第59話 王家からのお手紙
俺は元スクラプ領屋敷の執務室で手紙を書きまくっていた。
兄貴たちに統治権を渡すために、この土地の有力者に俺達に従うように命じる文だ。
まあスクラプの有力者と言っても、商会などの類がほとんどなので逆らうことはないだろう。
それに彼らも巨大ゴーレムを見たはずなので、あれを怖がっているはずだ。
「ベギラ! 大変大変! 王家から手紙が来たよ!」
最後の手紙を書き上げた瞬間、ミレスが大慌てで執務室に飛び込んできた。
……王家から手紙? まさか宣戦布告でもしてきたのか!?
いやでもこの地の周辺貴族は、王家につかずに中立の立場をとっている。
なのでそう簡単には攻めては来れないはずだが……。
「まあ見ないと分からないか。かしてくれ」
「はいっ!」
ミレスから便せんを受け取って差出人の名前を確認する。
「差出人は……アイリーン第三王女? 王じゃなくて王女ってなんでだ? メイル、想像つくか?」
「わからないです」
メイルは小さく首を横に振った。
……まあいいや、見てみれば全てわかるだろう。
開いて中の手紙を確認すると、こんな文が書いてあった。
「なになに。私はアイリーン・レーリアと申します。いきなりこんなお手紙を出したことをお許しください。実は私はベギラ様に懸想を抱いております……は?」
「お、王女様がベギラに懸想!?」
「何をしたです!?」
「いや知らないが……会ったことすらないし……」
詰め寄って来るミレスとメイルをさばきながら、この謎お手紙の続きを読むのを再開する。
「つきましては明日、元スクラプ領屋敷にお邪魔させて頂きたく存じます……とのことなんだが」
「わけがわからないです……王女様がおかしくなってしまわれたのです……」
「いくらなんでもベギラに懸想なんておかしいよね……」
「妻たちよ、それが旦那に対する言葉か?」
まったく酷い言い草だ。
俺は純粋にハーレムを目指すだけの不純な男だというのに。
「まあ俺も流石におかしいと思ってるよ。この状況で王女が俺に懸想……王女ってなんかこう、アリだな」
「……あなた?」
「ベギラ? いくらなんでもないよね?」
「冗談だから笑いながら詰め寄って来るのはやめてくれ」
いやさ? 姫を娶るって男の夢だと思うんだ……流石にあの王家の関係者だからなしだけど。
まあ間違いなく王女が俺に懸想なんてのは嘘だろう。
そうなると王家が何かを狙っていて、こんな手紙を出して来たのだと思うが……。
ちょっとすぐに思いつかないので腕を組んで考え始める。
「うーん……王女って美少女だろうか?」
「「…………」」
「違うんだ。これはほら、色々とたまってて……」
すごくお預けを食らっていて、しかもライラス辺境伯に正妻の件を聞きに向かうはずだったのだ。
それがこのスクラプの一件でできなくなった、だから許して欲しい……。
はっ!? まさか王家の狙いはこれか!? 俺が苦しんでいるのを理解していて、王女と邂逅させて惚れさせる!?
……いやそれはないか。あ、なんか少し冷静になってきたぞ。
「……もしかしてこれは、俺とライラス辺境伯の分断工作か?」
「あー。もしベギラが王女とねんごろになったら、王家派についてくれるみたいな?」
「そんな感じな気がする。王家め……! 俺のハーレムを目指す想いを、一度ならず二度までも利用しようってのか!?」
以前に王家には俺のハーレムの想いを踏みにじられたのだ!
ハーレムのために貴族になりたいという淡い想いを! 必死に手柄を立てたのに「大義~」の言葉だけで済ませやがって!
それ以来、王家のことは大嫌いだ! あいつら機会があったらぶん殴ってやりたい!
「許せん……王家許せん……!」
「あなた、落ち着くです」
「それでどうするの? 手紙通りなら王女様が明日来るらしいけど」
「……追い返すのも無礼だし、会ってみるくらいはいいだろう」
無駄に王家の怒りを買う必要もあるまい…………ただ王女様が可愛かったらどうしよう。
いやそれはないか。だってあの王の娘だぞ? まず性格がアレな可能性が高い!
期待するだけ無駄だな! ある意味助かったぜ! 初めてお前が王でよかったと思うよ!
そうして翌日になった。俺が領主屋敷の前で待っていると、豪華な馬車が一台やってきて止まった。
御者台から降りた男が外から馬車の扉を開くと、中から豪勢なドレス姿の少女が現れる。
ブロンドでサラサラストレートな髪の毛がサラリと揺れる。
パチリとサファイアのような目、絹のような肌、憂いを帯びた儚げな顔。
細身で少し背が低いが、控え目に言って超美少女だった。
「アイリーン・レーリアと申します。ベギラ様、お初にお目にかかります。お噂はかねがねお聞きしております」
アイリーン様はスカートのすそを軽く手で上げて頭を下げる。
はぁ!? 待って!? これは詐欺では!?
あの豚王からなんでこんな美少女が!? 遺伝子が変態でもしたのか!?
「あの……いかがなされましたか?」
計算外過ぎてパニックになっていると、王女殿下は小さく首を傾げた。
お、落ち着け……きっとこれはガワがよいだけだ! 正体はあの豚王と同じく、醜い獣に決まっている!
「私はべギラ・ボーグ・ツェペリアと申します。遠いところからようこそいらっしゃいました。屋敷の中へどうぞ」
「ありがとうございます。では失礼します」
王女殿下は特に偉ぶることもなく、案内されるがままに応接間へと入っていく。
そうして俺と机を挟んで向かい合って座った。
「お茶になるです」
メイルが机にティーカップを二つ置く。
そして俺に対して「相手は王家です。わかっているです?」と視線を送って来た。
大丈夫だ、問題ない。
「えっと、本日はどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか?」
白々しい問いだがまずは軽いジャブだ。
彼女の反応次第で俺に本当に懸想しているかを試す。少女だし腹芸は難しいだろうから、嫌々ならきっと態度に出る。
「ベギラ様と夫婦の契りを結べればと」
アイリーン王女は俺に微笑みながらそう告げて来た。
いかん、まるで白々しさがないのだが……マジ?
「ははは、ははは、ははは。いやご冗談が上手で」
「冗談ではありませんので」
「ははは、ははは、ははは」
アイリーン王女は俺の方をニコニコと見続ける。
なんだろう、何か少し既視感があるような…………。
「いやははは。何故私に懸想を? 接点など全くなかったではないですかね?」
「貴方が有能だからです。ゴーレムを使っての領地経営、そしてスクラプ領の奪取。あまりの手際に驚いてしまいました」
ティーカップに軽く口付けて、アイリーン王女はこちらを見据えてくる。
「王家もライラス辺境伯にも、いや誰もが計算外でした。ただひとり、実行した貴方を除いて。スクラプ領を奪う段取りを誰にも察知させずに巨大ゴーレムで電光石火の制圧、まさに恐ろしい神算鬼謀」
「ははは……」
そりゃ誰も段取りを察知できるわけがない。だって……そもそもそんなものはなかったからな!
スクラプ領に攻められたから思いつきで反撃しただけだから!
なにせ俺も計算外だったから……スクラプを奪取予定なんてまったくなくて、ライラス辺境伯に正妻まだですか! と聞きに行く予定だったし……。
「……そんな貴方に策を弄じても無駄でしょう。なので率直に言います、私を娶りませんか? このまま行けば王家とライラス領で国が二分されてしまいます。ですが貴方と私が婚姻すれば、平穏無事に収まる可能性が高い」
アイリーン王女は憂いを帯びた顔で告げてくる。
……本当にド直球で要求してきたよこの王女。
間違いなく王家による分断工作だよなぁ……俺とライラス辺境伯の。
「ははは、ご冗談を……」
「返答は不要です。ですがおそらくこれが最も丸く収まると思います。王家派とライラス領派の争いはこのままでは避けられない。ならば私は王女として少しでも国の被害を減らすように動きます」
「…………」
「貴方がこの国を想うのならば私と婚姻しませんか? 身内の戦争になって民が死んでいくのは見ていられません。お返事お待ちしております」
アイリーン王女はそう言い残して立ち上がると、応接間から出て行ってしまわれた。
…………言いたいことだけ言って去ってしまったな。
なんか異常なほど高評価を受けていた気がする。
それと何となくアイリーン王女で感じた既視感がわかったぞ。
あの人……どことなくライラス辺境伯に似ている気がする……いやアイリーン王女の方が儚げそうだが。
民のためなぁ……うーん。確かにレーリア国民同士で争うことにはなるが……。
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巨大ゴーレムで大暴れした結果でハーレムが加速していく。
ただ問題は実家ですね。姑問題とか目じゃないレベルで。
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