第56話 兄貴ズを説得


 俺は兄貴たちを屋敷の食堂に案内した。


 この二人を取り込むのは必須事項のため、メイルやミレスにフレイアにも同席してもらっている。


 六人がひとつの机を囲んで話し合うことになった。


「直球で話します。ツェペリア領に戻っ「「断る」」、って来て「「嫌だ」」、頂けると「「拒否る」」……」


 言い終えるまでに三段構えで否定してきた……だとっ!?


 取り付く島もないとはこのことか!? 


「俺さ、好きに生きたいからさ。領地経営なんてガラじゃないし、弟の世話になるのもなんか嫌だ。このお茶うまいな、流石はメイルちゃん」


 トゥーン兄貴はメイルのいれた紅茶のカップを飲んでいる。


「すでに俺は工房で鍛冶屋として働いてるんだよ。師匠への恩もあるし、辞めるわけにはいかない」


 スリーン兄貴はため息まじりに呟く。


 二人にも当然ながら事情があるのだ。だが……ここで諦めると俺が過労死する!


 いや俺だけならまだよいとしても、ミレスまで巻き添えになるのは御免だ!


 今のツェペリア家には親族の血が、一門衆が必要なのだ! 


 そして俺は貴族だ、兄貴たちを説得する搦め手ならばお手の物である!


 気づいているぞ、二人の視線が俺よりもメイルたちに向いていることを!


「では兄貴たちは何故ここに戻って来たのですか?」

「いやほら、弟の現状を把握するくらいはなと。それ以外に他意はない」

「それな。やっぱり弟のことは心配だからそれ以外にないぞ」


 兄貴たちは口裏を合わせたように口を開く。


 だが……俺には分かる。この二人は決して俺が気になっただけで戻って来たわけではない!


 もちろん俺の現状を見たいのも嘘ではないのだろう。だが……それだけではないのは明らかだ! 


 前にスリーン兄貴は俺の家にわざわざ寄ってくれたが、あれも手紙を渡すという理由も一応あったからな。


 流石に何もなければたぶん来なかったと踏んでいる。いやあの状況で来てくれただけですごく弟想いなのだが。


「なるほど。ところで……メイルに義兄様と呼ばれるのは心地よかったですか?」

「「っ!?」」


 兄貴ズは驚いた顔を隠しきれていない!


 やはり予想通りだ! この二人だって所詮は男! 可愛い女の子と話すのが好きなのだ!


 だってさっきから彼らの視線は、俺よりも妻たちに向いているのだから!


「トゥーン兄貴、スリーン兄貴。ここは腹を割って話しましょう……兄貴たちのみじめな姿は見たくない」

「……いやさ。メイルちゃんに義兄様と言われると断れないというか」

「……ツェペリア領はまだ田舎だろ? 都会で生きてる今の俺なら、都会暮らしを夢見る可愛い女の子と恋仲になれないかなとか」


 やはり俺の兄貴たちだ! 


 ただ俺の現状だけ気になって来ました、よりもよほど信用できる理由だ!


 そしてその理由が分かれば交渉のやり方もあるというもの!


「わかります。やはり男たるもの、美少女に囲まれて暮らしたい! その気持ちは偽れません!」

「「一緒にするな、お前は少しは偽れ」」

「…………」


 あれ? おかしいな?? 同士だと思ったのにな???


 メイルたちも少しジト目で見てくるんだけど、俺の味方いないんだけど????


「まあベギラみたいにハーレム作る宣言はともかく、俺も可愛い妻は欲しいと思っている」

「俺もだな。とは言え鍛冶屋の弟子だとなぁ……なかなか難しい」


 兄貴たちも思い悩んだ表情をしている。


 そりゃそうだろうな。彼らは裸一貫でツェペリア領を出て行ったのだ。


 ようは平民たちと全く同じ立場で、更に言うなら年齢でハンデがあった。


 スリーン兄貴が領地を出たのは十七歳、トゥーン兄貴にいたっては二十歳くらいのはずだ。


 この世界の成人は十三歳なので、その年から働き始めた同年代に比べて出遅れてしまっている。


「そうですよね。では……」


 俺はメイルとミレス、それにフレイアを手で引き寄せて側に寄らせる。


「あ、メイルは俺の肩にもたれてくれ。ミレスは背中から俺に抱き着いて」

「はいです」

「いいけど……」


 椅子に座っている俺は、女の子三人に囲まれる態勢になった!


 これぞ必殺、美少女侍らせ成金ポーズだ!


「お、おいおい……お前それは……!」

「て、てめぇ……!」


 聞こえるぞ! 兄貴たちの生唾を飲み込む音が!


 我ながら趣味悪いなと思う。だが目の前の二人を説得するためには必要なことだ!


「ふふふ……ツェペリア領に来れば、このようなこともできますよ?」

「そ、それは反則だろうが……!」

「な、舐めるなよ! 俺たちにも兄貴としてのプライドがある! 弟に面倒を見てもらわなくても妻をゲットしてみせる!」


 兄貴たちは震えながら宣言してくるだと!?


 くっ! ここまでやったのにダメなのか!? まだ足りないというのか!?


 兄の面子なんて捨て去ってツェペリア領に来て欲しいのに! 


 別に俺が面倒を見るのではなくて、むしろこっちが助けて欲しいからなのに!


「くっ……強情な……! これ以上どうやれば…………ん?」


 俺のすぐ横には抱き着いているメイルがいる。ものすごく近くに美少女がいる。


 そしてそんな彼女の小ぶりな胸も手を伸ばせばすぐに触れる場所にあった。


 彼女は妻だ、なので合法。そして兄貴たちをこれ以上の羨望を抱かせるには、もはやこうするしか方法がない気がする。


 つまり大義があるので何となくおもむろに、つい服ごしに揉んでしまう。


 めっちゃ柔らかい。


「……っ。あ、あなた……」


 メイルが顔を赤くしてこちらを見つめてくる。


 許せメイル、これは兄貴たちの説得のためだ! 


 こうすることで兄貴たちは俺を羨ましがるはずだ! 決して俺が揉みたかっただけではない!


 案の定、兄貴たちは殺意のこもった目で俺を見ていた。


「て、てめぇ! ずるいぞ!? 俺らが飢えてるのを分かった上で女を侍らせて、空腹の狼の前で食えない生肉を!? くそっ! 俺もツェペリア領に戻ってやる!」


 トゥーン兄貴、陥落! これで揉み損ではなくなったな!


 いや損どころか、揉めた時点で兄貴がどうだろうとおつりがくるのだが。


「ち、ちくしょう……! だが俺は師匠への恩義がある……! すぐに辞めるなんて言えない……!」


 スリーン兄貴はまだ耐えている。


 だが甘い甘い。今の俺は……貴族なんだよ!


「その師匠の工房にこう伝えます。スリーン兄貴が辞める代わりに、ツェペリア領で鍛冶するなら特権上げますと」

「!? そ、それなら師匠はむしろ喜んで俺を売り渡すぞ!? なにせ今の街だと商売敵が多すぎるから、将来性のあるツェペリア領で商売したいと言ってた!」

「なら決まりでは? むしろ普通に働くより恩返しになるでしょう。それに兄貴の師匠からすれば、今後発展するツェペリア領との強力なコネが……」

「俺の故郷はツェペリア領だ。やはり故郷は見捨てられない」


 スリーン兄貴、陥落!


 勝った、勝った! これでツェペリア領の未来は安泰だ!


 いやこれまじで完璧な勝利だろ!? 兄貴たちを説得できて、俺は妻の胸を揉めたのだから!


「も、もう揉むのやめて欲しいです……恥ずかしいです……」


 メイルがホオズキのように顔を赤くしている。いやでもほら、勝利の余韻というか……。


 あ、しまった。どうせならミレスも一緒にやればよかった……。


 なお胸を揉んでしまった結果、三日ほど俺はものすごく昂った。


 だがライラス辺境伯から正妻がどうなっているか聞けておらず、妻と寝ることができないので死ぬほど苦しんだのだった。




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ゴーレムどこ? な珍しくハーレム回。 

ハーレム宣言している奴でなければ許すまじな言動。いや宣言してても許せねぇ(兄貴視点

そもそもハーレムにひとり関係ないの混ざってるのは内緒。


新作投稿始めました!

『異世界転移したら魔王にされたので、人の頭脳を持った魔物を召喚して無双する ~人間の知能高すぎるだろ、内政に武芸にまじチートじゃん~』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649640894997


話の内容はタイトル通りです! かなりの自信作です! 

プロローグでだいたいどんな話か分かるので、見て頂けると嬉しいです!



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