第32話 ツェペリア領へ進軍
俺はライラス辺境伯からツェペリア領の奪取の許可を頂いた。
ツェペリア領はもはやゴミクズのせいで、危機に扮しているのだ。
石肉の争いとかで内乱が起きていて、もし他貴族から狙われたら即座に侵攻されて滅んでしまうだろう。
隣領であるライラス辺境伯が野心溢れる人物であれば……いや思いっきり野心溢れてるな。
何なら俺を通して今からツェペリア領攻め込まれるな……まあこれも全てゴミクズが悪いんだ。
あいつがこの世界に生まれて来たのが悪い。故に今すぐに攻め込むことにした。
俺は切り開き終えた森の元入り口、土かまくらゴーレムのいた場所に戻った。
そしてメイルと共に今回の作戦を確認している。
「いいかメイル、今回の作戦の肝は蹂躙だ。ゴミクズの部下は極力逃がさずに再起不能にしなければならない。もしくは領内から完全に追い出す」
「過激です」
「そうじゃないとあいつら山賊とかになって、今後の俺の統治の邪魔になる! 被害者も増える! これは正義なんだ!」
俺は高らかに宣言する。
基本的に今回の作戦は全て俺に一任されている。
理由はライラス辺境伯が直接的に手を貸せば、彼女が実質攻め込んだと他貴族に責められる故である。
「ここには森の切り開きに使ったゴーレムたちがまだいくらか残っている! その総数はなんと二百! こいつらでツェペリア領へ進軍する!」
「ライラス辺境伯に支援を求めないのです?」
「求めない! 俺の力だけで奪わないとダメだ……でないと、今後二度と頭が上がらなくなるから……」
ライラス辺境伯からの支援が来ないこと、いや正確に言えば支援を押し付けられないこと。
これは俺にとっては好機だ! 何故ならば、ライラス辺境伯の手を借りずにツェペリア領を占領できるから!
……ライラス辺境伯にあまり借りを作りたくない。
あの人は確かに優しいところもあるのだろう。国を憂う心も持っていて、だからこそ国家転覆を狙っているのだろう。
だが間違いなく甘い人物ではない、と断言できる。故に借りをつくるという隙を与えたくないのだ。
ここはあの人の支援を頼らずに攻める。そうでなければ俺が当主になった後のツェペリア領は、永遠にライラス領の属領から抜け出せないだろう。
当主である俺が頭が上がらないのだから是非もない。
それではダメだ、俺はツェペリア領とライラス領地にいずれ対等な関係を築かせたいのだ。従属ではなく同盟でありたい。
「……僅か二人で領地を奪取するんだ。伝説になるぞ」
日本の戦国時代にはこんな話がある。
あの織田信長も落とすのに失敗した名城を、僅か十六人の手勢で乗っ取る事件が起きたのだ。
それを成したのは天才軍師にして、あの豊臣秀吉の右腕だった竹中半兵衛。実際には手勢を裏で隠していたなど諸説はあるらしいが。
俺も領地を二人で乗っ取ればきっとそんな逸話が語り継がれることに……。
「ゴーレム二百以上もぞろぞろ引き連れて、小さな領地を力で奪って伝説になるわけないです。ただの弱いものいじめです」
「やめて」
ゴーレムは人じゃないからノーカウントでは……まからないかなぁ。ダメ?
「ダメです」
「心の声に返事するのやめて」
メイルとの関係が長いのもあって、互いに考えてることがだいたい分かってしまう。
「しかしまあ……何と言うか。ツェペリア領を出てから一年半近く経ったが、まさかこんな早く戻ることになるとはなぁ。しかも攻めることになるとはなぁ」
ゴミクズが生きている限り、戻って来ることはないと思っていたが……。
メイルも同意見だったようで小さく頷いた。
「メイルも計算外でした。今頃はお貴族様の家で奉公している予定です」
「え? それだと俺の立身出世は予定されてない……?」
「予定外です」
悲報、俺はメイルに信じられていなかった。
……いやまあさ、最初から働かないこと前提の予定立てる娘も危ういけどさ。
むしろ自立予定で計画する方が絶対偉いよな……うん。
「……よし! 必ずやツェペリア領を奪還して、俺が領主となって建て直すぞ!」
「ところで気になっていたのですが。坊ちゃまが領主になれるのです? トゥーン様とスリーン様の方が継承権は上では?」
「スリーン兄貴は以前に話しただろ。あれはもう領地に戻って来る気もない。トゥーン兄貴は……諦めてくれなければ、説得するしかないなぁ」
継承は絶対に生まれた順というわけではない。
それにトゥーン兄貴がツェペリア領を継ぐのはダメな理由が二つある。
ひとつめはゴミクズ兄貴に好き放題させてしまっているから。
トゥーン兄貴はゴミクズを陥れて廃嫡させなければならなかったのだ。いくら難しかろうとも。
ふたつめは俺がツェペリア領を継がなければ、ライラス辺境伯が認めない。
つまりトゥーン兄貴が俺を差し置いてツェペリア領を継げば、強大なライラス領と敵対する無理ゲーになる。
なのでトゥーン兄貴には領主の座を諦めてもらうしかない。
そんなことをメイルに話すと、彼女は少し感心したように俺を見てくる。
「坊ちゃま思ったより色々考えてるです」
「そりゃそうだろ。ハーレムの大義を得るのは簡単ではないからな」
「そこは貴族としての責任とか言って欲しかったです」
「安心しろ。それもハーレムの大義のひとつだ! よし、そろそろ行くぞ!」
後ろのゴーレム軍に向いて振り向き、大きく息を吸うと。
「これより目指すはツェペリア領! かの民を苦しめる暴虐ゴミクズを滅ぼし、必ずや領地を救うのだ! 総員……出陣! ツェペリア領へ進めぇ!」
ゴーレム軍は一斉に前進し始める。
ツェペリア領の趨勢を決めるじゅうり……戦が今ここに開かれるのだ!
「坊ちゃま、今の命令ですが正直最後の『ツェペリア領へ進め』だけで事足りるです。ゴーレムを盛り上げる意味はないです」
「正論やめて。俺が盛り上がりたかったんだよぉ!?」
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申し訳ありません。
本文が一部二重になっているところがありました。
すでに修正済みです。
コメントでお教え頂いた時に冷や汗が出ました……。
急いで投稿してもロクなことがないですね……。
投稿前に見直せばこんなことには。
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