第55話 師匠ゴーレム
師匠がゴーレムになった後、とりあえず屋敷の外の庭に出た。
『ワシもこれよりツェペリア領の経営を手伝ってやろうではないか! この姿ではゴーレム魔法はもう使えんからのう!』
アイアンゴーレムとなった師匠は大ジャンプ。更に空中きりもみ大回転を繰り出した。
とても純度百パーセントの鉄で構成されているとは思えない。実は外側だけ鉄纏っていて、中身はスポンジだったりしません?
いやそれでも意味不明な運動性能だけど……。
『ふんっ!』
さらに師匠ゴーレムは足元の地面を殴りつける。
隕石が落ちたかのように数メートルのクレーターが発生し、周辺の地表がひび割れて行く。
……パワーが、パワーがおかしい。これもう災害級の魔物とかそんなレベルじゃん。
たぶんそこらのドラゴンが涙目で逃げて行くぞ。
「師匠、名実ともに化け物になりましたね」
『これぞ我がゴーレム魔法の賜物よ! ……いや待て、実はゴーレムになったで分かるが名はどういう意味じゃ』
「お気になさらず。しかし……師匠ゴーレムの力があれば……」
師匠は大きさこそクマくらいだが、内包されたパワーはもはや先日の巨大ゴーレムも凌駕しかねない。
これはとてつもなくヤバイ。なにせ巨大ゴーレムは大きいからこそ、巨体の重さも込みであの力を発揮できているのだ。
対して師匠は全身鉄なので重量はあるが、巨大ゴーレムとは比べるまでもなく軽い。
つまり重さ補正抜きのゴーレムの出力で比較するなら、師匠ゴーレムは巨大ゴーレムすら軽くあざ笑うレベルで強大だ。
しかも普通のゴーレムサイズなので小柄。当たり判定が小さく、全身完全に鉄なので恐ろしく強固。
挙句に空中でバク転できるほどの機動力……もしかしなくても無敵では?
「師匠、これから王家をぶっ潰しに行きましょう。師匠単騎にて勝てます」
勝ったな、もう王家ただの雑魚だわ。
師匠ゴーレムを倒す方法、たぶん海に沈めるとかじゃないと無理だろ。
なお相手は小柄で全身鉄の超重量、かつ4mほど跳躍できる怪物……どうやって海の近くまで運べばよいのだろうか。
つまり実質無敵だろこれ。魔法もよほどのものでなければ傷一つ負わせられないし。
『断る。ワシは内政なら協力するが、戦の手助けはせん』
「……マジですか? せっかくのそのボディの性能実験をしないのですか!? 無双できますよ!? ゴーレムを認めなかった奴らに目に物言わせられますよ!」
『…………ダメじゃ! こればかりは弟子の頼みでも無理じゃ! 工事くらいなら手伝ってやるから諦めろ!』
師匠は首を横に振って拒否する。
……ゴーレムってあんな器用に首を振れるのか。やはりコアの性能次第では、ゴーレムの可能性は無限大だな。
しかしここまで頑なに拒否されるとは思わなかった。師匠なら嬉々として性能実験で王家ぶっ潰してくれると……。
「わ、わかりました。ですが心変わり……いやコア変わりしたらいつでも仰ってください。すぐにでも王家簒奪作戦を考えますので」
『まあ心変わりすることはないと思うがのう。ワシは強くなり過ぎた……』
「なんか敵がいなくて寂しい人みたいになってますよ」
師匠、そんなキャラではないでしょうに……。
まあいいや。師匠のことは元々領地経営の計算に入れてなかったからな。
内政で手伝ってもらえるだけマシと思うか。超高性能万能重機にはなってもらえるだろう。
「では師匠、また依頼したい仕事があればお願いします」
『うむ! それとさっきの女子だが、ワシがゴーレム魔法を教えようと思うのじゃが。既にワシは魔法を使えぬが、教えるくらいならば可能じゃ』
師匠ゴーレムはゴンと自分の胸を叩いた。
かなり大きな金属音が周囲に響いて、空気が少し震えている……パワーゴリラかな?
しかしフレイアにゴーレム魔法を教えるのか……彼女にも魔ゲロ吐かせるのかなぁ。
いや俺は男だからいいんだけど、女の子にアレはきつい気がするなぁ。
『安心せい、あの娘には吐くほどのコアを飲み込ませはしない。せいぜい嘔吐感が出るくらいで留める。もう人体実験データは取れたからのう』
「そうですか、それなら安心……待ってください。今、人体実験データと言いませんでした?」
『こういうのは助け合いじゃろ。ワシはデータが取れる! お前は優秀な魔法使いになれた! 互いに得で何が不満か!? ……まあ失敗したら何かあったかも知れんが、確率的にはかなり低かったからの』
やはりマッドサイエンティストだろこの人!?
なんでそれで王家に対しては戦ってくれないんですかね!?
まるで自分の力を極力誇示したくないかのような…………あっ、そういうことか。
「……師匠のことは人がコアになったのではなく、俺が作った純正のゴーレムということにしますね」
俺の言葉に対して師匠ゴーレムは笑った……ような気がした。
いやのっぺらぼうなので全く表情分からないけど。
『分かればよい』
どうやら俺の予想は正解だったようだ。確かによく考えたらこれは、こればかりは広めるわけにはいかない……。
これまでの師匠の一連の行動が全て理解できたのでよしとしよう。
「師匠はこれからどこに住まわれるので? 今までの屋敷ですと少し不具合が出そうですが……」
屋敷とは人が住む前提の建物であり、全身鉄の塊の住処としては建てられていない。
例えば歩く師匠の重量に耐えられずに、床がすぐに抜けてしまいそうだ。
更に言うなら扉とかも開いた時に、力が強すぎて粉砕する恐れなどもある。
完全にパワーキャラの極みみたいになったな師匠……ゴーレム限定の頭脳役だったのに。
『そうじゃのう……そもそも今のワシは感覚がないので、雨風をしのぐ必要がない。建物がなくても平気じゃがのう』
「犬小屋ならぬゴーレム小屋でも建てますか? 床があると抜けますし」
コンクリート床なら大丈夫だろうが……そんなものはこの世界にはないからなぁ。
師匠ゴーレムは少し腕組みして考えている。やっぱり鉄の塊とは思えないほど動きに柔軟性がある。
下手すれば普通の人間より柔らかいぞ、いやカチカチだけど。
『どこか余っている倉庫はないかの? 床が踏み抜いてもよい感じの。雨晒しでもよいと言えばよいが、なんか気分的に嫌じゃ』
「ちょっと探してみますね」
領民に確認したところ、老朽化して使われなくなった倉庫があったのでそこを改修して住んでもらうことにした。
そうして師匠ゴーレム問題が解決して一息つきたかったのだが。
「ただいまです。義兄様たちをお連れしたです」
「おいおい、俺ら連れてきてどうするつもりだ? ツェペリア領に戻ってきてと言ってももう遅いぞ」
「俺は工房で働いてるからな」
次は帰って来た兄貴たちの説得をしないとダメか……!
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新作投稿始めました!
『異世界転移したら魔王にされたので、人の頭脳を持った魔物を召喚して無双する ~人間の知能高すぎるだろ、内政に武芸にまじチートじゃん~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649640894997
話の内容はタイトル通りです! かなりの自信作です!
プロローグでだいたいどんな話か分かるので、見て頂けると嬉しいです!
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