第33話 ミクズ逃亡


 ツェペリア領主屋敷。


 俺が気持ちよく寝室で運動していると、いきなり側近が飛び込むように入室してきた。


「ミクズ様! お楽しみのところ申し訳ありません! た、大変です! ゴーレムの群れが我が領地に侵入しました! 更におそらくこの地に向けって進軍中と!」

「はぁ!? ざけんな!」


 せっかく領地ではマシな女を手籠めにするところだってのに!


 目の前には服をびりびりに破かれた女が、怯えるように俺を見続けている。俺も服を脱ごうとしていたところでまだ何もできていない。


 くそっ、せっかくよいところだったのに! だが緊急事態だ、流石に続けられん……!


「チッ! すぐに配下を全員集めろ! ゴーレムなんぞ叩き潰してやる! 数はいくらだ? 五体か? それともまさか十体か?」


 ゴーレムは力強くて厄介な存在だ。それが五体も固まっていればかなり厄介、十体もいれば恐るべき群れだ。


 あのゴーレムクソジジイの屋敷にも、常に十体を超えるゴーレムがいるせいで手出しできていない。


 群れたゴーレムは厄介なのだ。本来ならば優秀な冒険者を大勢雇って撃退するくらいには。


 だがこの領地に冒険者はいない。ゴーレムが攻めてくるとなれば俺の部下たちに迎撃させるしかない。


「そ、それが……数は二百ほどと!?」

「はぁ……あのな、お前は俺をなめてるのか? 俺はミクズ様だぞ?」

「い、いえっ! 斥候からそのように報告が……!」

「お前の頭は飾りかゴラァ! ゴーレムが二百も揃うわけないだろうが! この国で動いてる全ゴーレムかき集めても、そんなにいるかよバカ! そんな大嘘報告で俺のお楽しみを……!」


 なんてバカな奴だ! 俺はこんな無能を側近にしてしまったのか!


 ゴーレムは製造に凄まじい時間がかかる上、もはやゴーレムを造るような馬鹿はこの国に二人しかいない!


 しかもベギラは隣国のなんとかとの戦いで、バカみたいにゴーレムを全部潰したと聞いている!


 どう考えても二百のゴーレムなど用意できるはずもないのだ!

 

 やはりこの世界の奴らはバカしかいない……せめて小学生の算数くらいはこなせよ……。


「お、お待ちください! 二百は斥候の勘違いだったとしても! ゴーレムが群れてこの領地に来ているのは嘘ではないでしょう!」

「ならさっさと撃退用の兵士を揃えろや! 言われないと何もできないのかゴミが!」

「す、すぐに手配いたしやす!」


 俺の怒りがようやく通じたのか、側近は飛び上がるように部屋を出て行った。


 はぁ……本当に無能しかいねぇ。隣領などから仕官を募集して雇ってはいるが、やはりロクな奴がやってこない。


 が、大金を支援してくれたから雇う資金はあった。


 そのおかげで俺の兵隊は今や二百にも増えたが……有名な奴らは雇われないのだ。


 やはりツェペリア領の土地が悪すぎるのが原因だ。そのせいでよい人材は他の領地に行ってしまう。


 まあこの世界の奴らなんてほぼ十割ゴミなんだがな……雷を電気だとも知らずに、神の怒りじゃとか恐れるバカ共だからな。


 有能な奴が部下に欲しいものだ、俺みたいな。


「さてと……俺は少し出てくる。お前はここにいて待っておけ。戻ってきたらヤってやるから。感謝しろよ、ゴミな女風情に俺が種をやるんだから」


 部屋の隅で震えている女を置いて、俺は寝室からゆっくりと出て行く。


 せっかく戦に出るのだから正装に着替えて、色々と準備して屋敷の庭に出ると二百の兵士が揃えられていた。


「ミクズ様! ご指示通りに兵を揃えました!」


 俺の側近がやり遂げた顔で近づいてきた。


 ……はぁ、こいつはもう側近でいいだろう。あり得ない報告をした反省皆無だ。


 俺は並んでいる百の兵士たちの前に立った。


「お前ら、さっさとゴーレムの群れを潰しに行くぞ! おそらく五体、多くても十体程度、お前らならば楽勝だ!」

「「うっす!」」

「勝った後は近場のライラス領の村を襲うぞ! ゴーレムがライラス領から来たんだから、責任は取ってもらわないとなぁ!」

「「「「「「「うっす!」」」」」」」

「行くぞ野郎共! 進めぇ!」


 俺は部下を引き連れて村を出てから、街道に沿って軍を進めている。


 ゴーレムの群れが実際に何体いるか知らないが、二百人の兵士にかかれば朝飯前だ!


 ゴーレムが数体ということは、どうせあのアホベギラが俺に無謀にも逆らおうとしているのだろうが……。本当にあいつは救いようのないバカだ。


 あいつは昔に俺をぶっ飛ばしたことで調子に乗っているのだ。卑怯な不意打ちしてきただけのくせに!


 もはやあいつと俺では格が違うのだ。ベギラは平民、俺は準男爵様で地と天ほどの差がある。


 今度は俺がお前の顎を、いや全身の骨を砕いてやるよ! ついでにお前のメイドも俺の奴隷にしてやる!


 そんなことを考えながらしばらく歩き続けていると、何やら小さな粒が見え始めた。


「おうおう。ゴーレムの群れが見え始め……」


 俺は思わず次の言葉を失った。


 前方には広がるのは遠くからこちらにやってくるゴーレムたち。


 そう辺り面に広がるほどのゴーレムの軍。


 いや待て……いくら何でも多すぎるだろ……!? どこか五体や十体だ!?


「ミクズ様! 敵のゴーレムが多すぎます! もはやあの数……千を超えるのでは!?」


 動転する元側近が俺に話しかけてくる。


 ……ふざけんなよ! お前がちゃんと俺にゴーレムが二百体以上いると納得させないから!


 いや今はそんな場合じゃねぇ! 何としても俺は逃げねば!


 こいつらが全員死んでも構わないが、俺だけは必ず無傷で生き残らねぇと!


「てめぇら全員! あのゴーレムを蹴散らせ! 俺はその間に領地に戻って援軍を呼んでくる!」

「そんな無茶な!? 勝てるわけが!?」

「黙れぇ! 俺の命令に逆らうなら全員斬首だ!」


 俺はそう言い残して屋敷に向けて走る!


 あいつらが壁になって時間を稼いでいる間に、金目の物を回収して逃げるしかねぇ!


 畜生! 畜生! 準男爵である俺がっ、自分の領地から逃げ出さないとダメなんてくそがッ!


 覚えてやがれベギラぁ! お前は絶対に楽には殺さねぇ!


 そうして怒りを噛み殺して、必死に走った俺を待ち受けていたのは……すでにゴーレムに包囲されていた屋敷だった。


 そしてゴーレムたちのそばにいたのは、あの忌まわしきベギラだった。


 ベギラは俺に対して勝ち誇った笑みを浮かべてくる……!

 

「ゴミクズか、もうこの領地は俺の物だ。ゴーレム、そいつをしてやれ。両手足を折らずに殺さない程度に殺してやれ!」

「「「「「ごおおおおおおお」」」」」


 いつの間にか屋敷と同じように、ゴーレム共に包囲されていた。


 そしてゴーレム共はゆっくりと包囲の輪を狭めてくる。


「や、やめろっ……来るなっ! 来るなぁ!? ごはっ!? げほっ!? おえっ……」


 そしてなぶるように何度も何度も殴られた。


 顔、みぞおち、肩、足……そして気がつけばツェペリア領の東の方の街道に捨てられていた。


「く、くそがっ……ベギラ、お前は絶対に許さねぇ……!」


 近場に落ちていた棘だらけの木の棒を杖代わりにして、節々痛むのをこらえながら東へと街道を進み続ける。


 肋骨が折れてるのか物凄く身体が痛い、手も棘だらけの木のせいで……だが俺は転生された特別な人間、この世界で主役となるべき者だ……! 

 

 こんなところで死ぬわけがない! だからこそ生き残っている!


 王家だ……俺は正式な準男爵なんだ……王家に助けを求めれば、必ずツェペリア領を取り戻して、大罪人としてベギラを殺してくれるはずだ!



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ゴーレムたちは全員が横一列に並んでいます。

なので普通の軍よりも横幅が広くて、ベギラの部下はすごく多く見えたと。

横陣は文字通り横長の陣形ですが、普通なら縦にも四列くらい並ぶので。

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