第61話 弟子の弟子


 俺はスクラプの街の近くの森で、フレイアにゴーレム魔法を教えることにした。


『とうとうワシの弟子が、更に弟子を持つことになるとは……これって何て呼べばよいんじゃ? 孫弟子?』


 メタルボディを輝かせながら腕を組むゴーレム師匠、いや師匠ゴーレム。


 彼もついでなのでツェペリア領から呼んでいたのだ。


 なお馬で片道五日ほどかかる道だったのだが、師匠は一日で走って来た。


 馬の全速力に近いスピードが出せて、かつゴーレムには疲れがないので二十四時間走り続けられるのだ……やっぱり師匠ゴーレムのスペックやばいよ。


「よ、よろしくお願いしますっ! 師匠っ!」


 フレイアが頭をペコリと下げて、その拍子にフードが浮く。


 師匠……よい響きだ。とうとう俺も弟子を持つまでになった。


 国王様、ご主人様、師匠、先生辺りは呼ばれてみたい人称ランキング上位だと思う。


 ましてや呼んでくる相手は美少女! 完璧過ぎる!


 色々と苦労してきたけど今なら言える! 俺、この世界に転生してきてよかったよ! 


「よし! ならまずはゴーレムの作成魔法からだ!」


 こうして俺はゴーレム魔法のことをフレイアに教えて行く。


「《コア・クリエイションッ》!」

「最後の語尾がダメだ! それでは呪文の歯切れが悪くなって、効果が少しばかり落ちるぞ!」

「す、すみませんっ!」

「早口言葉の練習をするんだ! 武具馬具武具馬具三武具馬具! ほら!」

「えっと、ぶぐぶく……」


 フレイアは初手から噛み噛みであった。溺れてどうする!

 

 ちなみに魔法使いにとって滑舌はすごく重要だ!


 発動までにかかる時間が一瞬遅いだけで、致命傷になることもあり得る!


 魔法使いは魔法の威力とかばかり鍛えたがるが、実戦を考えるならばむしろ最初に練習すべきは早口言葉だ!


 魔法を極めるのにはすごく時間がかかるが、滑舌は多少練習すればマシ程度にはなる!


『ワシも噛まずに言えるぞ。武具馬具武具馬具三武具馬具』

「す、すごいですっ! 流石は師匠の師匠様ですっ!」

『ほっほっほ!』

「師匠は噛む舌がないのでは?」


 雑談しながらも更に厳しい修行は続けられる。


 フレイアは元々優秀な魔法使いだけあって、魔力も多いし筋がよい。


 三時間後には最低限のゴーレム魔法を扱えるようになった。


「はぁはぁ……」


 フレイアは息を切らせて杖を支えにして、必死に魔法の鍛錬を続けている。


 美少女が汗を流すの……いいね! 


「師匠! ゴーレム魔法の極意を教えていただきたいですっ!」


 ゴーレム魔法の極意か……そんなのは決まっている。


 俺が師匠に視線を投げると、彼もゆっくりと頷いた。当然ながら師匠もたどり着いているのだ、ゴーレム魔法の極意に。


 なに、すごく簡単なことだ。


「『ゴーレムに魂を売ること』」

「た、魂を売るんですかっ!?」


 フレイアは狼狽しているが俺達は真実を伝えている。


 なにせ俺はゴーレム魔法のために毎日魔ゲロを吐き続けた。


 いや俺はだいぶ生ぬるい。師匠にいたっては本当に魂を売って、自らをゴーレムコアにしてしまった。


 ゴーレム魔法を極めるということは業なのだ。生半可な覚悟で鍛錬しても、極意の入り口で止まってしまうほどの。


「フレイア、ゴーレム魔法を極める必要はない。悪いことは言わないからやめておけ……色々と魔法を使えた方がいいぞ……潰しが効くから」

「も、ものすごく実感籠ってますねっ!? でもゴーレム魔法を極めた師匠がそれでいいんですかっ!?」

「俺もまだ道の途中だけどな……先に進んだからこそ言えることもある」


 ゴーレム道、その道は極めて長く厳しい。


 そもそも俺も本当に極めるのは諦めている。もしそうしたいならば、まず領主になってハーレムなんて築く余裕はない。


 一人の魔法使いとして日々の時間を全て訓練に費やし、さらにゴーレムに情熱を燃やし続ける。


 それを一生涯続けてようやくたどり着けるかというレベルだ。


 なにせ……極めた結果の末路が俺の横に、メタルボディで存在してるし……。


 よほどゴーレムに狂ってなければ師匠の歩いた道中で、倒れて死にゆく運命だぞ。


 更に言うなら終着点も自分の肉体のゴーレム化だ。なんとも凡人には救われない話だ、師匠からすれば幸せなのだろうが。


 とにかく弟子に道をあきらめさせるのも師匠の役目だろう。


「いいか? まず第一前提としてゴーレム魔法を本当に極めるならば、他の魔法は実質捨てなければならない。その覚悟がお前にあ……」

「ほどほどに頑張りますっ」


 フレイアは即答してきた。


 それがいいと思うよ。人生全てをゴーレム魔法に投げ打つのは、もう才能を超えて狂人の類だし。


『悲しいのう。ワシを追いかけて並ぶ者を待っておるのじゃが』

「待っていればいずれ出てきますよ。早ければ千年くらいで」

『長いわい』  


 仕方がない、なにせ師匠が千年に一度の逸材だと思うし。


 それに並ぶならそれくらい待たないと……。


 ちなみに俺は俗物なのでゴーレムになるつもりは毛頭ない。普通に生きてハーレムして普通に死ぬ。


 更に訓練を続けるがフレイアはフラフラし始めている。


 魔力が尽きてきているのだ、そろそろ限界だろうな。


「よし、じゃあ今日の訓練はこれで終わりだ。明日以降はある程度フレイア自身で訓練をしてもらう。今日やったことを繰り返せばいい」

「わかりましたですっ!」

『ところで弟子よ。肝心の魔ゲロを教えてないのでは?』

「魔ゲロ?」

「師匠、黙っていてください。あれはフレイアには不要なものです!」


 美少女に魔ゲロを吐かせるなんてダメだ!


 アレは男がやればいいんだよ男が! まあ真面目に話すとあれやると魔力尽きるから困るんだよ。


 フレイアには仕事もお願いしたいし、ゴーレムも早めに作り始めて欲しいのだ。


 魔力はすでに結構あるので、無理に鍛えさせなくてよいだろう。


 こうしてフレイアはメキメキとゴーレム魔法を鍛えて、すぐに成長していった。


 彼女は一躍、この国で三番目に凄いゴーレム魔法使いに躍り出たのだ!


 なおこの国のゴーレム魔法使いの数も三名であるが些事とする。

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