第42話 ゴーレム、貸すよ!
ゴーレムたちを一ヵ月ほど働かせた結果、ツェペリア領の西側の森はかなり切り開かれた。
少なくともライラス領を繋ぐ道が作れた。
なので改めてメイルとミレスを屋敷の食堂に集めて、朝から領内会議で今度のことを相談するのだった。
いつものように四人テーブルに一堂に会して、椅子に座って話し合う。
ちなみに今日はミレスが俺の隣だ。毎日席替えしてる。
「では第二回領内会議を開始する!」
「いつも晩の食事で集まってるのと同じだよねこれ? その時に話せばいいんじゃない?」
「違うだろ、なんかこう。会議してる感じが」
ミレスの正論に対して誤魔化しておく。
でも実際のところ、食事の時に会議するのは何か違う気がするんだよな。
「今回の議題はツェペリア領の外貨を稼ぐことだ! 我が領地は特産品もない! 麦などのどこでも育てられるものしか生産がない! ないないづくしだ!」
「あ、ちなみに予算もないよ」
「これ以上、ないの追い打ちはやめてくれ。ポジティブにあるものを言おう」
「借金」
「つらさがあるな」
思わずミレスと漫才してしまうくらいには悲しい。
ツェペリア領はただでさえ貧乏領地だったのに、ゴミクズが統治した一年半でより酷くなっている。
借金で首が回らない……自己破産とかしたいくらいだ。
この領地の大目的として城塞都市を建てるというのは決まったが、そのための資金が用意できない状況だ。
労力はゴーレムで何とかなるのだが、城壁用の研材などを買う金は必要だ。
「なので何としても稼がなければならない! このままでは城塞都市の計画が進まないんだ! 何かないか!」
「うーん……ツェペリア領には何もないからね。ベギラのゴーレムで農地が増えたから、それで作物の生産量は上がるけどね」
「それだけでは遅いんだ。一年以内でまとまった資金を用意して、城塞都市をある程度完成させたい。レーリア国自体が完全に二分になる前に。更に言うならライラス辺境伯への借りも作りたくない」
俺の言っていることが無茶なのはわかっている。
だが数年後では遅い。ツェペリア領に価値がなければ、この土地は戦場にされてしまうからだ。
レーリア国は近いうちに王家派とライラス派で争いが始まってしまう。これはもう不可避だろう。
ツェペリア領は二つの派閥のちょうど狭間にある。つまりちょうどよい場所だからと、二勢力の争いの最前線や決戦場所にされかねないのだ。
「あー……ライラス辺境伯がツェペリア領を重宝するようにしたいんだね?」
「その通りだ、ミレス。ライラス領からすれば現状のこの領地は、王家派への盾程度にしか思われていない」
このままではツェペリア領はライラス領の盾だ。王家との戦いでズタボロになる役目を仰せつかった……な。
これを避けるにはツェペリア領自体に価値が必要だ。
城塞都市が完成すれば経済的価値が生まれるので、急ぎ完成を目指したいというわけ。
「ようはライラス領に対してこの領地は荒らさない方がよい。メリットが大きいと思わせるんだ。宝石の盾など勿体なくて使えないだろ?」
価値の低い領地ならいくら荒れても誤差だと、積極的に盾にでも何でもされてしまう。
それに王家側にしてもツェペリア領に価値が出れば、自分達の陣営に引き込むなどの謀略を仕掛けてくるはずだ。
「分かったよ。領地の生き残りを考えるなら、少しよい農業地帯程度じゃダメ。城塞都市はかなり急ぎということだね? 商人として利益だけ考えて戦争のことが抜けてたよ、ごめん」
ミレスが申し訳なさそうに謝って来る。
だがこれは仕方がない。彼女はつい先日まで商人だったのが。
儲ける方法は思いついても、領地の防衛などまではまだ頭が回らないのだ。
「いや気にするな。これから慣れてくれればいい」
ライラス領を寝返ることは現状ではない。だがライラス領に対しての交渉カードが欲しいのだ。
王家から俺達への引き抜きがあったと言えば、ライラス領側も俺達が引き抜かれないように色々と心づけをくれる。
つまりツェペリア領の立場が必然的に上昇する。逆にツェペリア領が貧乏領地のままなら、どうでもよいからと扱いも酷くなる。
…………最悪いざとなれば王家に裏切るという選択肢も生まれるからな。現状ではありえないが。
「それで肝心の金策だが……ゴーレムレンタルを考えている。ようはゴーレムの貸し出しだ」
「ゴーレムレンタル? そんなの借りる人いるかなぁ……」
「いないです。レーリア街でのゴーレムの扱いを忘れたです?」
ミレスもメイルもすごく辛辣だ。
だが事実である。この国でのゴーレムの評価は最低レベルだ、実際の価値はともかくとして。
レーリア街でゴーレムを引き連れても、最初は散々な言われようだったからな。
そんな役に立たないと思われているモノをレンタルしても、誰も借りないだろうというのは正論だ。
「おいおい、いるだろ? ゴーレムを借りてくれそうで、かつお金持ちの御仁がお隣に」
「ライラス辺境伯に借りをつくらないと言ったばかりです!? 自分の発言を見直すです!」
「落ち着けメイル。これは借りではない、対等な商売だ! 何ならむしろ借りじゃなくて貸す側だ!」
レンタルだからな! 俺達貸す側、お客は借りる側!
「まあライラス領への貸し借りはよいとして……借りてくれるかな?」
ミレスは商売人なだけあって、すでにレンタル店の脳内シミュレーションをしているらしい。
彼女は腕を組みながら考え込んでいる。
「だってゴーレムは移動させるのが大変でしょ? ツェペリア領からゴーレムを引き取って移動させて、その上で働かせてさらにツェペリア領に返しに行くとなると……かなり手間で嫌がりそう」
ミレスの意見はもっともだ。
やはり彼女をツェペリア領に招いてよかったな。ゴーレムレンタルは無理と決めつけずに、しっかりと問題点を洗い出してくれる。
ゴーレムは誰でも操ることはできる。だが買い手としてはゴーレム引き取りを、誰にでもやらせるわけにはいかない。
何故なら責任のない者にゴーレムを引き取らせたら、持ち逃げされる恐れもあるからだ。
つまりある程度の責任と立場のある人間が、ツェペリア領との往復に追われることになる。
重要な人物がその仕事に追われるのでは、領内経営的に敬遠してしまう要因には十分だろう。
「確かにミレスの言う通りだ。取りに来て返して……となると文字通り二度手間。だがその往復をなしにすればどうだ? ようはゴーレムを取りに来るだけで済むなら?」
「帰りはツェペリア領で引き取りに行くということ?」
「いやそんな面倒なことはしない。一度引き渡したゴーレムは回収しない」
「「???」」
ミレスとメイルは二人とも首をかしげていて可愛い。
「どういうこと? 貸すのに引き取らない? それは売るってことじゃないの?」
「違う、あくまで貸す。ようは稼働時間を限定したゴーレムを引き渡すんだ。期間が過ぎたら勝手に崩れるから回収は不要」
サブスクリプションに近いイメージだろうか。
ようは契約期間内でだけ動くゴーレムを貸し出して、期間が過ぎたら使用不能になる。
「期間限定のゴーレムを売るのと何が違うです? 同じだと思うです」
「あー……ボクは何となく言いたいことは分かったかも」
ミレスは少しだけ考え込んだ後に。
「買うよりも借りる方が『お得』と思うってことだよね? 後は現状では期間限定稼働ができるのはベギラのゴーレムだけ。それを周知するのは大変だから、貸すという言葉を使っている」
「正解」
俺はミレスの言葉にうんうんと頷く。
商売人である彼女ならば理解してくれると思っていた。
「わからないです」
対してメイルはよくわからないようだ。これも仕方がない、彼女はメイドだからな。
「ゴーレムを買う、となると皆敬遠する。価値のないモノを買うリスクを犯したくないから。でも借りるとなると話は別だ。安くお試しみたいな感覚になる」
「売っても借りても、値段も価値も同じなのです」
「実際は同じだ。だが借りる方が安いイメージがつく。例えば『ゴーレム売ってますよ!』と『ゴーレム貸してますよ!』ではなんか後者の方が安くすみそうに感じるだろ?」
ようは新規の人に対して、ゴーレムを使うハードルを下げさせる試みだ。
年中セールをしているスーパーを知らないだろうか?
常に値段を下げているのなら、セールなんて言う必要はないはずだ。
では何故わざわざ無意味なことをしているか。それはお得感を出すため。
お客が「セールなら買おう」、という発想になるのを期待しているわけだ。
期間限定ゴーレムレンタルもそれと同じだ。貸出、という名目でお得感を出している。
「後はミレスも言っていたが、そもそも普通のゴーレムは永久稼働が常識だ。俺の稼働限定ゴーレムを周知するよりも、貸すという宣伝文句を放つ方が早い」
ゴーレムを貸しても返さずに借りパクされるため、普通は売り切り以外の選択肢はない。
だが俺の期間限定ゴーレムならば売れる。返してもらわなくても期間が過ぎたらただの土くれだ。
しかしそれを説明するには店に来てもらう必要がある……でも買い切りゴーレムは高いから、そもそも購入の検討自体がされない。
ようは店にもやってこないので、期間限定ゴーレムの存在自体知られない。
だから貸すという言葉を使っているのだ。安いのではと興味を持ってもらえるように。
「稼働期間が短いゴーレムは、使用内容を確定させてお買い得に貸す。対して長いゴーレムや普通の永久稼働のは、レンタル不可にして売る。これで客は騙さ……お得感を感じるはずだ。実際はゴーレムの性能変わらないのに」
「やってることは騙し売りに近いのです」
「違う。別に暴利をむさぼっているわけではない! 少し言葉の言い方とかを工夫しているだけだ! まずはライラス辺境伯にゴーレムレンタルの手紙を送るぞ!」
手紙の返事が来るまでに時間がかかるのが厄介だな。
こういう時にこの世界の不便さが身に染みる……地球なら電話一本なのに。
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