第64話 混然交渉
ツェペリア領の会議が終わった後、俺はライラス辺境伯にお手紙を出した。
正妻が来ない件について俺が直接出向くとの内容で。
元スクラプ領土は兄貴ズの統治で安定してきたし、作り置きのゴーレム兵が三百程度いるので戦力もある。
更にフレイアという有能魔法使いもいるので、俺が少し領地を離れても大丈夫だろうという判断だ。
後は我が領地にはゴーレム馬車がある。移動にかかる時間も少なくて済むのも大きい。
そんなわけで俺は馬車に揺られながらライラス領に向かっていた。
供えられた座席に座りながら俺は幸せを感じていた。
何故感じているかだって? それは……。
「あなた、何でメイルたちも連れて行くのです?」
「ボクたちやることあるかな?」
なにせ俺の左隣にメイル、右隣にミレスが座っている!
しかもほぼ触れ合うような距離でだ! これが幸福でないわけがないだろう!
ちなみに二人は普段の平民みたいな衣服ではない。豪華なドレス姿だ。
俺もある程度着飾っている。ライラス辺境伯の元に出向くために金を頑張って捻出して揃えた!
「理由はあるぞ。お前たちをライラス辺境伯に対して正式に妻として紹介する。それ自体が圧力になるんだ。正妻まだなの? という」
更に言うならば「正妻まだなの? 夫婦仲すごく良好だからもう子づくりするよ?」と。
これはライラス辺境伯への圧力になる。
あの人は俺の正妻をあてがう時に実家が微妙な令嬢を紹介しづらくなるのだ。
正妻とは基本的には妻の実家の位で決まる。
例えば俺が伯爵家と子爵家の娘をそれぞれ娶った場合、基本的に伯爵家娘が正妻だ。
どちらと最初に結婚したかは関係なくそうなる。そこまでは簡単だ。
だが話が変わって来る場合がある。子爵家の娘が伯爵家の娘よりもかなり先に男の子を生んだ場合だ。
本来なら正妻である伯爵家の娘が産んだ子供がツェペリア領を継ぐことになる。
だが……そううまく話が進まないのが貴族の問題だ。
子爵家の娘の子の方が領主に相応しい、みたいな声が上がる。
もしこれで俺が若く死んだら最悪だ。
子爵家側の人間が「伯爵家の娘が産んだ子は若すぎる! 領地安定のために子爵家の娘が産んだ子を領主に!」と言うだろう。
そしてそれは理にかなっている。若すぎる伯爵家の娘の子よりも、ある程度の年齢の子爵家の娘の子のほうが領主として安定する。
そうなるとどちらの子が継ぐかでお家騒動勃発である。
「実はな。俺もライラス辺境伯のことを色々と調べた。」
「いつの間に……?」
「ふっ、俺にも秘密の情報網があるんだよ。結論から言うとだ、ライラス辺境伯は俺にあてがえる妻がいない」
ネタバラシするとジーイに聞いただけである。
あの爺さん、周辺の領地の情報ものすごく収集してたのだ。
おかげでライラス辺境伯が俺に正妻を紹介しない理由が判明した。
あの人の近い親族に適齢の女の子がおらず、俺に紹介できる者がいない。
「唯一俺に紹介できそうなのは十歳の少女という有様らしい」
「それは流石に……」
道理でライラス辺境伯は待てども俺に正妻を手配しないわけだ。
その十歳の子が結婚適齢期になるまで時間を稼ぐつもりだったんだ!
俺は日々飢えているんだぞ!? その十歳の子がいつ子をつくれるようになるんだ!?
どんなに最低でも十四歳、いやそれでも若すぎるな。
おそらく十六歳ごろがベストだろう、そうじゃないと危ない。
「六年我慢しろと? ははっ、ライラス辺境伯の洒落がうますぎて笑えて来るな」
「目がまったく笑ってないのです……」
メイルの言うことは正しい。だって笑えないもの。
そんなのっ……我慢できるかぁ! ライラス辺境伯にはお世話になったと言えど!
流石に限度というものがあるのだからっ!
それに六年の間に俺に何かあればツェペリア領は跡継ぎ問題で詰むぞ!?
「俺は勝負に出ることにした。ライラス辺境伯を……娶る!」
勢いよく座席から立ち上がり宣言する。
俺にとってライラス辺境伯は天上の人だった。辺境伯と貴族生まれの平民、屋敷の当主と使用人。
その身分差はすさまじく憧れで手の届かぬ人だった。
そんな女性が今、手を伸ばせば届くかもしれないところに来ている。
うまくやれば天上の人を俺の横に落として、その衣服をはぎ取ったりなど好き放題にすることができるかもしれない……。
そんなの、そんなのやるしかないじゃないかっ!!!!
両隣の二人は目を大きく開いて慌てている。
「む、無茶なのです! さっきの義兄様たちの言葉を本気にしてしまったのです!?」
「ベギラ! そんなことしてライラス辺境伯の不評を買ったら……! 欲望で領地運営はダメだって!」
「違う! これはツェペリア領を考えた上だ! 最も良い立場を得るために行うんだよ!」
二人に対して堂々と宣言する。
もちろん俺はツェペリア領主だ。自分の欲望で領地を破綻させたりはしない。
ライラス辺境伯を娶ることはツェペリア領にとっても最善なのだ。
「ライラス辺境伯が俺の妻になれば! ツェペリア領は絶対に見捨てられなくなる!」
「そ、そうだけど……」
ミレスは反論ができないようで言い淀む。
もしあの人を俺の妻にできれば大きすぎる。ものすごく太いパイプが我が領地とライラス領で繋がれる。
そりゃ当主の夫の領地を軽視できるわけがない。
ツェペリア領は安泰だ。ライラス領が王家からも守ってくれるようになる。
「この策は決して我欲だけのものではない! ツェペリア領民のことも考えた勝負なのだ!」
「でもあなたの欲望がだいぶ混ざってるです」
メイルの言葉にうなずいて肯定する。
それを否定はしない。いやその欲望すらもツェペリア領のために必要なのである。
何故ならば……!
「ふっ……俺はな、欲で突っ走ってる時が一番強いんだよ!」
「「あー……」」
俺はハーレムを目指すために頑張ってきたからこそ、今の立場があるんだよ!
守りに入るよりも攻めるのが得意ってことだ!
ライラス辺境伯、覚悟して頂こう! 貴女は俺の横がお似合いだ! 結婚してください!
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『異世界転移したら魔王にされたので、人の頭脳を持った魔物を召喚して無双する ~人間の知能高すぎるだろ、内政に武芸にまじチートじゃん~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649640894997
現在17話目です!
読み頃の文字数になってきましたのでいかがでしょうか!
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