第31話 ハーレムは綺麗ごとだけではない


 どこかの場所、どこかの森の巨大な大木をえぐって作った住居の大部屋。


 家具は全て木製の風変りな部屋、そこでは巨大な円卓を囲んで大勢の者が話し合っていた。


「新たなゴーレム使いがレーリア国に現れたらしい」

「バカな。すでにあの国はひとりの生き残りだけのはず」


 彼らは全員が整った顔をしていて、輝くような金髪を持っていた。


 だが何より特徴的なのは、耳がとがっていて長い。


「事実だ、しかもゴーレムの長所を使いこなしている。ゴーレムが丈夫かつ使い捨てが出来て、兵糧不足で戦える。更には労働力としても」

「……本当ならば由々しい事態だ。……何故、人はここまで愚かなのか。もはや猶予はない、速やかに芽は摘み取るべきだ」


 彼らは呆れたようにため息をついた。


「ではこの賢人会議の結論は、処分でよいか?」

「「「「意義なし」」」」







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 俺はライラス辺境伯屋敷の執務室でお褒めの言葉を頂いていた。


「ベギラー、よくやってくれましたー。賭博ギルドを滅ぼしたことにより、貴方の名声はかなり高まりましたよー」

「いえ……正直ほぼほぼライラス辺境伯の工作の結果と思うのですが……」

「工作ー? 何のことでしょうー?」


 ライラス辺境伯が椅子にもたれながら、機嫌よさそうに俺の方に視線を向ける。


 相変わらず可愛い笑顔だ。少し幼い風貌も相まってより子供のように見える。


 だが……この人、明らかに見た目と精神が違う……結構怖い。


「そろそろ頃合いですね。ベギラ、ツェペリア領を奪還しに行ってはどうですかー?」

「……!」


 とうとう来たか。


 憎きゴミクズから当主の座を奪う時が、とうとう。


「私は今は直接的にツェペリア領に軍を出すことはできませんー。あくまで貴方が個人で反乱を起こした態が必要です。分かりますね?」

「もちろんです。ライラス辺境伯が直接手をくだせば、それはもはや紛争ですから。他の貴族が介入してきます」


 ライラス領がツェペリア領に攻め入るとなると大義が足りない。


 俺達の開拓をツェペリア領は邪魔してきたが、それを侵攻の言い訳にするのは苦しいのだ。


 理由としてはあの領境紛争は、ライラス領にもある程度の責はあると見なされるからだ。


 領境付近で派手に開拓などすれば、隣領が警戒して動くのも仕方ないのでは? という話。


 普通に考えれば境付近で何かやるなら、相手側が怪しむのは理解できる。


 実際に俺達は軍事施設である砦を立てようとしているからな。


 つまり他領との領境付近で派手に何かをしていれば、他領と揉め事になることはよくあること。


 言わば隣同士で少し口論になるようなものだ。それを理由にして侵攻まで仕掛けるのは、相手の家に殴り込んで暴力振るうのと同様でやりすぎだと。


 まあ国内の仲間同士での紛争は極力避けるための慣例法だ。相手が他国なら通用しない身内ルール。


「そうですねー。なのでベギラが家を乗っ取ってくださいー。兵力は無理ですが力は貸しますよー。必要な物資や金銭があれば、惜しみなく援助しますのでー」

「ありがとうございます! 必ずやゴミクズの首をとってみせます!」


 意気揚々と返事する俺に対して、ライラス辺境伯はニコリと微笑みかけてくる。


「いえー、ツェペリア準男爵は殺さないでくださいー」

「……えっ? お待ちください、あいつは百害あって一利なしですよ!? 殺した方がのため人のため、ひいては俺のためです!」


 ようは俺がゴミクズを殺したいのだが!?


 いやあいつ生かしてたら絶対また面倒なことになるって!


 復讐とかしてくるに決まってるぞあいつ!


「確かにツェペリア準男爵を生かすと百害ありますがー、一利あるのですー。それも見逃せない大きな一利がー」

「あれに存在価値を見出すなんてライラス辺境伯は神でしょうか?」

「とても血のつながった兄に向けた言葉ではないですねー」

「あれと血がつながっているのは、俺にとって生涯最大の不覚です。どうかここで遺恨なく処刑させてください……!」


 ライラス辺境伯に向けて断言する。


 ゴミクズと和解なんてことは天地がひっくり返ってもあり得ない。


 前世の俺はあいつに殺されたのだから! 


 ……転生って天地がひっくり返る以上のことな気はするのは内緒だ!


「恨みはわかりますー。ですが二年だけツェペリア準男爵の命をくださいー、二年ほどです。それ以降は煮るなり焼くなり、斬るなり抉るなり潰すなり好きにしてくださいー。貴方にも得なことですのでー、五体満足で逃がしてくださいー」


 ライラス辺境伯は話の分かるお方。そんな人がここまで曲げないのだ、俺が散々殺したいと言っても。


 それほどの理由があるのだろう。ゴミクズを生かす理由が。


 ……正直あいつの話は聞きたくないので、詳細を問うのはやめておこう。


「……仕方ありません。真に遺憾ながら承知……!」

「ありがとうございますー。お詫びに何かせねばなりませんねー。何か欲しいものはありますかー?」

「今のところはありません。いずれ婚儀の件でご相談をしとうございます。結婚を想定している娘がいまして」

「はーい」


 結婚。それは誰しも自由にできるものではない。


 ましてや貴族ともなれば自由恋愛からの結婚など、半分夢物語のようなものだ。


 何故ならば婚約とは政治である。今後も仲良くしたい他家との関係強化のために、政略結婚するのが大半だ。


 女は政略結婚の道具であると見ている貴族も多く、娘の結婚相手は親が勝手に決める。


 戦国時代の日本でも婚姻同盟などという言葉もあるくらいだ。


 有名なのは織田家と浅井家の同盟の証として、信長の妹であるお市が浅井家に嫁いだことだろうか。


 そして貴族家に仕えている従者であっても、結婚相手を完全に自由には選べない。


「ちなみにそれはー。私の従者としての言葉ですかー? それともー、ツェペリア家当主になるのを見越しての?」

「両方でございます。私はツェペリア家の当主になろうとも、ライラス辺境伯への忠義を貫く所存です」

「あらあらー。忠義者ですねー」


 ライラス辺境伯は笑みを絶やさない。


 ……おそらく俺の忠義の言葉は、彼女には信用されてないだろうなぁ!


 ちなみに従者が結婚相手を自由に選べないのも理由がある。


 雇っている側視点で考えて欲しい。もし雇っている従者が、敵対している他家の関係者と結婚されたらどう思う?


 間違いなくその従者を今までのように扱うことはできないだろう。


 家の情報を敵対している家に漏らされかねない。スパイを身内に持ってしまうようなものだ。


 故に従者の結婚にも当主の許可がいる。


 俺の場合は……ツェペリア家当主になっても、ライラス辺境伯に逆らえないから……実質従者継続に近いからなぁ……。


 平民の妻を増やすならともかく、貴族家同士の繋がりとなる者を妻に迎える時はライラス辺境伯の許しを得たほうがよい。悲しいね。


 まあライラス辺境伯も鬼ではない。俺が王家派閥の家の者と結婚とかでもなければ、そうそう反対などしてこないだろうけども。


「ベギラの結婚相手をー、私の方でも見繕ってみますねー」

「あ、ありがたき幸せ……」


 土地持ちの貴族になる以上、全ての妻を自由恋愛で獲得するのは無理ということだ。


 政治の都合上、断れない縁談話が出てくるのも不可避。


 これもまたハーレムを作る大義なのだ……せめて側室には好きな妻も欲しいなって……。

 

 ライラス辺境伯様! お願いですからどうか、どうか美人で可愛くて性格が清い女の子をお願いします……!


 テンプレ悪役令嬢みたいなのはご勘弁を……!


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