第53話 フレイアを紹介


 スクラプ領の有力者との顔合わせは終わった。


 彼らは俺に対して従属の意を示したので、ひとまずは大丈夫だろう。


 ツェペリア領がすごく好景気なので、そのおこぼれに預かれると思っているようだからな。


 むしろ彼らからすれば現状は理想的かもしれない。なにせ俺達と敵対していれば、どんどんツェペリア領に金が流れていくばかりだった。


 だが従属してしまえば同じ領地に近い扱いが受けられると。


 なので逆らう心配はなさそうだが……かといってスクラプ領の政務を全て部外者に任せるのは怖い。


 代官であるジーイのお目付け役も必要だ。その役目を担わせられる者は、現状のツェペリア領にはいない。


 ならばここは迎えに行くべきだろう、我が肉親たちを。


 俺はツェペリア領の屋敷に戻って、食堂のテーブル席についてメイルとミレスに話していた。


 ちなみにフレイアも同席して俺の横に座っている。


「そんなわけでスクラプ領はツェペリア領が飲み込むことになった」

「……一気に領地が十倍くらいに広がったんじゃない? スクラプ領の経営にお目付け役は必須だけど、信用できる人手が全く足りてないよ? ボクがスクラプ領に行くとなると……ベギラと離れることになっちゃうなぁ……」


 ミレスは上目遣いで寂しそうに俺の方を見てくる。

 

 か、かわいい。元気系ボクっ娘が寂しそうな表情はいいぞ。



「いやミレスは元スクラプ領につきっきりではなくて、俺と一緒にツェペリア領自体を見て欲しい」


 ミレスは俺の手元に置いておきたいからな。


 経営的な意味もあるが、それ以上に妻は側にいて欲しい的な意味で。


「なのでメイル、トゥーン兄貴とスリーン兄貴を回収してきてくれ。あの二人に元スクラプ領の土地を任せる予定だ」


 兄貴たち、自由放浪の時間は終わりにしてもらいます。


 ここからはツェペリア領発展のために尽力して頂きますよ! 


 もうツェペリア領での俺の支配は盤石! しかも優秀な魔法使いのフレイアまで私的な戦力で雇ったのだ!


 魔法使いは強力な戦力であり兵器だ。ましてや優秀なそれともなれば言わずもがな。


 少数の兵士で謀反を起こそうとしても、フレイアひとりで蹂躙されてしまう。


 つまり兄貴たちが戻ってきたとしても、歯向かえる奴は出てこないから問題ない!


 安心してください兄貴たち、決して悪いようにはしませんから!


「迎えに行ってもここに帰ってくるです? 拒否されるような気がするです」

「兄貴たちなら話くらいは聞くだろう」

「わかったです、それはいいです。ところで……その女の子は誰です?」


 メイルはフレイアのことをじっと見つめる。ミレスも値踏みするように観察していた。


「ふ、フレイアと申しますっ。この度、ベギラ様に雇われましたっ! よろしくお願いいたしたいですっっ!」


 フレイアは慌てながらペコリと頭を下げる。


 メイルたちはフレイアから俺へと、責めるように視線をうつした。


「ベギラ、もしかしてもう三人目を……?」

「いや違う。フレイアは優秀な魔法使いだから雇っただけで、他意は決して少ししかない」

「少しあるです……」


 メイルたちの視線から逃げるようにそっぽを向く。


 いやさ、俺だってどうせ雇うなら可愛い娘の方がよいわけで……。


「ち、違うぞ? 決して容姿が可愛いだけで雇ったわけではなくてな? 魔法使いとして俺のゴーレム軍を一撃で粉砕したその力を評価してな?」

「か、かわいいっ……」


 フレイアが俺の言葉に照れて顔を赤くする。


 なんだこの娘!? チョロすぎないか!? これワンチャンすぐに娶れるのでは!?


 そんなことを考えていると、メイルとミレスの視線が突き刺さって来る。


 いやほら、あれだよ。こんな優秀な魔法使いを妻にすれば、絶対利点になるじゃん?


 決して俺の邪な心だけじゃなくてね? 


「はぁ……まあいいけどね。とりあえず領地経営はうまくいってるから余裕はあるけど」

「悪い子ではなさそうです」

「よし!」

「「よしじゃない(です)」」


 思わずガッツポーズしたら叱られてしまった……。


 まあそもそもフレイアは妻として雇ったわけではないのだが……。


 メイルとミレスは小さくため息をついた後、フレイアに笑いかけた。


「ひとまず自己紹介だね……ミレスです。ツェペリア領の財政担当してるよ。それとベギラの妻です」

「メイルです。メイドなどをやっているです。同じく妻です」

「ふ、フレイアですっ。えっと、娼婦として雇われました?」

「優秀な魔法使いだから雇ったんだ! 決してそんないかがわしい理由じゃないから二人は怖い顔するのやめて!?」


 ……フレイア、魔法だけでなくて家庭内も燃やす逸材だったか。


 いや確かに雇った理由は言ってなかったけども……。


「ご、ごめんなさいですっ。私的に雇うと言われたのでてっきり……そうでもないと本来スクラプ男爵から頂くはずの報酬なんて払ってもらえないと……」

「「…………」」

「私的なボディーガードという意味だからな!?」


 いかん、この状況は真に遺憾だ。


 というかフレイア、そこまで覚悟して雇われたのか……もしかしてマジでワンチャン失せろ雑念! 


 借金のカタにそれはクズの極みだろうが!? 大義の欠片もないぞ!


「そ、そういうわけでメイル! 兄貴たちを回収してきてくれ!?」

「そういってメイルがいない隙をついて、フレイアちゃんを……」

「フレイアも護衛として連れて行ってよいからさぁ!?」

「……なんて冗談です。フレイアちゃん、この人をよろしくお願いするです」


 メイルはペロリと小さく舌を出して可愛く笑った。

 

「あはは、ベギラが妻を増やすのは元々言われていたことだし想定内だからね。お金にも余裕があるし」

 

 ミレスもケラケラと笑い声を出す。


 二人とも俺に勿体ないくらいよい妻だ……これで安心してフレイアを娶ることができ……。


「いや待て。冗談抜きでフレイアは娶るつもりで雇ったわけじゃないぞ。魔法使いとして有能だから欲しかったんだ」

「えっ? 本当にそうなの?」

「早とちりだったです」


 メイルとミレスは納得してくれて、フレイアは少しだけ沈んだ面持ちになった気がする。俺の願望かもしれない。


 そうして話は終わった。メイルはトゥーン兄貴とスリーン兄貴を迎えるためにツェペリア領を出た。


 ミレスは一時的に元スクラプ領地に行ってもらい、兄貴たちが来るまでのジーイの見張り役に任命した。


 そして俺とフレイアはと言うと……書類や手続きに追われていた。


「ベギラさまっ! 元スクラプ領に出店したい商会が殺到していますっ! 他にも街道に宿屋を作りたいなどっ! とにかくいっぱいの依頼がきていますっ!」

「ち、畜生!? スクラプ領がツェペリア領に飲み込まれた瞬間、土地の価値が異常高騰するなんて!?」

「わわっ!? 書類の山が崩れちゃいましたっ!?」


 俺が領主になったことでスクラプ領が伸びることを期待してか、土地の購入希望などが殺到したのだった。


 しかもメイルがいないので大量の書類の整理すらままならない。


 これらの書類は山のようにあるが大半が重要な機密情報だ。


 流石にフレイアに整理を振るにはまだ信用も足りてないし、そもそも彼女は魔法使いであって事務役ではない……。


「そ、それとベギラ様っ! 師匠と名乗るお方からお手紙が来ていますっ!」

「なにっ!? すぐに渡してくれ!」


 例え領地経営が忙しくても師匠のことは最優先だ!


 なにせあの人が目を離すと何をしでかすか分からない!


 フレイアから手紙を預かって書かれた内容を見ると。


 ――ワシはもうすぐ人生を終えるので、人生最後のゴーレム研究の成果を見せたい。一週間以内に絶対に屋敷に来るように。


 思わず目を疑いたくなることが記載されているのだった。



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