第25話 森を切り開こう
俺は森の入り口に立って、目の前にいるゴーレムたちに命じる。
「さあアイアンネイルゴーレムたちよ! この地を開拓せよ!」
「「「「ごおおおおお?」」」」
ゴーレムたちは一斉に首をかしげる。なんか謎の愛嬌があるな……。
流石に開拓しろ、という命令は無理か。
「えーっと、この土地を俺の立っている地面に合わせるように平坦にしろ。木は伐採しろ」
「「「「ごおおおおおお」」」」
俺の造った一ヵ月駆動のアイアンネイルゴーレム四十体が、一斉に森の開拓作業を開始した。
鉄製の手で土を掘ってならして、木をへし折ってから根の部分を掘り起こす。
よしよし、このまま不眠不休で働かせていこう。いやゴーレムに眠るも休むもないのだが。
そんなことを考えているとメイルが俺の横に歩いてきた。
「ゴーレムに開拓という命令は伝わらないです?」
「捉え方が多すぎるからな……というかさ、俺達も自分が現場作業員だったら開拓しろって言われても無理じゃね?」
「確かに無理です」
ゴーレムは俺の考えていることを読み取ってくれるので、大抵のことをこなしてくれる。
地面を平坦にしろ、なら合わせる地表を示しておけばよい。
もちろん問題点もある。ゴーレムには臨機応変なんて言葉はない。
仮に川とかあっても無視できずに、そのまま潜って沈んでいく恐れもある。
なので不測の事態に備えて、現場監督みたいにゴーレムを命令する人物は必要だ。
最悪、森の中に集落でもあったらどうなると思う? その家とか問答無用で全部壊して平坦にする。
なので完全お任せというわけにはいかない、残念ながら。
だが川などの障害は現状ではなさそうだし、しばらくの間は放置気味でよいだろう。
「ゴーレム優秀です……家を建てられたりはしないのです? 流石に無理ですか」
メイルが少し首をかしげて聞いてくる。可愛い。
「実はな、ゴーレムのできることは命令者によって変わるんだ」
「どういう意味です?」
「ゴーレムは命令者の思考を読み取る。つまり家を自分で建てられる人間が、建て方を具体的にイメージして都度命令すれば……」
「建てられるですっ!? ゴーレムが家をっ!?」
「パワーが強すぎて木材へし折る」
「ダメです!」
ゴーレムのAI? というかコアの人工頭脳の性能はすごく優れている。
正直言うなら地球のロボットにも劣らない、いやそれ以上かもしれない。
ボディの問題で細かい作業ができないなど、頭脳の性能を活かせていないが……思ったよりも遥かに凄い。
……以前からゴーレムの異常な評判の悪さに違和感を感じていたが、最近はそれが更に加速していってる。
はっきりいってゴーレムはポテンシャルが高すぎる。確かに製造には凄くコストがかかるし、戦争では普通の魔法使いほど役には立たない。
だが労力としてはすさまじく有用だ。不眠不休で働けるし、命令者が優秀ならかなりのこともこなせる。
ここまで凄いのに誰もゴーレムの可能性を見いだせなかったのか? いや俺の師匠は頑張ってたけど……。
まるで意図的にゴーレム技術の発展を抑え込まれて、国中でゴーレムを役立たずと思うように仕組まれたような……考えすぎだろうか。
「まあ家が建てられるゴーレムは今後次第だな。ボディを人間に近い性能にできれば、命令者次第である程度こなせるようになりそうだ」
「すごいです! ゴーレムすごいです!」
メイルがゴーレムを見ながら元気に笑っている。
「おいおいあまり褒めるな、照れるだろ」
「メイルが褒めているのはゴーレムであって坊ちゃまではないです」
「褒めて」
「一日で金貨百枚負けるなんてすごいです」
「やめて」
メイルから冷ややかな視線が……違うんだ。
あの金貨百枚はミレスのためにな……いやメイルにも言ってないから仕方ないが。
こいつは隠し事があまり上手でない。彼女に伝えるといずれミレスにもバレてしまう。
バレたらもう今までの関係ではいられなくなる。
そんなことを考えていると、メイルが小さくため息をついてボソボソと。
「……まあ坊ちゃまのことです。どうせ他のことに使ったのでしょうが」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもないです。それよりこれからどうするです?」
「ひとまずゴーレムに作業は任せて野営の準備をしよう。しばらくの間、ここに滞在することになるしな。小屋とか建てて……」
「誰が建てるです?」
「…………かまくら型ゴーレムでも造るか」
こうして俺達は雨露をしのげるように、高さ3mほどの土かまくら型のゴーレムを製造した。
ゴーレムはコアを投げ込むと、思い描いた姿に変わってくれるから便利だ。
まあ姿は自由自在だが性能は見た目に比例しないけどな。
例えば鳥の形のゴーレムを土で作っても、全く飛べない陸専用の地鶏になる。いや地の意味違うけど。
ちなみにこの土かまくらゴーレムにも大きな欠点がある。動けないのだ、だって手足がないし動ける構造じゃない。
ゴーレムである意味が皆無だ。一生動けずに散りゆく運命のゴーレム……なんか可哀そうになってきた。
すまん……生み出してしまってすまん……。
「ごおおおおおおお」
罪悪感にさいなまれていると、かまくらゴーレムが俺を慰めてくれた。
いや普通に吠えただけかもしれないが。
「坊ちゃま―、ご飯にしましょう。パンと干し肉とワインです。ちなみに明日も明後日もずっとパンと干し肉とワインですよ」
「……野菜とかないの?」
「ないです。保存がきかないので持ってきてないです」
……冒険者が一週間くらい遺跡などに向かう時も、飯はパンと干し肉とワインが主流だ。腐らずに保存がきくから。
でも開拓は最低でも数か月はかかる。ずっとこの飯はキツイぞ……栄養的にも大問題だ。
早急に食料事情を改善しないと……!
「ゴーレム! 肉だ! 鳥とか獣を捕獲してくれ!」
「ゴーレムの足の遅さじゃ無理と思うです」
「ええいっ! なら野草とかを取って……!」
「近くにあった食べられそうな野草なら、ゴーレムが粉砕していってるです」
「おお、もう……」
後に森を探索したところ、川などが見つかって魚釣ったりでことなきを得たのだった。
やっぱり冷蔵庫欲しいな……冷蔵庫があれば食料を保存できるし。
この開拓依頼が終わったら考えていたことを実行するか……。
そんなこんなで俺は毎日ゴーレムを量産しつつ、森の入り口から少し遠いところから切り開くことにした。
入り口付近は後回しにする。理由は食べ物のためだ。
野草とか採れるようにしたいのと、獣がゴーレムから逃げてこちらに来てくれないかなと。
稼働時間三ヶ月ほどの土ゴーレムがどんどん増えて、二週間もすればもはや軍勢にも近い数になった。
不眠不休の重機が日夜問わず作業するので、信じられないペースで森が開けていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます