第24話 アイアンネイルゴーレム


 ミレスに鉄を揃えるのをお願いしてから一週間後。


 彼女は俺の依頼通りに大量の鉄製の道具などを、ライラス辺境伯屋敷の庭に集めてくれた。


 折れた剣や凹んだヘルムなど……庭に高さ2mほどの鉄くずの山が出現してしまっている。


「ど、どう? これで足りるかな?」


 俺の横に立っているミレスが不安そうな顔をしている。


 いやこれだけ集めてくれれば十分、いや十二分だ。


 まさか短期間でここまで用意してくれるとは思っていなかった。


「十分だ。ミレス、ありがとな」

「う、うん! 任せてよ! こ、今後も贔屓にしてくれると嬉しいなって……ほ、ほら! ベギラはライラス辺境伯家の人だから儲かりそうで、決して他に他意はなくてね!」


 ミレスは顔を真っ赤にして大きな声で叫んでくる。


 本当にどうした? ふっ、俺にホレたか? ……自分でやっててくだらなくて冷めてしまった。


 ミレスなー、金貨を取り返した俺に少し惚れている説はある。


 でもそれは彼女が短期間の盛り上がってるだけな可能性もあるんだよ。落ち着いたらすぐ冷めたみたいな。


 少なくともこの時点で俺が告白したら、弱みにつけこんだみたいでなんか嫌だ。


「俺は伝手がないからこれからも頼るよ。よろしくな」

「うん! 何かあったらすぐ頼ってね! じゃあまたね!」


 ミレスは何度もこちらを振り向きながら去っていった。


 ちなみに彼女の親父さんの容態はよくなってきているらしい。ポーションを飲ませたかいがあったな。


「坊ちゃまー。お待たせしたのです」


 ミレスと入れ替わるようにメイルが門から庭に入ってきた。


 メイルには今から向かう開拓地に着いてきてもらう。


 今回の事業は少し大がかりになるので、助っ人としてメイルを雇うことをメフィラスさんに許可してもらった。


 もちろん今から開拓地に向かうことも承諾を得ている。


 2ヶ月以内には目処を立てて、ここに戻ってくる予定だ。


「おう。珍しく少し遅かったな、いつもなら早めに来るのに」

「メイルとて空気は読むのです。それでツェペリア領のそばまで向かうのですよね?」

「そうだな、結果的にそうなる。地図見えるよ、『砦』と書いてる場所が開拓予定地な」


 俺はメイルに地図を出して見せた。


       ┃   エルフ公国    ┃

       ┃━━(レーリア王国)━━┃

アイガーク王国┃     砦      ┃

       ┃     砦★     ┃

       ┃╌╌╌╌╌¦      ┃

       ┃     ¦      ┃

==============================

         海   




 ライラス辺境伯が予定していた開拓地は、現在のライラス領とレーリア王国の境界付近だ。


 ツェペリア領はライラス領と隣接しているので、すぐそばとなってしまうのだ。


 ……まああくまで砦はライラス領に建てるから、別にツェペリア領に入る必要はないけど。


「ここらの土地勘がありそうってのも、俺が任を受けた理由かもな」

「実際はそんなにないですよね? ひきこもってひたすら土遊びして吐いてただけです」

「事実陳列罪やめろ」


 俺の8歳から13歳まで思い出は、ゴーレムいじりと魔ゲロでほぼ占められています。後はゴミクズとその舎弟たち。


 我ながら暗黒時代だろこれ……いやゴーレム魔法鍛えるのは楽しかったけど。


「まあいいさ、そろそろこの鉄くずの山を開拓地に持って行くか。ゴーレム、鉄くずを馬車につんでくれ」


 本来ならこの鉄クズ山を運ぶための馬車を、いくつも用意するだけでコストがかかる。


 馬車代もだが馬の餌が高くつく。だが俺には象ゴーレムがいるからな。


 また二頭? ほど製造したので、あいつらにひかせればエサ代無料だ。


 鉄くずを全て積み終えた後、俺達は象ゴーレム馬車二台編成で目的地に向かった。


 ゴーレムの利点である休憩不要を活かした結果、僅か二日で開拓予定地の森の前に到着したのだった。


 そして土ゴーレムを数体造って、鉄くずを馬車から地面に降ろさせていく。


 少し待つとまた鉄くずの山が生まれたので、改めて開拓用ゴーレムを造ることにした。


「よし。じゃあこの鉄を使ってゴーレムをつくる」

「でも魔力が足りないです? 鉄ゴーレムはすごく魔力を必要とするって」

「鉄ならな。でも俺が今から造るのは……土ゴーレムだ。《コア・クリエイション》」


 俺は稼働時間一ヵ月のゴーレムコアを手のひらの上に作成する。


 ここに来てからの訓練の結果、俺は時間制限の呪文を省略できるようになった。


 ようはレストリクション以降は言わなくてもよい。俺だって日夜修行してるからな!


 いや真面目に話すとさ、あの呪文は長すぎるんだよ。


 余裕ある時ならいいんだけど、危機的状況で《コア・クリエイション レストリクション・ファイブミニッツ》なんて言ってられないんだよ。


 師匠の元にいた時はゴーレムを安全な場所で製造してたので、特に懸念にはならなかったのだが……。


 ライラス領にきて冒険者稼業とかしてたら、この呪文が致命的に長いと気づいたのだ。


 しかも焦ってたらまじで舌噛みそうになるから……最初は早口言葉を練習したくらいだ。


 でもやはり呪文自体が長すぎるとの結論になって、最優先課題として必死で改善した。


「これは普通の土ゴーレムを一ヵ月動かせる分の魔力を込めたコアだ」

「です」


 俺はメイルにゴーレムコアを見せびらかす。


 そして振りかぶって鉄クズの山が積まれているところの、地面を狙って投げ……ようとしたがやめて狙っていた場所まで歩いて行った。


 ふっ……俺だって学習するんだ。自分の制球力の酷さはもう思う存分堪能したから……。


 俺は目的地に向かってゴーレムコアを落とす。すると地面がコアをずぶりと飲み込んでゴーレムの形をかたどった。


「ごおおおおおお」


 地面から這い出てくる一見すると土ゴーレム。


「普通の土ゴーレムです」

「よく見ろ。こいつは小手先に自信があるんだ」

「あっ、手先が鉄です!」


 この土ゴーレムはよく見れば手の先、ようは人でいう両手の指部分が鉄になっている。


 ようは鉄製農具みたいなものだ。土を耕す部分だけ鉄にしている。


 普通に考えて欲しい。開拓作業をさせるゴーレムが、全身鉄にするメリットなんてほぼない。


 戦場ならば全身鉄ゴーレムの価値は凄いだろう。一般兵ではが立たないので、魔法使いを呼ぶしかなくなる。


 いやその魔法使いだって並みくらいの実力では、全身鉄のゴーレムを倒すことは難しいだろう。


 火球だろうと燃やされない鉄の身体、風の刃など通らない硬さは伊達ではない。ゴーレムじゃなくて鉄が強いとか言うな。


 鉄ならゴーレム弱くないじゃん、戦争で使えるじゃんって? 


 全身鉄のゴーレム一体用意するのにかかる金銭で、鉄ゴーレム破壊できるほど優秀な魔法使い数人雇えるから……。


「このアイアンネイルゴーレムを量産して、開拓地まで連れて行くぞ!」

「鉄製農具ゴーレムでいいんじゃないです? 耕すところだけ鉄にしてるのです」

「……ダサいからやだ」


 アイアンネイルゴーレムって名前は格好いいだろ。実際は人型鉄製農具みたいなもんだけどさ!?


 でもアイアンネイルだって嘘は言ってないぞ!? 小手先は鉄なんだからな!?


 鉄の指ならアイアンフィンガーゴーレムだろって? アイアンネイルの方が恰好よいだろ!

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