第60話 ゴーレム魔法使い部隊、人員募集!


 アイリーン王女殿下が帰った翌日。


 彼女の目的はイマイチわからないが、ひとまずスクラプの土地を発展させることにした。


 なにせ領地が増えたせいで金が足りないのだ。元スクラプ領の有り金は全部奪えたが、そもそも残っていた金自体がそこまでなかった。


 理由は簡単だ。スクラプ領は俺達に侵攻するために募兵したので、そこで無駄に散財していたからだ。


 ミクズに引き続いてまた出どころ不明の資金援助があった。それであのスクラップ野郎は無駄に豪勢な鎧とか購入していたようだ。


 だがそれを計算に入れなくても兵を雇いすぎたのだ。


 元スクラップ領は財政的に余裕があったわけでもないのに、千も兵を揃えれば大赤字に決まっている。


 俺は元スクラプ領主屋敷の執務室で、ジーイに向かって命じていた。


「そういうわけで塩だ! 岩塩ゴーレムで塩運搬して、岩塩に戻して金に換える!」

「岩塩ゴーレムとは面白そうですが……岩塩を運んで売るだけでよろしいのですか?」


 俺の命令に対してジーイはこちらを見つめてくる。


「何が言いたい?」

「ツェペリア領はゴーレムレンタルを行っております。ならば岩塩を売るだけではもったいない。岩塩ゴーレムを移動させてから、そのままゴーレムとして売りつけるのはいかがでしょうか?」

「なるほど……それならば付加価値が生まれるので、我が領の岩塩が選ばれる可能性が高いか……」


 ジーイの提案はかなりアリだ。


 そもそも岩塩をゴーレム化して移動させる時には、想定輸送期間よりも倍くらいの稼働期間で造らなければならない。


 例えば一ヵ月で移動できるならば、稼働期間は二ヶ月で作成する。


 理由は簡単だ、もし不慮の事態があった時の時間的猶予。つまりはマージンのため。


「岩塩ゴーレムは到着日よりかなり多めの稼働時間を取ると思うのですが」

「そうだな。そうしないと失敗した時のリカバリーが大変過ぎる」


 道中で大量の岩塩ゴーレムが普通の岩塩に戻ってしまえば、目も当てられないことになるからな。


 2mを超える巨大な岩塩の塊など、普通の手段での運搬は難しい。


 細かく砕いて大量の馬車を手配して……と物凄い労力と出費がかかる。


 なので稼働期間はかなり多めにする必要がある。なので予定通りに移動できれば、残りの稼働期間で岩塩ゴーレムとしてレンタルが可能だ。


 岩塩を元々売る予定の場所に、短期間の労働力としてサービスできれば……他に比べて我が領地の塩が選ばれる強みにもなる。


 どうせ岩塩をゴーレムにするのは確定だからな。馬で運ぶよりだいぶ楽だし。


「その案を採用する。しかしジーイ、お前はどこでゴーレム魔法の詳細を把握した?」


 期間限定ゴーレムは俺のオリジナル製法だ。


 別に隠しているわけではないが、普通のゴーレム魔法を知っていても得られない知識なのだが。


「ツェペリア領のゴーレムレンタルの仕組みを、頭に叩き込んでおきましたので」

「なるほど。期間限定ゴーレムの存在を知っていれば、後は思いつける範囲か。まあゴーレムレンタル自体は失敗だったがな……」


 ジーイは恭しく頭を下げて来た。


 ちなみにツェペリア領ゴーレムサービスだが、実は成果はあまりかんばしくない。


 理由はイメージ戦略の失敗。ライラス領の人達が勘違いしてしまったのだ。


 ……このレンタルサービスは超がつく金持ちの大工事向けだと。それこそ街を造るとか大規模農地開拓とかレベルの。


 そんな大工事などそうそう発生しないので、レンタルサービスは閑古鳥が鳴いていた。


 ま、まあほらあれだ。あの時にライラス辺境伯が借りてくれたので、当座の金を稼げたから……。


 それに一大事業が行われる時は、大量にレンタルされてドカンと儲かるから……できれば安定的に継続して稼ぎたいけど。


「このジーイに策があります。ゴーレムレンタルサービス自体は、よい商売だと思うのです。うまくやれば大きな商いにも……」

「それはそうなんだがな……ちょっと他にも問題があってな。ゴーレムを大量に造るとなると、俺がその仕事に注力する必要が……」


 実はミレスも以前に同じようなことを提案してきたのだ。彼女もゴーレムレンタル自体には、かなりの可能性を感じてはいるから。


 だが結局、話は進まないまま今に至っている。


 失敗したゴーレムレンタルサービスを放置している理由。


 それは純粋に人手不足、というか俺の手が空いていないことだった。


 現状でゴーレム魔法を使えるのは俺のみ。だが俺は領地経営で忙しすぎてネコの手も借りたいのだ。


 人手を貸す側は人手不足とはこれいかに。


 ジーイは俺の返答が想定内だったようで、ニコリと笑みを浮かべた。


「それは存じております。ですからここはフレイアにゴーレム魔法を習得させては?」

「フレイアに? 確かに魔法は使えるが……本人がゴーレム魔法を嫌がりそうで」


 ゴーレム魔法はこの国で物凄く嫌われている。


 以前にトゥーン兄貴が言った言葉、「偶然得た黄金を肥溜めに投げ捨ててんぞお前」は別に大げさな表現ではない。


「ご安心ください。フレイア、入って来なさい」

「し、失礼しますっ!」


 ジーイが指をパチンと鳴らすと、フレイアが執務室に入って来た。


 彼女は俺に頭を下げた。その拍子にフードも彼女の頭の上にパサリと落ちた。


「じ、実は私はゴーレム魔法を習いたいですっ! その……ベギラ様のゴーレム魔法、すごいなって……」


 フレイアは顔を少し赤くしながら俯いている。


 ……どうやら彼女は本当にゴーレム魔法を嫌っていないようだ。


 それならば魔法を教えることはやぶさかではない。


 何ならゴーレム師匠、いや師匠ゴーレムに教師をしてもらうのも手か。


 あの人? はもうゴーレム魔法自体は使えない。だが教えることは可能なはずだ。


「いかがでしょうか? フレイアがゴーレム魔法を扱えれば、お館様としても楽になられるでしょう」


 ジーイは少ししたり顔で告げてくる。


 だがどうせ教えるならこれでは足りないな。もうツェペリア領はかなり大きくなった、物理的に。


 そうなると少数精鋭には限界がある。それはもちろんゴーレムの少数精にも言えることだ。


 ようは……個人に頼らずにゴーレムを製造できるようにしたい。


 現状だと俺が死んだらツェペリア領は詰むしな……我が領の防衛戦力、ほぼ俺頼りとか酷すぎる。


「……いやいっそのことだ。魔法使いを集めてゴーレム魔法を教えて、ツェペリア領ゴーレム製造部隊の設立をするか。今後を考えればそうした方が絶対よいはず」

「なんと! ですがフレイアはともかく、他の魔法使いでゴーレム魔法を学びたい者がおりますかな?」

「いない気がしますっ……」

「普通の魔法使いよりも、よい条件で雇えばたぶんいるはずだ。ゴーレム魔法の評判が上がれば、志望者も増えていくだろう」


 こうしてツェペリア領は魔法使いを募集することになった。


 育成してゴーレム魔法使いにするための……OJTで教えるみたいな宣伝でいいか。


 売り文句は『初心者でも安心! レーリア国ナンバーワンとナンバーツーのゴーレム魔法使いが、懇切丁寧に教えます!』みたいな感じで。


 教師はゴーレムだけどな! 人間とは言ってないからセーフ。



------------------------------------------------------------

新作投稿始めました!

『異世界転移したら魔王にされたので、人の頭脳を持った魔物を召喚して無双する ~人間の知能高すぎるだろ、内政に武芸にまじチートじゃん~』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649640894997


自信作です! よろしくお願いいたします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る