ツェペリア領奪取
第28話 迷うはずのない一択
ライラス辺境伯の開拓地見学が終了し、俺達は再び象ゴーレム馬車でリテーナ街へと戻った。
なお俺は帰る道中、御者台でずっと震えていた。
なにせライラス辺境伯からの御言葉が衝撃的過ぎたのだ!
今回の開拓の褒美に俺を貴族にできるかもしれません! だってさ!
もう早く帰りたすぎて、象ゴーレムに《コア・スタンピード》させて加速させようかと迷ったくらいだ。
……まあもしコアを暴走させていたら、最悪馬車が壊れる可能性あったけど。
馬車精々30kmくらいを走らせる想定で造られている。象ゴーレムのコアを暴走させたら、おそらく80kmくらい出る。
つまり馬車の車輪がスピードに持たずに壊れる恐れがある。
「金を出しやがれ、ひゃっはぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁ!?」
「お、親分ー!?」
「ごぶぅぅぅぅぅ!?」
道中で現れたゴブリンや山賊を轢きつつ、必死に象ゴーレムを走らせた。
そして無事にリテーナ街に到着して、その足でライラス辺境伯屋敷へと戻った!
「ライラス辺境伯! 俺の褒美を詳しく教えてください! お願いします!」
「はいー、わかっていますよー」
流れるようにそのまま屋敷の執務室へとなだれ込み、俺の褒美の話が開始された。
ちなみにメフィラスさんも部屋にいる。メイルは家に帰った。
「ではベギラ、よくやってくれました。おかげで防衛拠点を建てることができますー。あの土地は今後役に立つことでしょうー。それにツェペリア領からの侵攻を防いだのも大儀ですー」
「ははっ!」
「これらを個人で行った英雄のような比類なき働きに対して、私は貴方を騎士に任命しようかと」
「な、なんですとっ!?」
ライラス辺境伯の言葉に絶句してしまう。
騎士!? どういうことだ!? 王の褒賞以外からで貴族になれるの!? えっ!?
「えっと。貴族って王からの叙爵以外でなれるのですか!?」
「このメフィラスが詳しく説明しましょう。実は爵位に関して、ライラス辺境伯は王より特権を賜っています」
「特権ですか?」
「はい。基本的に貴族は王からの授与によって与えられます。そして爵位は複数持つことが可能です。ここまではご存じかと思われます」
メフィラスさんの言葉にうなずく。
そう、爵位はひとりの者が複数持つことが可能なのだ。
例えばライラス辺境伯が男爵位も得ていることはある。地球で言うならば複数の会社の社長を併任するようなものだろうか。
「ライラス辺境伯は騎士爵も持っていますので、それを貴方に渡すことができます」
「お待ちください。個人が勝手に爵位を譲り渡すのは認められていないのでは……」
爵位とは国から賜ったものだ。
なので個人間で勝手に譲り渡すのは禁止されているはずだ。
そうでなければ商人などが簡単に爵位を得てしまうだろう。借金を返済できない貴族が、商人に爵位を売り渡すというのが横行するだろう。
元々貴族はその土地を守るために王が叙爵させるのが前提にある。商人が爵位を得ても武を行使する役割を全うできない。
まあ他にも色々と理由はあるのだろうが。
「私はー、王から騎士を他人に譲り渡す権利を得ましたー。五千の兵を出した戦の出費とか褒美とかもろもろを全て、その権利だけで相殺させられましたー」
「うわぁ……」
騎士爵を他人に任命できると言えば聞こえはよい。
だが騎士は貴族と言えるか微妙なラインで、当主一代限りで子に継承できない。
そんなものを他人に譲る権利だけで、大勢の出兵費用負担しろでは割に合わないだろうなぁ。
……せめて子に継承できる爵位なら、商人に高値で売れたかもしれないが。
それに出費をライラス辺境伯に押し付けるのも、普通の国ならばあり得ない行為だ。辺境伯は他国と隣接していて国防の要でもある。
そんな者が弱体化すれば他国からの侵攻への、抵抗力を失ってしまうわけで。
……もはや王家が馬鹿の極みか、もしくは国を維持できないほど弱体化しているとしか思えない。
「そういうわけで貴方を騎士にはしてやれます。ですがー……ベギラは土地が欲しいのですよね?」
「はい。自分にとって騎士は通過点です! 俺は土地持ちの貴族になりたいです!」
俺の目的はハーレムの大義を得ること。
そのためには騎士では全く足りないのだ。ハーレムが認められるには当然ながらお金、そして他にも息子たちを色々な役割に振るという名目が必要だ。
ようは家族経営と言うか、重要なポジションを親族で埋めてしまうのもハーレムを作る目的である。
そのためには当然ながら振るポジションが必要だ。具体的には土地の代官とか、側近の陪臣を親族で固めるみたいな。
つまり管理する土地が必要なのだ! それに俺のゴーレムは領地経営でその真価を発揮する。
先日の森の切り開きでもその片鱗を見せたが、ゴーレムは労働力として優れているのだ!
だから土地を得たいのだ……そうすれば俺の力で領地を発展させられるから……。
だが騎士は当代限りの木っ端でしかも土地も与えられない。つまり俺の目的には沿わないのだ。
「ですよねー。なので……貴方を準男爵にする策を練りました」
俺はライラス辺境伯の言葉を噛み砕くのに時間がかかった。
え? 俺が準男爵? 土地持ちになれる? いったいどういう魔法?
「な、なんですと!? いったいどのような神算鬼謀を用いればどんなことが!?」
貴族は王家でなければ任命できない。
つまりあのクソ豚王が在位の限り、俺は準男爵になれる要素はない……!
「簡単に言うとー、貴方の実家を乗っ取るのですー。貴方はツェペリア家の四男ですー、つまり現当主を失脚させればよいと思いませんか?」
ライラス辺境伯の提案は俺も考えてたことはある。
以前にスリーン兄さんが来た時から、うまくやれないかとシミュレーションはしている。
だが困難だという判断で終わった。あのゴミクズを領地から追い出すのは可能だろうが、それ以降が詰んでいるのだ。
「ですがそれをしても、王家が黙っていないで攻めてくるでしょう。それに大義がなければ他の貴族たちから疎まれて、領地経営が成り立つかも怪しいです」
ゴミクズはあれでも王家から正式な許可を得て、ツェペリア準男爵になった。
それを俺が正当性もなく追い出せば、王の決定を否定する行為となる。
つまりは国そのものに反旗を翻したに等しく、王家は面子にかけて国軍を率いて俺を討ちに来るだろう。
更に周辺の貴族たちも結託して攻めてくる。彼らからすれば大義なき理由で領地を奪われるのを認めれば、明日は我が身と思ってしまうからだ。
そうなればいくらゴーレム軍を用意できても防衛するのは難しい。
敵には魔法使いも大勢いるはずだし。
他にも周辺貴族からすれば、俺は力ずくで物事を解決する蛮族にしか見えない。
そんな者と仲良くする貴族はいないので、ツェペリア領は孤立することになってしまう。
何だかんだで大義というのは重要なのだ。貴族だって人間なので正しい方に味方したいのだから。
それに義を完全に無視し始めたら最後だ。そうなれば力あるものが全てを制す暴力の時代だ。
日本の戦国時代ですら各大名は、侵攻の時にはその大義を作っていたくらいだ。
例えば織田信長は朝廷に金を貢ぎまくって、武田家を朝敵と認定させて攻め滅ぼした。
実質的には金で大義買っているようなものなので、逆に言うと少し無理やりでも大義があればよいという証明でもあるが。
「大義があればよいのですよねー?」
「それはそうですが……」
「ツェペリア家は我が土地に対していきなり侵攻してきましたね? 我が森の開拓を邪魔して来た蛮族ですー。それを知った貴方はこのままではダメだと、義の下にツェペリア領主になろうとするー」
「あっ」
……森での開拓作業中に、ゴミクズの舎弟共が集まって邪魔しに来た。
しかもその開拓作業を指揮していたのは俺だ。状況によっては殺されていた可能性もある。
つまりあの時の事件で現状のツェペリア領を憂いた俺は、正当な反撃と民を想う義の心を元に現領主ゴミクズを追い出す……!?
「……周辺貴族がどれくらい結託して、ツェペリア領に敵対するか次第ですね。大義あればと攻めてこない者も出そうですが、何だかんだで王に従う者が多そうで……」
「大丈夫ですー、私が後ろ盾になりますよー。攻められた身として隣領地におかしな領主がいるのは許容できない。ベギラを認めずに国軍につくならば、この私を敵に回すと」
ライラス辺境伯はニコリと笑いかけてくる。
彼女はすでに王家をも越えるかという有力者。それに対して敵対の声をあげられる貴族は少数だろう。
きっと大半の貴族たちは色々と言い訳しつつ中立を装い、状況次第で有利な側につく様子見が増える。
ツェペリア領など継いでも価値はないとは散々言い放ってきた。だが以前とは状況が違うのだ。
隣領の領主であるライラス辺境伯の支援がもらえるなら、むしろツェペリア領の将来性は高い。
なにせツェペリア領の位置はレーリア王国の中心部にある。
本来ならば魅力ある立地なわけで、森を切り開いてかつ経済支援をもらえれば……急激発展も決して夢ではない!
ライラス辺境伯も俺が領主になった後のツェペリア領は重視するはずだ! 何せ王家と争うことになれば、俺達の領地が最前線になるからな!
あっ…………俺もしかしなくても王家とライラス辺境伯の権力闘争に巻き込まれてるな…………?
これって俺とゴミクズの争いというよりは、ライラス辺境伯と王家の闘争になりそう。
……まあいいか! これくらいの毒は許容せねば立身出世など難しい!
毒を食らわば皿まで! ライラス辺境伯が俺を利用するように、俺も彼女を利用し返してやる!
そしてあわよくば彼女を俺のハーレムに……は流石に無理かなぁ。
いやでもこんな偉い人を嫁にできたらなんかこう漲りそう……これに関しては無理せずにチャンスを待つか。
……ところでライラス辺境伯、最初から俺を騎士にするつもりなかったのでは?
俺が土地を持ちたいの知っているだろうし、その上でこの話を持ち掛けてきたのでは……?
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