこんなことになるとは予想だにしてなかっただろう!


 だって俺自身も想像してなかったからな! まさかライラス辺境伯を妻に娶ることになるとは……三年前の俺に言っても笑われるだろう。


「さてあなた、こうなると忙しいですよー。まずは周辺貴族に私とあなたの婚約を発表します。その後は披露宴を大々的にやらねばなりません。私たちの力を見せびらかすように」

「あ、すみません。ライラス辺境伯、もう一度最初の部分を言って欲しいのですが」

「もう私に敬語を使う必要はないですよー、


 俺、このまま死んでもいいかもしれない。いやダメだ、ツェペリア領が路頭に迷うから。


 それに……とうとう本願を果たせる時も来るのだから!


「ありがとう。それとな、やはりほら、他にもやるべきことがあると思うんだ。こうな? ツェペリア領の安定のためには、世継ぎというか何と言うか……」

「私はまだ妊娠できませんー、この忙しい時に動けなくなるのは困ります。ですがー」


 ライラス辺境伯はメイルとミレスに視線を向けた。


 もう正妻を待つ必要はないし、長男は正妻がーとかも関係がない。この話はあくまでライラス辺境伯の紹介する正妻が、身分がそこまで高くない者というのが前提だったからだ。


 もしライラス辺境伯が産んだ息子よりも、メイルが産んだ息子が先に生まれたとする。残念だがメイルの産んだ子は相手にならない。


 いくら何でも血というか母親の位の差があり過ぎて、世継ぎ争いにすることもできないのだ。


 どう考えても俺を継ぐのはライラス辺境伯の産んだ息子だろう、と誰もが思ってしまう。よって神輿にもされないのでお家騒動にもならない。


 いやそもそもだ。ライラス辺境伯と俺の息子はライラス領を継ぐことになるだろう。


 ツェペリア領の跡継ぎと関係がなくなってしまう。更に言うならライラス辺境伯が三人の息子を産んだとしても同様だ。


 彼らは全員がライラス領で生きることになる。領主とそのスペア、そして彼らを支援する者だ。


 つまりもう正妻が最初に子供をーとか無考慮でよい! 今の俺を遮る者は何もない! 


「ぼ、ボクはツェペリア領の経営があるから、動けなくなるとマズイかなぁ……」


 ミレスは少し赤く染まった頬をポリポリとかく。


「…………大丈夫です」


 メイルが俯きながら小さく呟いた。来たな、俺の時代が。


「そちらのことはそちらに任せるとしてー。あなた、早速ですが一緒に考えてくださいー」

「考えるとは?」

「私とあなたの大披露宴のことですー。ここでものすごく大きな祭りにして力を見せつけて、周辺貴族の従属を迫りますー」


 ライラス辺境伯はニコニコと楽しそうに告げてくる。先ほどの発言を訂正しよう、やっぱりこの人怖い。


 以前にライラス辺境伯は伯爵を宴に招いて、己の力を誇示したことがある。俺もフィッシュタンクゴーレムで協力したやつだ。


 今回はそれを更に大きく派手にして財力を見せつけ、中立貴族たちを一気にライラス派閥に引き込むつもりだ。


 そうなれば俺も協力しなければならない。なにせもうライラス領とツェペリア領は文字通り一心同体だ。


 彼女に協力することが俺の実利にもなるのだから。


 うん、すごくシンプルになったな。これからはライラス領に味方していけば、必ずツェペリア領にも恩恵があることになる。


 後は王家派閥と戦うことだけ考えればよいのだから!


「なら俺に案がある。今まで忙しくて出来なかったが、招待した貴族たちがあっと驚くようなゴーレムが」

「あらあらー、旦那様は頼りになりますねー。以前に伯爵を招待した時のことを思い出しますー。お任せしますね」

「任せてくれ! 今回の大披露宴、必ず成功させてみせる!」

「あ、それとゴーレム馬車くださいー。とりあえず二台ほど。後はゴーレム魔法使いをライラス領にも欲しいですね。大規模工事にゴーレムを使いたいので。それからー」


 ……いきなり怒涛の勢いで要求してくるな我が正妻。


 もしかして俺が旦那になる可能性を考えて、ゴーレムが必要なことを溜めてたとかないよね?


 いや流石にないだろたぶん……じゃあとっておきを用意するために馬車で北の方に向かわなければな。


 でもその前に…………。


「メイル、今から宿屋を貸し切って来るから」

「それならー、うちの屋敷を使ってくださいー。もう貴方の家ですからー」

「助かる。そういうわけだからメイル……いいか?」

「…………はいです」


 俺はメイルと二人で寝たのだった。



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ベギラが完全にケダモノになっている件について。

ハーレム目指して散々頑張ってきて、ずっとお預けくらってきたから仕方ない?

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