第30話 賭博ギルドをぶっ潰せ 後編
俺はメイルと共に賭博ギルドの本拠建物を、少し離れたところから眺めていた。
建物は今もゴーレムに包囲されていて、ネズミ一匹抜け出すことができない。
俺はゴーレムたちの円の内側で立っている形だ。
なんか一週間前に建物から「かかってきやがれ!」とか聞こえたけど、何でわざわざ相手が元気な時にかかる必要があるのか。
「はぁー……暇すぎる。メイル、どうせなら賭けでもしないか? 賭博ギルドがいつ降伏してくるかで」
「趣味が悪すぎるです……」
賭博ギルドを完全包囲してから一週間が経った。
わざわざ包囲している理由は民衆へのアピールだ。
一気呵成に建物を攻め立てて短時間で解決するよりも、こうやって派手に包囲し続けた方が街の人たちの話題になる。
そして大量のゴーレムを陣頭指揮する俺の雄姿も、民の目に刻むことができるというわけだ。
この賭博ギルド撲滅の主目的は、俺の評判を上げるためでもあるからな。
「賭博ギルドめぇ! この詐欺野郎が! 俺の金を返せー!」
「お前らのせいで大損したんだ! 消えろ! 死ね!」
「この人殺しどもがぁ!」
一部の民衆がゴーレムの後ろから、建物に向けて石などを投げ始めている。
民衆は賭博ギルドに怒りを覚えていた。何故ならライラス辺境伯が街中に広報したのだ、『賭博ギルドは詐欺を弄して、不当に金を巻き上げていた』と。
更にはミレスの一件も、彼女の名前をぼかして広めたりもした。俺の名前は実名で流されたけど。
おかげで賭博ギルドは完全に民衆の敵と化して、俺は正義の使者として更に名声が上がっている。
本来ならばこのような時間をかける策はナンセンスだ。大勢の兵士を使って包囲するならば、かかる日数分だけ兵たちの食事も必要なわけで。
なので普通ならさっさと攻め滅ぼすのだが……ゴーレムたちなら人件費も食費も無料だからな。
賭博ギルドの奴らは馬鹿なようで未だに抵抗をし続けているが……長期戦になるほど不利って分からないものかね?
「さてと……また降伏勧告するか」
俺は大きく息を吸うと、賭博ギルドの建物に向けて言い放つ。
「お前たちは包囲されている! 速やかに抵抗をやめて出てこい! 法の下に正しく裁くと誓おう!」
意図的に正義っぽく叫ぶ。なおこの場合、『法の下に正しく裁く』と書いて処刑である。
俺の言葉に対して民衆からも歓声があがる。
「卑怯者どもめー! 流石は卑しい賭博ギルドだな! 法の下に正しく裁くとまで言われているのに!」
「ライラス辺境伯やベギラの潔白さに比べて、賭博ギルドのなんと卑しいことか! 恥を知れ!」
「何でもいいから死ね! そして俺の金を返せ!」
……想像以上に民衆が盛り上がってるな。
賭博ギルドめ、結構な人数から金をせしめてたのだろう。
しかし賭博ギルド君との我慢比べにも飽きたな……もう民衆へのアピールは十分だろう。そろそろトドメをさすとするか。
そういえばだが賭博ギルドを包囲してから、ミレスが毎日差し入れを持ってきてくれていた。
……もしかして俺に本当に惚れてるとか……ない? 期待したらダメ?
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「く、くそっ……腹減った……」
俺はは賭博ギルド本拠のギルド長室で、椅子に力なくもたれていた。
一週間の籠城に寄って既に建物内の食べ物は尽きた。それも当然だ、元から籠城する用意などしていないのだから。
くそっ……このバルガス様が飢えに苦しむなんざ……!
「ば、バルガス様……降伏いたしましょう……。もはや食べ物も尽きて……」
「馬鹿言うな……! 投降したところで殺されるのがオチだ!」
降伏や投降なんてあり得ねぇ!
ここで降伏したところで俺は処刑されるだろうが!
他のギルド員は助かる可能性があるが、俺だけは必ず見せしめに殺される!
その選択肢だけはあり得ねぇ! だが実際のところ、すでにギルド構成員たちは限界に近い。
なにせ一週間もロクに飯を食っていないのだ。水も今日には尽きる。
……クソっ! 盗賊ギルドめ何をしてやがる! まさか俺達を見捨てたのかっ!
…………これ以上時間を費やしても、俺らの状況は悪化するだけだ! こうなりゃ無理やりにでも道をこじ開ける!
壁に立てかけていたメイスを持ち上げる。こんなに重かったか? まあいいか……。
メイスを振り回して他の奴らを睨んだ。
「お前らぁ! これからこのゴーレムの包囲を突破して逃げるぞ!」
だが俺の命令に対して、他の奴らは明らかにやる気がない。
「そ、そんな無茶な……ゴーレムの数を見てくださいよ……」
「勝ち目なんてありませんって……降伏しましょう」
「このゴミ共が! 戦わないなら俺が殺して……!」
そう叫んだ瞬間だった。
いきなり部屋の扉が破られて、土のゴーレムたちがズラズラと室内に入って来る。
「よお、バルガスとやら。お前を捕縛するから大人しくお縄につけ!」
ゴーレムの後ろにはガキみたいな奴がいる……あいつがこの建物を包囲してるベギラとかいう奴か!
お前さえ殺せば隙が生まれるよなぁ! 俺を舐めて目の前に出て来たことを後悔させてやる!
「ガキがしゃらくせぇ! この俺を舐めるなよ! 【撲殺剛力】の力を見せてやらぁ!」
「ゴーレム、俺を守れ」
ガキに向かって突進すると、一体のゴーレムが進路を阻むように前に出て来た。
たかがゴーレム風情が邪魔をするな!
メイスを振りかぶって、出て来たゴーレムに対して思いっきり叩きつける!
ゴーレムは右腕で防御の態勢をとるがムダだ!
「俺の剛力を舐めっ………ば、バカな……」
ガキンと鈍い音がして、俺のメイスがゴーレムの土の腕に少し食い込んだだけで止まってしまった。
「……は? 俺の渾身の一振りが土ゴーレムに受け止められた……?」
そんなあり得ない! たかが土が、俺の渾身の一振りを!?
いや待て!? こいつの腕、感触がおかしいぞ!? 外側は土で柔らかいが、内側に硬い物が……。
「ゴーレム、反撃しろ」
「ごおおおおお」
ゴーレムのが両手を広げて俺に迫って来る。
そこでゴーレムの右腕、土がなくなった部分に鉄の板がはまっているのが見えた。
外側に土をまとって、中に鉄板を隠していたのか……人を散々詐欺とか広めやがって、てめぇの方が詐欺じゃねぇか。
「だが……舐めるなよ!? 俺は【撲殺剛力】のバルガス! 土人形程度に力比べで負けるかよ!」
俺はメイスで迫り来るゴーレムの手を防御する。
ゴーレムも俺のメイスを掴んだ。互いにメイスを相手に押し合う力比べだとっ!
舐めるなよ!? 俺の怪力が土人形なんぞに……。
だがゴーレムがメイスを押す力の方が強く、床に膝をつけてのけぞってしまう。
そして……ゴーレムは右手をメイスから離して、拳を振り上げてくる。
必死にメイスを押し返そうとするが……ゴーレムの片手にすら勝てない……だと……!?
しかも力で完全に惜し負けているので移動することも不可能で……ゴーレムの右手が俺に向けて振り下ろされるのを見続けるしかなかった。
「クソがっ……」
次に俺が目覚めた時には、広場で磔にされていた。
足もとには火のついた木材が散らばっている……クソがッ、俺を見世物にしやがった……!
くそっ!? 火の手が……くそっ、くそぉぉぉぉぉぉぉ!
最後に見た光景は、俺の処刑を狂喜乱舞して喜ぶ民衆たちだった。
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週間総合ランキングは34位をキープでした。
もう少し上にいけるとすごく嬉しい……。
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