第19話 ベギラの休日
太陽が輝く朝。
本日は屋敷の仕事は休みなので、街の近くの山に出向いていた。
「《コア・インジェクション》! そして……おらぁ!」
ゴーレムコアを作成して、大岩に狙って投げつけた。
俺の三日分ほどの魔力を込めた渾身のコアは、見事に大岩を直撃せずに近くの地面に直撃!
そしてズブズブと沈んでいき……全長2mほどの土ゴーレムが地面から這い出て来た。
「し、しまった……岩ゴーレム作れる魔力込めたコアで、土ゴーレム作ってしまったぁ!?」
なんてもったいないことをしてしまったんだ!? この大きさの土ゴーレムならば、今のコアに込めた魔力量の半分で製造できたのに!?
ちなみにゴーレムの大きさは作る時に俺が念じて決めている。今回の場合は渾身ならぬ渾心込めた一球だったので、ようは投げる前に大きさ確定させていたのだ。
結果として過剰な魔力コアを持った土ゴーレム爆誕! 何という無駄遣い!
俺の目の前のゴーレムがきょとんとした顔に見える。いや表情どころか目や鼻すらないのだが。
「……やってしまったものは仕方ない。帰るか……ゴーレム、俺を肩に乗せて街まで運べ」
「ごおおおおお」
ゴーレムは俺を肩に乗せると、ゆっくりと街まで歩き始めた。
「うーん……次から投げない方がよいのかねぇ……いやでも何となくボールって投げたくなるというか」
俺がブツブツと考えている間にも、ゴーレムはゆっくりと歩を進め……ん? なんかいつもより少し速くね?
ゴーレムは人より遅いくらいなのだが、今のこいつの速さは人と同じくらいな気がする。
「ちょっと降ろせ。そのまま前進しろ」
ゴーレムから降りて隣に並んで歩く。すると俺とゴーレムはほぼ同じスピードだ。
やはり気のせいではない。こいつは人と変わらぬ歩行速度だ。
「…………もしかしてコアの性能が過剰だと、ゴーレムの動きがよくなるのか? どうなんだおい」
「ごおおおおお」
「そりゃ聞いても分からんよな。しかしなるほど、失敗は成功のもととはよく言ったものだな」
歩きながらも隣のゴーレムを観察する。
今まで過剰な魔力でゴーレムを製造した魔法使いなどいないだろう。理由は簡単、勿体ないからだ。
まず普通のゴーレム魔法使いは、土ゴーレムを一体造るだけで二ヶ月以上かかるのだ。ムダな魔力など込めてられない。
それは師匠だって同様なのでおそらく試していないはず。
魔力が多い俺だって勿体ないと思うからな。今回もクソコントロールによる偶然の産物だし。
「ゴーレムはコアの性能だけで動いているんだ。ならコアはロボットで言うと、エンジン兼ガソリン兼各関節部みたいなものだもんなぁ。その性能が上がればゴーレムの性能が上がってもおかしくはないか……」
今の現象はゴーレムコアをエンジンと見立てれば納得がいく。
ゴーレム自体は本来もっとスピードを出せるポテンシャルがあり、エンジンの出力が上がれば速く動けるのだろうか?
それこそ以前にゴーレム馬車にしたやつは、人よりもよほど大きかったのだ。
大きいということは歩幅が広いわけで、人間よりも速く走れても不思議ではない。地球の象はあの巨体で40kmくらい出せるのだから。
「なるほどなるほど。しかし魔力を通常より多く込めるとなると、永続に動くコアじゃないと難しそうだな……制限時間のあるリミットコアに多く魔力を込めても、稼働時間が延びるだけか」
……ふふふ、だが面白い情報が手に入った。俺のとっておきの隠し玉がひとつ増えたな!
実は俺にはまだ誰にも教えてない切り札が二つあるのだ。師匠にすら口外しなかったとっておきがな!
「てか俺が歩き続ける意味ないな。ゴーレム、俺を肩に乗せて街まで運べ」
「ごおおおお」
こうしてお昼ごろに街まで戻って正門を通ると、周囲から声が聞こえてくる。
「あ、ゴーレム使いよ。以前にアイガーク王国との戦いで活躍したんですって」
「でも褒美をもらえなかったんだろ? かわいそうに」
「いい? あの人は特別なだけだから、ゴーレム魔法使いに憧れてはダメですからねっ!」
街に最初に訪れた時よりは俺の評判も随分と上がったものだ。
ライラス辺境伯の屋敷で働いていることもだが、この領地を侵略してきた輩の撃退に貢献したことが大きい。
侵略者から守ってくれた者に悪口は言いづらいからなぁ!
ところで可愛い娘とか告白してくれないかな? 貴方のゴーレムに惚れましたとかさ。いやそれだと俺は相手にされてないじゃん。
さてこれからどうしようかな……一杯ひっかけに冒険者ギルドにでも行くか!
そんなこんなで冒険者ギルドの併設酒場にやってきたのだった。
「おおゴブリンクラッシャーじゃん! 久々だな! 評判は聞いてるぜ!」
「もう戻ってこないんじゃなかったのか?」
「今日は酒飲みに来ただけだ! 冒険者として戻って来たわけじゃない」
以前から話してた奴らがテーブルで酒飲んでたので俺も同席する。
店員が持って来たパンと肉を食らいながら、せっかくなので情報でも集めるとするか。
「最近はどうだ? 何か変わったことはあるか?」
「そうだなー……傭兵ギルドからこっちに流れてる奴が増えて来たな」
「ほう。何でだ? 傭兵ギルドは戦争への参加とかが仕事で、魔物退治とかは専門外だろ?」
傭兵ギルドと冒険者ギルドは、似たように見えて領分が全く違う。
前者は基本的に戦争で雇われる兵士たちのためのもの、対して後者は魔物退治とか雑用係が中心だ。
簡単に言うと傭兵ギルドで魔物退治依頼はほとんど来ないし、冒険者ギルドで盗賊退治などの対人戦闘依頼もあまり来ない。
どちらが優れているというわけではない。純粋に戦う相手を分けているのだ。
対人とドラゴンなどの魔物相手では、武器や戦い方も物凄く大きく変わるからな。
ドラゴンにナイフ術なんて役に立たないし、逆にくそでかい大剣振り回さなくても人は殺せる。
なので傭兵ギルドから冒険者ギルドに流れてくるのは、わざわざ専門外の分野にやってくることになるので珍しいはずなのだが。
「こないだのアイガークとの戦争だよ。あれで国王が集められた兵への支払い渋っただろ? 今回はライラス辺境伯がなんと全て代わりに出してくれたが……」
「傭兵たちの間でな、今後は戦争に参加しても報酬もらえないんじゃないかってなってる。次にアイガークが攻めて来た時、募兵集まるか怪しいかもしれんぞ」
あんのクソ豚王まじで……! 褒美を払わなければそりゃそうなるわなぁ!?
あいつのせいでライラス領が危機に陥りかねんぞ……!
「特に大活躍したお前に褒美がなかったのは致命的だったな」
「それな。もう国王はまともに報酬払わないとしか思えん。お前も災難過ぎたよなぁ」
そうなのだ。俺が報酬をもらえなかったのは、決して俺個人で完結するだけの話ではない。
周囲もやる気をなくしていくのだ。あいつがあれだけ活躍したのに何ももらえなかったの? じゃあ俺も頑張っても無駄だわ、となるのだ!
……やっぱりダメだな。今の王に従ってたらいずれライラス領は……。
「ベギラ、今日は俺達がおごってやるよ。流石に同情するし」
「まじか。ありがとな!」
やはりライラス辺境伯だ。彼女に何とかしてもらわなければ、いずれこの街の者達もアイガークに侵略されかねないな……。
こうして俺は仲間とただ酒を飲みまくっていたら、周囲が暗くなり始めた。
すると店内の壁などに設置されているゴムボールみたいなのが光を放ち始めた。
魔法で造られた照明だ。これのおかげで燃料代が安くすむので、酒場などは夜間営業がしやすい。
「あ、ベギラ。今日はお酒飲んでるんだね」
そんなことを考えていると後ろからミレスの声。
振り向くと彼女はメイド服を着て配膳を行っている。
「……もしかして以前に話してた働いてる酒場ってここ?」
「ここと他にも何件かあるよ。なるべく毎日働きたいから複数の場所で仕事してるの」
「…………どれだけ働いてるんだよ。倒れるぞ?」
「大丈夫! もう用意自体はほぼできたから! 今日あたりでこの働き方は終わりかな」
ミレスはすごくにっこりと叫ぶ。
おお、金貨百枚近く貯まったのか! すげぇな、そんな金額揃えるのは並大抵の努力は難しい。
俺みたいに大手柄を立てるならまだし、地道にコツコツとなると……数年単位で努力したんだろうな。
偉い……偉すぎる。俺にはとても真似できない。ここで飲んだくれてる奴が言うんだから間違いない。
「揃ったのか、ならお祝いしないとな! じゃあ記念に二日後の夜に俺の家でどう? 今度はおごる!」
ミレスに提案すると彼女は顔をほころばせた。
ちなみに俺達が金貨などと口にしないのはあえてだ。もし変な輩に知られたら物騒だからな。
「本当? ありがとう! 絶対行くね!」
ミレスを喜ばせたいな。
まだフィッシュタンクゴーレムの魚が残ってたはずだし、ライラス辺境伯にお願いしてもらえないかな……。
それと魔力を多めに注いだコアのゴーレムも、またお試しで造りたいな。
あれはこの世界の常識を変えるポテンシャルを持つやもしれん。何ならミレスにプレゼントしてもよいかも……荷物持ちとかで便利そうだし。
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ベギラとミレスが話しているのを、他のテーブルについた二人の男が睨むように見ていた。
「チッ、人が大損したってのに楽しそうだなあの女……こっちは下手したら借金のカタで殺されるってのに……!」
「まさか賭けで大負けするとはな……早く返済しないとまずいぞ。あそこの賭博ギルドの親分は、国中に顔がきくから逃げ場もねぇ……これが末期の酒になっちまう」
男たちは沈んだ顔をしながら飲んだくれて、ミレスとベギラに対して射殺すような目を向けている。
しばらく考え込んだ後に片方の男が小声で呟き始めた。
「あのゴーレム男、金貨百枚得てたよな? それなら」
「無茶言うなよ。戦争で活躍した英雄相手は分が悪い」
「じゃああの女の方だ、あいつも噂だと金貨百枚くらい貯めてるらしい。父親の病を治すとか何とか。そしてあそこはあの女と病に伏した父親の二人暮らし」
「……アリ、だな。ついでにお楽しみもできる」
男たちは下卑た笑みを浮かべてミレスを見つめるのであった。
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