二章 ツェペリア領主編
ツェペリア領の発展
第37話 領主ベギラ
リテーナ街から引っ越してきて、この領地に到着した翌日。
ツェペリア領主館――ようは俺の実家の屋敷の食堂――で、俺とメイルとミレスが四人用テーブルに一堂に会していた。
まるで今から食事のように三人が机を囲んで座っている。
「これよりツェペリア領会議を行う! この領の今後を相談する重大会議なので、心して参加してくれ!」
俺は二人に向けて言い放つ。
本当ならばこの領地に戻ってきて、やりたいことは色々とある。
まだ師匠にも顔を見せてないくらいだからな。でもまずはツェペリア領の現状を把握せねばならない。
「あのー、ベギラ。色々とツッコミどころばかりなんだけど……とりあえずそんな重要な会議を何で食堂でやるの?」
ミレスが小さく手をあげて質問してくる。
彼女は我がツェペリア領の財務担当である。そして俺の二人目の妻!
「決まっているだろ! この屋敷に会議ができる部屋はここしかない!」
「えぇ……」
「この建物は便宜上、領主屋敷と呼んでるだけ! そこらの商店くらいの大きさなのは外からでもわかっただろ!」
ツェペリア領は木っ端領地のため、領主屋敷と言えども大したことはない。
というか冗談抜きで、リテーナ街の少し大きな商店の方が立派……。
「というかミレス、一泊したのにまだこの屋敷の中を見てないのか?」
「昨日は急いでツェペリア領の財務状況を確認してたから……おかげで寝不足……」
流石はミレス、商人の鑑だ。
この領主屋敷と呼べない何かもさっさと建て直したいな……こんな小さな建物に領主が住んでいると広まると、俺の評判に傷がつきかねない。
これまでのツェペリア領はド田舎。外との交流も少ないので評判など気にしなくてよかった。
だが俺はこの領地を大きくしていくつもりだからな! 悪い噂が流れそうなところは直していかないと!
「あなた、そろそろ話を進めるです」
横に座るメイルが会議の進行を促してくる。
彼女は俺の一人目の妻にして、この屋敷のメイドを兼ねるメイル。彼女は今もメイド服を着ていた。
「おっと話を進めないとな。ではミレス、早速だがツェペリア領の財政状況を教えてくれ! 今使える予算を全て使って、今後の発展のために費やす!」
「ないよ」
「…………?」
笑ったまま首をかしげる俺に対して、ミレスは顔色を変えずに見据えてくる。
「お金全くないよ。ミクズ元準男爵が領地規模に、不釣り合い過ぎる数の兵士を雇っていた。それに高給で集めてたみたいで給与払いでお金使いきってる。入手経路不明のお金もあったけど、それも綺麗サッパリ」
「あんのゴミクズっ……!」
「借金は酷いくらいあるね。更に言うなら去年は領民に無茶苦茶な重税をかけてるね。今年は無税にするくらいしないと、この領地を逃げ出す人も増えるかも……」
ひ、酷すぎる……!
ツェペリア領の財政難は考慮していたが、まさかここまで酷いとは……!?
「もしかしてツェペリア領って、俺が奪わなくても近いうちに崩壊してた?」
「何だかんだで自給自足はできるから、崩壊まではいかないんじゃないかな。領地からお金の類は完全に消えただろうけど」
原始時代の生活かな?
いや……思ったより数倍酷いな……トゥーン兄貴がこの領地を継ぐのは罰ゲーム的なこと言ったのも分かる。
なおそのトゥーン兄貴は、さっさとリテーナ街に向かって逃げて行った模様。
商人として旗揚げするとか言ってたが……。
「…………ツェペリア領の予算会議を行いたいのだけど。どこにいくら割り振るかを……」
「ゼロは割り振れないよ」
ミレスの一言が俺の心に突き刺さる。
ち、畜生!? せっかくツェペリア領の金で、これまでよりも大がかりなことできると思ったのに!?
これだとライラス辺境伯の屋敷の時の方が、遥かに予算とかあるじゃん!?
「しゃ、借金を……」
「すでに散々借りてるから無理だよ。こんな返すアテのない貧乏領地に、お金を貸してくれる商人いないよ……担保になるものもないでしょ?」
悲報、借金すらできない。
地球の常識なら土地を担保に出来るのでは? と思うが無理だ。
残念ながら領主は土地を譲り渡すことを国に禁じられている。なので土地を担保にするのは不可能。
領主は国を守るために土地をもらって税を集め、その金で兵士を国に提供するという名目がある。
土地を商人などに渡してしまっては義務を果たせなくなる。なので領地の売買などは国が認めていない。
……まあ正確には担保になるものはあるがとっておきたい。
これはライラス辺境伯への交渉手札になり得るからな。
「……つまり予算ゼロで領地運営しろと!?」
「むしろ借金あるです。でもライラス辺境伯にお願いすれば、たぶんお金を貸してくれるです」
「これ以上あの人に借りを作ると後が怖いからダメだ! ……金は何とかするから、まずはこの領地の開拓計画など考えよう」
金がない状態では何もできないから……いやゴーレムなら無料で労働させられるけど、こいつらで土地を開拓させても収入はない。
いくら何でも領地のお金が一切ないというのは大問題過ぎる。
病人を見る医者も、建物を建てる大工も、鍛冶職人も雇えない……。
ないものはどうしようもないので、一旦置いておくことにするしかないが。
俺はツェペリア領の地図をテーブルに広げる。ちなみに★がツェペリア領だ。
エルフ公国
────────────
| エーウ|
|───────
ライラス |★|スクラプ|
|───────
|ヨナス|
|─────|
|ペタン|
────────────
海
ツェペリア領は全方位森で囲まれている。そのせいで現状ではどの領地とも大した交流はない。
おかげでこの領地はずっとド田舎で発展しない。それではマズイのだ。
今の状況を打開しないとな……。
「ツェペリア領の森を切り開きたい。まずは西側からだな、ライラス領側の森はもうなくなってる。なので俺達の領地の森を取り除けば……」
「ライラス領との交通がよくなるから、商人が来てくれるかも?」
「そうだ! やはり最優先はライラス領と交易して、金を儲けることしかない! そのために交通の便をよくする!」
「でもこの領地は特産品とかないから、交通が整っても売れる物がないんだけど。商人も大して来ないんじゃないかな……?」
「…………とりあえずゴーレム動かす分には無料だ。なので森を切り開いてから考えよう」
前途多難なツェペリア領の統治が始まるのだった。
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