第26話 ゴミクズの妨害
「くそっ! いつになったらベギラから金貨百枚が届くんだよ! ツェペリア当主の俺を舐めてんのかっ!」
自宅の屋敷の当主部屋――ようは執務室――のタンスを蹴り飛ばし、金貨百枚が届かないことにいら立っていた。
スリーンに金を徴収させに行ったのに、いつまで経っても戻ってこない!
こっちはすでに金貨百枚の用途も決めてるんだぞ! その金で舎弟を更に増やして、周辺のどこかの領地に攻め入る予定なのに!
思わず更にタンスを蹴飛ばそうとすると、俺の側近が部屋に勢いよく入って来た。
「ミクズの兄貴! 手紙が来やした!」
「スリーンからか!?」
「いや違いやす! ただ上等そうな手紙ですぜ!」
封のされた手紙を受け取ると……それには王の名前と印が……なっ、なんだとっ!?
急いで封をビリビリにして破くと、中には当然だが手紙が入っている。
手紙を開いて読んでみると……。
「なになに……『ライラス辺境伯が、ツェペリア領地の最西辺りに砦を作っている。許してはダメなのではないか?』だとっ!? おいこの話は本当か!?」
「ど、どうなんでしょ……この領地の西との領域付近なんて、誰も見に行きもしやせんから……わざわざ西からこっちに来る奴いないですし、こちらから西に行くならもう戻ってきやせんし……」
「御託はいい! さっさと調べてこい! 指詰めさせるぞごらぁ!」
「へ、へい!」
俺の側近は逃げるように部屋から出て行った。
……ライラス辺境伯だと!? なんでそんな奴が俺のツェペリア領の土地を……?
あいつは俺なんかよりよほど広くて豊かな土地を持っているのだから、わざわざ辺鄙な田舎を奪うとは思えないが……。
そうして一週間ほど経った。
執務室で真面目にみかじめ料計算の仕事をしている俺に、再び舎弟が執務室にやって来た。
「確かにライラス辺境伯の使いが、俺らのシマの森を開拓してやす! すでに森の三分の一以上が更地になってやす! あ、でも領域ギリギリかもですが」
「な、なんだとっ!? ふざけんなよ! 俺らのシマが荒らされてるじゃねぇか!」
思わず執務用の机を両手で叩きつける。
俺らを舐めてやがる! いくら辺境伯だろうがこの俺を舐める奴は許さねぇ!
俺はな、地球から転生してきたんだ! 機械の機の字も知らないようなお前らとは格が違うんだよ!
「その開拓地に攻撃をしかけろ! これ以上開拓なんてさせるなっ!」
「こ、攻撃っすか!? でも相手は辺境伯で……」
「こないだの手紙を忘れたのか! 俺らのバックにゃ王家がついてるんだ! 怖い者なんてないだろうが!」
「た、たしかに……すぐに面子揃えて攻めまさぁ!」
「二度と作業員が来れないように皆殺しくらいでやれ!」
ライラス辺境伯とやらは名前しか知らねぇが、どうせ俺に比べれば時代遅れのバカだ。
現代地球で学んだ俺に比べればこの世界の奴らなど全員バカだ。こいつらは電子レンジも車も存在すら知らない無知蒙昧なのだ。
そんな奴が偉そうにしてるんじゃねぇよ!
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昼下がり。
ミクズの部下たちは五十人連れでぞろぞろと、開拓作業が行われている森の入り口にやってきていた。
「……なんだあれ? 土で固めた小型洞窟? てか開拓作業やってるにしては、仮の住居がしょぼすぎねぇか?」
男のひとりが土かまくらゴーレムを指さす。
彼らの違和感は最もであった。開拓作業となれば大勢の人間が集まって、長期間住み込みで行うものだ。
なので大勢の人が住むための住居があるのは当然。それに人が多いということは食事も大量に必要ということだ。
とても開拓作業の片手間では行えないので、料理を作る役目の者だっているはずだ。
だがそんな仮集落がつくられるはずの森の入り口には、僅かな調理道具や皿などがあるだけ。
数人が野営しているくらいの物しか置かれていない。
「もう少し奥で住みやすい場所を見つけたとか?」
「他の場所に集落作ってるんじゃねーの。まあそんなことはどうでもいい! 開拓作業員にカチコミじゃぁ! 男は殺すか捕縛して奴隷! 女はお楽しみだぁ!」
「「「「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
ゴミクズの舎弟たちは狂喜乱舞する。
ベギラの師匠の屋敷に突撃する。そしてゴーレムに骨を折られるたびに等級の低いポーションを飲み、時間をかけてちまちま治す。
そしてまた完治したら攻めに行って骨折って……という地獄のようなループだった。
彼らにとって旨味がない命令だったのだろう。
仮に屋敷を制圧できたとしてもそこにいるのはベギラの師匠と、ツェペリア領の次男のみ。彼らからすれば女がいないのでお楽しみがないということだろう。
「おそらく敵は森で開拓作業をしている! 不意打ちで一気に決めるぞ!」
男たちは開拓作業者を襲うべく、森の奥へと侵入していく。
「作業開拓なら性欲処理用の女もいるはずだ……わかってるな?」
「へへへ……兄貴には間違って殺しちまったと伝えますぜ」
「馬鹿! 最初からいなかったと言うんだよ! がははは!」
そうして男たちが少し歩くととたんに開けた平地にたどり着いた。
すでに森の木々は存在しておらず、明らかに人の手が入ったように整地されている。
更に遠くではゴーレムたちが地面を掘ったり、木々をへし折ったりと開拓作業を行っているのが見える。
「……へっ? いやここって森だよな? なんで禿げジジイみたいに平野が広がってるんだ?」
「もうあらかた開拓し終えたとか?」
「いやそんなはずは……まだ工事を始めて一ヵ月以内とかだろ?」
男たちは困惑のあまり動揺する。
「ん? あれは……ゴーレムたち、作業をやめろ。まずは木じゃなくてあいつらをなぎ倒せ」
ベギラの声が響くと同時に、土ゴーレムたちが一斉に開拓作業をやめた。
そして男たちに向けてノシノシと進んでくる。
「お、襲ってくる気だぞあいつら!」
「怯えるな! どれだけゴーレムと戦って来たと思ってる!」
男たちは服のポケットに手を突っ込んで、何かを取り出そうとする。
だがそのまま動けなくなった。
「俺らには対ゴーレム用の…メイス…が……」
「いや多すぎるだろ……」
彼らは目の前の光景に茫然自失となった。
眼前に立ちふさがるのは、どんどん集まって来る超大量のゴーレムたち!
もはやゴーレムは男たちの五倍以上の数! いや更にどんどん増えて行く!
森に散らばっていたゴーレムたちは、もはやひとつの軍ともいえるようなおびただしい数になっていた。
それもそのはず。稼働時間に制限のあるゴーレムならば、ベギラは毎日大量に造れる。
作業開拓にやってきてから時間が経てば、もはやどうなるかは自明の理であった。
男たちはあまりの光景に、もはや引きつった笑みを浮かべることしか出来ない。
「へ、へへへ……お助けぇ!?」
「もういやだぁ!? なんでゴーレムいやだぁ!?」
「オラ実家帰るぅー!?」
無様にスッ転びつつ尻尾を撒いて逃げ帰るのだった。
彼らはゴミクズに対して「妨害は成功した」とだけ伝え、大半が一ヵ月後には兵士を辞めて領地を出て行った。
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