第27話 森を切り開いたぞ!
森に訪れてから一ヵ月が経った。
元森の入り口で、俺とメイルは並んで話し合っていた。
「終わったなぁ」
「終わりましたです」
「森消えたなぁ」
「消えたです」
結論から言うと森はほぼ消えてなくなった。
俺の目の前に広がるのはもはやただの平野である。しかも整地とかある程度してて、硬い岩盤などは残ってない。
伐採した木もしっかりとひとつの場所に集めているので、後でここで砦など建てる時も木材には困らない。
「もうこれでライラス辺境伯に見せても大丈夫だよな」
「逆にこれ以上どうするのです? 何かやれることありますです?」
「ない。よし、早速リテーナ街に戻って報告だ!」
俺達は行きに使った象ゴーレム馬車でリテーナ街に戻ることにした。
象ゴーレムは子犬くらいの速度で昼夜問わず走れる以外にも魅力がある。
それはパワーだ、馬車に積んだ荷物が重くてもスピードが落ちない。逆に言うと荷物が多い時と比べても速くならない。
なので行きに比べて荷物が空で軽いのに、帰りも二日かかってしまった。
俺はリテーナ街に入ってそのまま屋敷へと直行する。
「メイルも屋敷に入っていいのです? ライラス辺境伯に雇われてないのです」
「開拓で働いたし功労者だからいいだろ」
そうして俺はライラス辺境伯屋敷に凱旋を果たした。
屋敷の門を潜り抜けると、仕事仲間のメイドたちが近づいて来て俺を褒めたたえて。
「ベギラ、もらった予算がなくなったの?」
「気を落とさないで。誰だって失敗はあるものよ」
「私たちからもメフィラスさんに取りなすからさ」
「何で俺が失敗している前提なんだよ!? 酷くない!?」
メイドたちは俺を賞賛するどころか慰めて来た!?
「坊ちゃま、こんなに早く戻ってきたら普通は問題が発生したと思うのです」
「……確かに」
メイルの言葉で我に返る。そ、そうだな!
俺があまりに早く作業をしすぎたのが問題か!
「俺は森を開き終えて戻って来たんだ!」
「あはは、男の強がりは悪い物ではないけどね。まあ頑張って!」
メイドたちは嵐のように去っていった……あいつら、俺が森を切り開いたの絶対信じてないな……。
ま、まあいい。ライラス辺境伯に報告すれば全て終わりだ。
「ベギラ、久しぶりですね。お館様がお呼びです、執務室へ」
メフィラスさんが颯爽と現れて俺を呼んだので、屋敷の執務室に向かった。
そこではいつものようにライラス辺境伯が、椅子にちょこんと座って書類仕事をしている。
「ベギラ、本当に戻って来たのですね。手紙は見ましたが……森を切り開いたのが本当に終わったのですかー? 褒められようとして嘘ついているわけじゃないですよねー?」
「ライラス辺境伯までそんなこと言うのですか!? 酷いっ!」
ライラス辺境伯は俺の反応に対して、困ったように笑みを浮かべる。
「ベギラはそんなことする人ではないと思ってますよー? ただあまりに早すぎるし私のところにも鉄クズ購入費用しか出費請求が来てなくてー……普通なら年単位で人を揃えて時間かけるじゃないですかー」
「工事予定は聞いていましたが、あまりにありえない工期でした。本当に予定通りに終わるとは……失敗するのも経験とやらせたのですが」
呆れているライラス辺境伯に、メフィラスさんが追随してくる。
あ、あれ? 俺のゴーレム無双を期待して依頼してきたのではないのか!?
……そういえばライラス辺境伯が俺に依頼してきた時、『必要な物や予算、人手はー』みたいなこと言ってたな。
もしかして人手を使いつつ、ゴーレム魔法も補助で役立てろみたいなノリだった?
「そういうわけでー、私が現地に見に行こうかなーと思いますー」
「ライラス辺境伯が直接ご確認を?」
「はいー。ゴーレムを使った整地がどんな感じか、この目で見ておこうかとー」
ライラス辺境伯は俺ににこっと笑いかけてくる。
相変わらず太陽がほほ笑んだかのような美少女である。こんな理想的な主君そうはいないぞ。
「承知しました。では私の象ゴーレム馬車でお送りします」
「すみませんー、もう一度言ってもらえます?」
「私の象ゴーレム馬車でお送りします」
「えっと……随分と名前の長い馬車ですねー」
言われてみれば象ゴーレム馬車ってすごいアレだな。
象にゴーレムに馬に車って、属性もりもりもりみたいになってる。シンプルにゴーレム車と呼んだ方がいいのだろうか?
いやでもそれだとゴーレム自体が自動車になってるみたいにも……難しいなこれ。
「また名前は考えておきます。ひとまず象ゴーレム馬車は屋敷の前につけています」
「わかりましたー、では屋敷から出ましょうかー」
「ははっ」
俺とメイルは立ち上がって部屋から出て、ライラス辺境伯を象ゴーレム馬車の元へ案内した。
……いつの間にか象ゴーレムの馬車が変わっている。鉄を運ぶために商人が旅に使うやつだったのに、今は御貴族様が乗り込むタイプの優雅な四人乗りだ。
メフィラスさんが五分でやってくれたようだ。よく考えたらライラス辺境伯を、商人用の馬車には乗せられないか。
彼女は象ゴーレムを見て少し感心した後に、優雅に馬車の中に乗り込んだ。
俺とメイルは御者台に乗り込もうとしたが「メイルさんはこちらにー」とのことで、馬車に押し込まれた。
メイルが死にそうな顔してたけど生きて欲しい。
そうして馬車は出発して、二日ほどの街道を走って開拓地に到達した。
ライラス辺境伯は馬車から降りた後、周囲を見渡して俺に笑いかけて来た。
「あ、あらあらー、本当にこの短期間で森がなくなってますねー。ベギラのことを信じていなかったわけではないのですが、目の前の光景を見ても信じがたいですー」
「まあまだ森を切り開いただけですので、これから砦の建築などがありますが」
「そちらはメフィラスにやらせますー。貴方では大工を雇う伝手はないでしょうー。ただここまで早く終わるのは計算外な上に、ツェペリア領からの侵略も防いだ。かなりの褒美を与えなければなりませんねー……」
ライラス辺境伯は何やら考え込んでいる。
しばらく黙って立ち伏した後、改めて俺の方に視線を向けて来た。
「屋敷に戻ってからですがー。貴方を貴族にしてあげられるかもしれませんー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます