第23話 大がかりな開拓依頼


「東の森の開拓をして欲しいのですー」


 ミレスの金貨事件の翌日。


 俺はライラス辺境伯に呼び出されて、屋敷の執務室にやってきていた。


 そこで相変わらず美少女してる彼女から、屋敷の一般兵兼雑用係とは思えない業務を依頼されている。


 以前のアイガーク王国との戦争で大手柄はあげたものの、俺は今もこの屋敷で階級が高いわけではない。


「開拓と言いますと……切り開いて畑でもつくるのですか?」

「農地以外にも用途がありますー。兵舎や砦をつくりたいのですー。ほらー、アイガーク王国との争いのためですねー。他にも役立つかもしれませんがー?」


 ライラス辺境伯は可愛くウインクしてくる。


 なるほどなるほど、アイガーク王国が攻めて来た時の軍事拠点を増やすということだな。


 敵国に対する防衛設備の名目があれば、砦を立ててもレーリア王は文句言えないからな!


 いやいや決して他の意図はないよ? 西のアイガークとの国境付近じゃなくて、東の国の内部に建てるけど国防施設だよ?


 おそらくライラス領とレーリア国の境界付近につくるけど、これはアイガーク王国に侵攻された時の最終防衛ラインにするためだよ?


「私の仕事は森を切り開くことでよろしいですね? 建物などの準備は別ですか?」

「そうですねー、切り開くまでです。後はメフィラスにお願いしますからー」


 つまり森の木を力づくで伐採したり、土を掘ったり盛ったりだけでよいと。


 それならゴーレムの独壇場だな。兵舎を建てるとかは難しいから、そこまで任されるとちょっと困ったが。


 俺には大工とか用意するコネがないしな。


「今回の活躍次第では雑用係から出世させますー」

「承知いたしました! 何としてもやってみせましょう!」


 俺が戦争で手柄を立てながらまだ雑用係であった理由。


 それはあのクソ豚王のせいであった。


 あの戦争はレーリア国の戦なので、あそこでいくら手柄を上げてもライラス家内での勲功にはならない。


 レーリア国自体が俺に褒賞を払わないとダメなのだ。あれは便宜上は国王軍だったのだから。


 もし俺が個人的にライラス辺境伯の命を救った、とかあれば話は別だが……こういう誰が褒美を払うかは割と大事だ。


 極論を言うとだ。もしライラス辺境伯が俺の活躍に対して、雇い主であるはずの王より多い報酬を払うとする。


 それは本来ならば王の面子を潰すことにもなりえるのだ。自分の臣下の方が金持ちじゃん……とか見られてしまう。


 まあ実際は一切払わないとかいう離れ業をしてきたがっ!? 頭おかしいよあのクソ豚王。


「では一大事業となるでしょうが、よろしくお願いしますねー。必要な物や予算、人手はメフィラスと適宜相談してくださいー。私が最終的に承認しますー」

「ははっ!」

「ちなみに開拓してほしい場所は、具体的にはー」


 ライラス辺境伯に開拓地の詳細などを教えてもらった後、頭を下げて意気揚々と執務室を出て行く。


 やる気もみなぎるというものだ。何せ今回は活躍すればしっかりと褒美をもらえるからな!


 あんのクソ豚王のおかげでライラス辺境伯が女神に見えるよ! ありがとなクソ豚、恩返しさせてもらうから覚えてろよあの野郎!


 さて王への恨みでモチベが上がったところで、作業のために必要なものを考えなければ。


 とりあえずは……開拓ならば普通の土ゴーレムでは不足だな。やはりあれがいる。


 屋敷の廊下を歩いていると、メフィラスさんの姿が見えた。ちょうどよいな。


「メフィラスさん、実は開拓に必要なものがありまして……」

「なるほど、それくらいなら少額ですし構わないでしょう。私の采配で許可します」

「辺境伯の許可は不要ですか?」

「この程度の金額まで申請していては、お嬢様は屋敷の金銭の流れのすべてを把握せねばなりませんから」


 メフィラスさんに必要なものを相談し、許可を得た。


 ……そこらの商人なら高価な買い物になりそうな額なのだが、それをこの程度とはライラス辺境伯恐るべし。


 俺はいつものようにミレスの店へと走り、扉を開いて店内へと入る。


「ミレス! 欲しいものがある!」

「べ、ベギラ!? な、なにかな!?」


 ミレスは椅子に座ってカウンターにもたれていたが、珍しく俺の登場に驚いて立ち上がった。


 おかしいな、いつもこれくらいの勢いでやって来てるはずなのだが。


 普段よりも仕事のモチベが高くて、知らない間に盛り上がってる?


「ほ、欲しい物って何かな!? も、もしかしてボク……」

「鉄が欲しい! 錆びてなくて鉄なら何でもいいから、揃えられるだけ揃えてくれ!」

「へ? て、鉄? 剣とかそんなの?」

「そんなの!」


 開拓ということはだ、硬い地面を掘ったりもする必要がある。それだと土ゴーレムや岩ゴーレムでは時間がかかるからな。


 ゴーレムに街でよく地面に穴掘らせてるだろって? あれは柔らかい地面だから簡単にできるんだよ。


 街はあくまで人が住みやすい土地を選んでるから、そういった何ともならない地盤の場所はほとんどない。


 昔にあったとしても頑張って砕いたりしているはず。


 なので一から開拓となると話は全然変わってくる。


 カチカチに固まった地面、あるいは岩盤の類を掘削することにもなるかもしれない。


 そうなるとやはり鉄製の方が優れているからな。石や岩では難しい。


「い、いいけど……鉄って高いよ? そんなので人型のゴーレム作ったら出費凄そうだね……穂先だけが鉄の槍でもそれなりの値段なのに、ゴーレムとなると内側までぎっしり鉄だよね?」


 ミレスが心配そうに俺の方を見てくる。


 この世界での鉄はかなり高価だ。剣や槍は平民の標準装備ではあるが安価で手に入るものではない。


 それでもまだ武器はマシな方だ。例えばヘルム付きの全身金属鎧は、とても一般兵では用意できる代物ではない。


 鎧は完全オーダーメイドなので手間賃が高いなどの理由もあるが、基本的に貴族など上位身分の専用装備と化している。


 この世界ではこんな言葉がある。『戦場で金属鎧を着ている者とは金が転がっているようなものだ、殺さず捕らえろ身代金』。


 戦争では貴族が死にづらい。その理由として装備が一般兵と違って見分けがつくというのがある。


 敵から見ても貴族と分かってもらえるので、殺すより捕らえた方が得と生け捕りにされるのだ。

 

 アイガーク王国との戦いの時も、敵将捕縛して身代金せしめたからな。


 まあクソ豚王が捕虜全部奪って行ったけどな! やっぱあいつ許せねぇわ。


 おっといかん。ミレスが間がもたない感じで俺を見続けている。


「安心してくれ、流石に鉄塊みたいなゴーレムは作らない。そんなのいくら金が……いや鉄があっても足りないからな」


 何なら魔力も足りないからな。


 鉄は硬いし重い。岩でゴーレムを造るのに対して、鉄で製造するなら数倍以上の魔力消費がかかる。下手したら十倍くらいかかるかも……。


 俺の魔力は常人よりも遥かに多いがそれでも有限なのだから。


 ではどうするか? そんなの決まっている。


「ともかくだ、集めるだけ集めてくれ。ちゃんと全部買い取るから」

「う、うん。わかった……」

「じゃあ俺行くから!」

「ま、待って!? 」


 注文し終えたので店から出ようとすると、ミレスが呼び止めて来た。


 思わず振り向くと彼女は思いつめたような顔をしている。


「あ、あの……あの時の金貨百枚って本当に取り返したの……?」

「そりゃもう強盗をギッタンギッタンにのめしたよ! じゃあ時間ないから!」

「こ、今度! 今度一緒にご飯食べよう!? 二人きりで!」

「いいぞ!」


 そうして俺は改めて店を出て行くのだった。

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