第44話 城塞都市建築開始!


 ライラス辺境伯がゴーレムを大量に借りてくれたことで、城塞都市建築用の資金をある程度得ることができた。


 無論、他の領地ならとても城塞都市を建てられる予算ではない。


 だが俺の場合はゴーレムで労働力が無料なので、とりあえずの石材を買える費用が手に入れば壁を作る作業を開始できる。


 俺は急いでここから最寄りのライラス領の街に出向いた。


 購入した石材を二百体の岩ゴーレムにして、ツェペリア領に連れて帰って来たのだった。


 そして城塞都市建築予定地、ようはツェペリア村(ようは本村、というか我が領には村ひとつしかない)の近くにゴーレムを集結させていた。


 本来ならこの量の岩の運搬だけでも恐ろしい人手、つまりは出費がかかる。


 それが俺の旅費だけで済むのだから笑いが止まらない。いやそれどころか……


「ゴーレム、崩れろ」


 命令した瞬間、二百体のゴーレムたちが一斉に少し輝いて地面に座り込む。


 すでにこの岩人形たちはゴーレムではない。ただの岩の塊にすぎなくなった。


 今ここにあるのは大量の石材、城塞都市の壁となるもの。


「一斉に動かなくなったです。もうゴーレムではないのです?」

「そうだ。こいつらはもうただの岩……つまり、またゴーレムにできる」


 俺はメイルに頷きながら岩の塊たちを見据える。


 普通に考えればこの岩ゴーレムは労働力にもなった。


 一部の岩ゴーレムだけを崩して、残りは城塞建設の作業にすべきだもったいない。


 普通ならばそうだろう、普通ならば。


「さてと……旅行中に散々魔力を注ぎ込んだコアを使ってっと……そらっ!」


 俺は自分の体内からゴーレムコアを取り出すと、動かず並ぶゴーレムたちの元へと投げ込んだ。


 クソコントロールの俺だが、流石に全面ほぼゴーレムならばかろうじて当たる!


 動かない岩ゴーレムの一体の足先に当たると、ゴーレムたちの二十体ほど一斉に輝きだす。


 岩人形たちは光の球体となって混ざっていく。どんどん高く大きくなり……光の球体がはじけた。


「えっ……? か、壁です!? 大きな壁です!?」


 その姿はいくつもの巨大な壁となっていた。高さ5mをも越える見事な代物へと。


 岩ゴーレムたちは城塞都市を覆う周囲の壁として、相応しい姿へと変貌した。


 この壁たちが合わさっていけば、リテーナ街の城壁にも劣らぬ立派なものが出来上がるだろう。


「あなた、こんなことできたんです!? これなら壁を簡単につくれるです!」

「以前に土かまくらゴーレムを造っただろ? ゴーレムを造る時の姿は別に人型に限らない。ならば魔力さえ許せば巨大な壁とて造作もない」


 少なくとも簡単な形状のものであれば、俺のゴーレム魔法ならば製造できる。


 壁ならようはただの板みたいなものだからな。


 ちなみに家とかでも造れるんじゃないかとも思って色々試してみた。


 ……柱とかがなくて壁だけで支えるタイプの、豆腐ハウスならワンチャンくらいかな……。


 あまり複雑な物はゴーレムにするのは難しそうだ。俺の技量が足りないだけで、極めればいけるのかもだが。


「ちなみにこれは普通の壁じゃないぞ? ゴーレムたちよ、!」

「「「「「ごおおおおおお」」」」」


 巨大な壁たちはまず身体の右部分を地面から僅かに浮かせて前に出し、その次は左部分、次は右をとゆっくりと前進しはじめる。


 明らかに歪ではあるがそれは歩くという行為だった。


「!?!?!? 壁が動くのです!?」

「そうだ。これこそが城塞ゴーレムの真の利点。移動可能な壁だ!」


 以前に造った土かまくらゴーレムは動けなかった。


 だがあれは稼働時間限定型で最低限の魔力で造った上に、明らかに動きづらい機構であったためだ。


 仮にあのかまくらゴーレムを半ドーム状にして、かつ魔力を少し多めに注ぎ込んでいたら話は別だっただろう。


 この壁のように左右を交互に動かして僅かに進めたはずだ。


 いや物凄い魔力を注ぎ込んだコアならば、かまくらがジャンプして動くという可能性もあったやも……。


 だが壁が動けたとしても本来はおかしくないのだ。


 そもそもゴーレムに筋肉などの類はない。動ける仕組みなど考えなくてよいのだから、妙な形でも動作可能なはずなのだ。


 それこそ例え人型でなくても、動物型でもなかったとしても。


 極論四角形のゴーレムを造っても、自力でサイコロみたいに転がることは可能だろう。


 ただし動くに適さない形状のゴーレムは移動速度が壊滅的になるが。


 というか形状によっては前に進めない。かまくらゴーレムとか無理だろうな。


「これで城塞の半分は完成だな。残り半分の石材も買い付けに行かないとダメだが」

「ところでさっきは驚きましたけど、城壁が動くことに利点はあるんです?」

 

 メイルは首をかしげながら上目遣いで聞いてくる、可愛い。


 彼女は辺鄙な村の出身のため、城塞都市についてはあまり詳しくはない。


 いやメイルに関わらずとも普通の平民なら、城塞都市のデメリットなど知る由もないか。


「城壁が動けるということ。それは城塞都市の最大のデメリットが消え去る。城塞都市は綿密な計画で建てねばならないというデメリットが」

「えーっと……?」

「城塞都市はな、そう簡単に壁を建て直すことはできない。つまり一度作ってしまえば拡張は難しい。物凄く綿密な計画を建てなければいずれ行き詰まる」


 城塞都市の壁はそう簡単には製造できないし、一度建ててしまえば拡張も難しい。


 本来なら工事だけでも数年単位でかかる上、中身である都市の完成図も想定して建てる必要がある。


 だが今のツェペリア領には時間がない。街計画は大雑把にして、さっさと城塞都市が欲しいのだ!


 ではどうすればよいか? 答えは簡単だ。


「壁が動けば拡張が可能ということです?」

「そうだ! そのためにわざわざ壁を何枚にも分けたんだ! 壁が移動可能ならば、拡張したい場合は少し増設してまた組み合わせればよいからな!」


 これこそが俺のゴーレム壁の最大活用!


 城塞都市は拡張が難しいという常識の壁をぶち壊す!


 いかん、あまりのすごさにドヤ顔がおさまらない! だがこれはドヤれるだろ!


「確かに便利です。ベギラなら城壁をすぐに用意できるので、城塞都市の拡張も簡単なのは凄いと思うです」

「ははは、もっと褒めろ。これまでの城塞都市が全て、このツェペリア城塞都市を羨ましがるレベルだぞ! なんたって壁が移動できるからな!」


 しかも俺くらい魔力がなければ、壁にできるようなゴーレムを造るのは難しい。


 つまり現状では他領から真似される恐れすらないのだ!


 もう無敵だ! 移動できる壁ゴーレムで特許取っておきたい!


「確かに凄いです、凄いですが……」

「なんだ? この動ける城塞に弱点も欠点もあるわけないだろ! この完璧な城壁に弱点があるなら言ってみろ! その懸念を木っ端みじんに砕いてやる!」

「これだけ早く簡単に壁を作れるなら、別に壁を移動させなくても崩して建て直せばよいのです」


 …………た、確かに。


 よく考えたら城壁が移動できない理由は、壁を建て直すのが物凄く大変だからであって。


 俺なら岩さえあれば簡単に製造し直せるので、そこの問題はほぼないに等しいのであって……あれ? 壁が動ける意味……ある?


 何なら壁ゴーレムを動くようにするために、永続稼働かつ必要以上の魔力を注ぐコアじゃないとダメでコスト最悪……。


 壁を定期的に建て直した方が綺麗だよな……うん。脆くなってる箇所があれば直せるし……。


「…………稼働期間限定の壁ゴーレムにするか。その方が壁を定期的に新品にできるもんな…………」

「それがいいです」

 

 木っ端みじんに砕かれたのは思い上がった俺の自信だった……。


 いやでも動く壁ゴーレムもきっと使い道はあるはずだ……城塞都市の城壁には微妙なだけで……。



---------------------------------------------------------

動く建築ゴーレムの最適解はハ〇ルの動く城な気がします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る