第20話 逃がすかよっ!
酒場で宴をする約束をしてから二日後の夜。
「来ないなぁ……」
「来ないです……」
俺とメイルは自宅にパーティーの準備をして、ミレスが来るのを待っているのだが……彼女は来ない。
おかしいな……もう辺りは完全に暗くなってしまった。真っ暗夜道は危険なので、夜に約束したならば多少明るい間に来るはずなのだが
テーブルの上にはメイルが腕に寄りをかけた料理の数々。更にはライラス辺境伯に頼み込んで手に入れた焼き魚まであるのに。
「ミレスちゃん、用事でもできたです?」
「それなら伝えてきそうな気がするが……もしかして親父さんの容態に何かあったか?」
ミレスの父親を治すポーションのお金貯まった祝いだが、まだ彼女はポーション自体は買えていない。
それなりに貴重な品なのでポーション屋がすぐには用意できず、入荷が明日になるとか言ってたはず。
「うーん、ちょっと様子見にいくか。何かあったかかもしれん、何もなくて忘れてるだけならそれはそれでよいし」
「夜道は危ないので気を付けるです」
「俺ならひとりでも大丈夫だ、ゴーレムもいるし」
俺は自宅から出て行くと、庭に足を踏み入れて叫んだ。
「俺の足に踏まれているゴーレム、ついてこい!」
「「ごおおおおおおお」」
俺が急いで後ろに飛びのくと、足元の地面が崩れてゴーレム二体が這い出て来た。
ゴーレムが庭にぎっしり並んでることについて、以前に近隣の人から苦情が来たのだ。
なので地下に潜らせておいた。地下駐車場みたいなノリだ。
「坊ちゃま明かりです」
メイルが魔法の玉の入ったランタンを持ってきてくれた。
明るさ的には現代地球の電気ランタンと大して変わらないので助かる。
これで周囲を照らしながら夜道を歩いて、ミレスの店につくのだった。彼女の店は家と兼用で、一階が店舗で二階が住宅となっている。
「ミレスー。俺だー、ベギラだー」
試しに扉をノックしながら叫ぶが返事がない。
やはり留守なのだろうか。約束忘れて酒場で働いてるとかかな?
まあそれならそれで何もないなら別によいのだが……宴はまた後日やればいいか。
そう思いながら店から背を向けた瞬間だった。
「んー! んー! んー!」
「て、てめぇ! 騒ぐな……!」
「……っ! 今のは……っ!」
店の中から声にならない悲鳴と共に、知らない男の叫び声が聞こえる……!?
「絶対怪しい! ゴーレム、店の扉を引っぺがせ!」
「ごおおおおおお」
緊急事態だ、間違ってたらごめんなさいで弁償するから!
ゴーレムが扉をひっぺがすと、店内の床には光る魔法のランタンが置かれている。
そして……二人の男がミレスを床に抑え込んでいた。彼女の衣服はボロボロに破かれて、布轡で口を塞がれていて……。
「ゴーレム! あの男どもを粉々にしてやれっ!」
「ごおおおおおお」
「いっ!? い、いかれゴーレム野郎!? くそ逃げるぞ!?」
ゴーレムが室内に入ると同時に、男どもは机に置いてあった袋を手に取って裏口から逃げ出した。
逃がすか……いや待て、あんな奴らよりもまずはミレスだ!
「ミレス! 大丈夫か!?」
急いで床に倒れているミレスに駆け寄ると、彼女は涙目で俺に抱き着いてきた!?
「ひっく……ありがっ、ありがと……」
声を震わせて俺の胸にすがりつくミレス。
とりあえず見た限りでは怪我などはないようでよかった。
「あいつら見たことある。たまに冒険者ギルドの酒場でたむろしてた奴らだよな……明日になったらギルドや憲兵に伝えて捕縛してもらおう。なんにしてもこの街で暮らせないようにしてやる。だから安心してくれ」
「…………」
だが俺の言葉にミレスはうつむいた。
襲われたショック……にしては少し違和感がある。それなら助かった今はもう少しよい反応になるはずだ。
もしかして何か盗まれたとか? そういえばさっき、あの男ども何か袋持ってたな……待て、ミレスはもうすぐ金貨百枚貯まるって……。
「……ポーション代、盗まれたのか?」
「…………っ!」
ミレスは返答の代わりのように俺に抱き着く力を強める。
…………あんの腐れ外道ども! いつも冒険にも出ずに飲んだくれて、挙句の果てに他人の金を奪って……!
俺はミレスを優しく引きはがすと、彼女の肩を持って顔を近づけた。
「俺が捕まえて来てやる! 不安だろうからゴーレムを一体置いていく!」
「で、でも……危ないよ! それに今から追いかけても……」
「あんな大義もない奴らを勝ち組にしてたまるか!」
強盗、泥棒なんて絶対許せない。それで勝ち組になるなんてあってはならない!
いやそれよりなにより俺が好きな女の子が、こんな酷いことで不幸にされてたまるものか!
「もし不安ならゴーレム連れて俺の家に戻っておいてくれ。メイルがいるから」
「…………うん」
心配だがここは奴らを追わなければ!
そうして俺はミレスの店を飛び出して、街中を走り回って奴らを探し始めた。
だが見つからない。話していた分だけ距離を稼がれたのだ。
どこかの建物に隠れられたりしたら発見は難しい。どうする……。
「ここは……そうだ。正門で待ち伏せすればいいか! 夜間は閉まってるから奴らは逃げられない。明日の朝になって逃げだそうものなら捕縛できるし……逃げ出さないなら憲兵やギルドに報告できる!」
こうして俺は急いで正門に向かった。
それで門番たちに事情を説明して、夜が明けるまで近くの小屋で少し仮眠をとらせてもらうことになった。
いわゆる顔パスというやつだ、俺は色々と有名になったからな。
そうして朝日が出始めた頃、俺は街の内側から門が開いていくのを見ている。
この門はレバーを引くとガラガラと引きあがっていくタイプなので、門を開く時は誰もそばにいない。万が一、門が落ちてきたら危ないからな。
僅かな時間だし危険だから近づかない。電車の踏切が鳴っているから離れるくらい当たり前の話。それこそが失敗だった。
パカラパカラと馬の走る音が聞こえてきて。
「どけぇ! どけぇ!」
二頭の馬が全速力で走ってきている!? 馬に乗っていたのはミレスを襲った奴らだ!
まずい、ゴーレムも俺の側に待機させてるから奴らの前に立ちふさがることができない!?
「も、門を閉めてくれ! 犯罪者が逃げる!」
「む、無理言うな!? 開いてる途中だぞ!?」
「あばよいかれゴーレム使い! 足遅いゴーレムじゃ追い付けねぇだろ!」
まだ完全に開いてない門を奴らは馬ごとくぐり抜けた……。
ここしかないタイミングを狙われたしまった、くそっ!
門が開ききった直後、俺は急いで街の外に飛び出す。
奴らが街道を走っているのが見えた。このまま隣街に逃げてトンズラ……なんてさせるかよ!
「実験すら出来てないが……ここでやらねば男がすたる! 目覚めよゴーレム! 俺を乗せて奴を追えっ!」
俺の命に従って正門の近くに(内緒で)埋めていた土ゴーレムが、地面から這い出てくる!
四足歩行の象を模した姿で、全長4mはある巨体だ。象ゴーレムはかがんで俺を背中に乗せた。
「うわでけぇ……いやでも待て! それがゴーレムなら馬に追いつけるわけが……!」
門番が俺の近くに駆け寄って叫ぶ。機動力が皆無、それがゴーレムの常識だ。
彼の反応は至極普通。だが俺は普通じゃなくて変人の類なんでな!
「こいつは違う! 過剰な魔力を注いだ結果……子犬くらいの速さで走れる!」
「す、すげぇ!? いやそれでも馬には追い付けないだろ!? 馬を用意してやるから少し待って……」
「待ってる間に逃げられる! ミレスと約束したんだよ、絶対捕まえるって……!」
象ゴーレムは勢いよく走りだした。人が走るよりはスピードがあるが……馬には及ばない。
ただ馬と違ってゴーレムは疲れないのでずっと走らせることができる。
向こうの馬はずっと走ることは無理で休憩が必要だ。
『うさぎと亀』ではないが、数日単位の時間をかければ追い付けるだろう。だがその間に奴らは姿をくらませてしまう。
隠し玉を使うしかないか……実験すらしてない一か八かだが仕方ない!
「ここで使わなきゃ何のための隠しか! 見せてやる、師匠にすら伝えてない俺だけのゴーレム秘伝を!」
ゴーレムのコアは車で言うとエンジン兼ガソリン兼駆動機関、と前に考えた。
それが正しいのならばだ、暴走させれば普通よりも出力を上げられるのではないかと。
普通のゴーレムコアは永続的な魔力精製を行う機関だ。それを壊す覚悟で過剰に動かせば……一時的にゴーレムの性能はけた違いに上がる!
「《コア・スタンピード》!」
俺が象ゴーレムの背中にしがみついて、呪文を唱えた瞬間だった。
象ゴーレムが桃色に輝きだして、先ほどとは比べ物にならない速度で走り始めた!
「行けっ……ってちょっおもったよりはやっあああああぁぁぁぁぁぁ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます