第16話 やってられるかよこんなの!
俺はレーリア国王に膝をついて頭を下げているが、内心ではこのまま殴り掛かりたい気分であった。
俺の力でレーリア軍を彼の侵略者から勝利に導いたんだぞ!?
なのに「よくやったー大義ー」、なんて一言で済ませるとか舐めてるのか!?
しかもゴーレムたちほぼ全部使いつぶしたのに!
「何を呆けておるか! さっさと下がるがよい! 国王陛下の時間は貴重であるのだぞ!」
玉座の側で立っているコバンザメのような男――財務卿――が、意味不明なことを言い出す。
ぐぎぎ……し、仕方ない。ここは下がるか……きっと国も財政に余裕がなくて恩賞が払えないのだ。
俺が後ろに下がると入れ替わるように、男爵の位を持つ男が前に出た。
あれは……確かアイガーク国との戦で、「死にたくないでござる!」とか言って敵前逃亡したアホ男爵!
こんな奴に与えるのは叱りの言葉と罰則くらいだろう。何でわざわざここに呼ばれてるんだそもそも。
王は男爵に対してニコリと笑みを浮かべると。
「兵を率いての戦い、大義であった! スクラプ男爵よ、其方には少しだが土地を与えよう! これからも国のために忠義を尽くして欲しい!」
「ありがとうございます! 我が剣は王のために振るいます!」
…………は? なめてんの? いやまじでなめてんの?
何で大活躍した俺が褒美もらえてないのに、敵前逃亡して味方の士気下げたゴミが褒美?
お前が振ってるのは剣じゃなくて尻尾だろうが! しかもそれすら巻いて逃げたくせに!
怒りに身を震わせていると、スクラプとかいうゴミが俺の方を見て勝ち誇った笑みを浮かべてきやがった!?
こ、こんなことがあっていいのかよ!? 俺は何のために戦ったんだよ!?
「……お待ちくださいー。ベギラが、彼がいなければこの戦は負けていました。彼は貴重な財産であるゴーレムをすり減らして戦ったのですー」
ライラス辺境伯が王に対して諫言してくれている! 俺のために!
そうだよ! 俺は並みのゴーレム使いなら、用意に最低でも十年単位の時間がかかるほどのゴーレム揃えて戦ったんだぞ!
「故に大義と褒めているではないか。平民で王から直々に声を頂くなど、これ以上ない名誉なり!」
財務卿は明らかに俺に対して侮蔑の視線を向けてきている。
名誉で腹が膨れるか!? 誠意は言葉ではなく金額って言葉もあるくらいだぞ!?
「これ以上は王の時間が惜しい! すぐに立ち去るがよい! さもなくば叩き出すぞ!」
王から少し離れたところで立っている近衛兵たちが、持っていた大槍をガチャリと軽く動かした。
「ベギラ。ここから出ましょうー」
「……はい」
「王よ! 素晴らしい褒美、感謝いたします!」
俺は激怒をこらえながら玉座の間から出て行く。そして警備兵たちが扉を閉めた後もその扉を睨み続ける。
くそぉ! 何が王だ! 何が王だ!
怒りに身を震わしていると、スクラプが俺を見下して話しかけてきた。
「本当に君は度し難いな! 王の褒美に不満を抱くとは! やはりゴーレム使いは下賤な輩だ! ましてや男爵たる私と比較するなど、おこがましいにもほどがある! 身のほどを知るがいい!」
そんなことを言いながらスクラプは廊下を歩いて去っていった。
……その顔、覚えたぞ。戦場で流れゴーレムに気をつけるんだな……!
「ベギラ、こんなところにはいたくないでしょう? すぐに馬車で帰りましょうか」
「はい……!」
美少女であるライラス辺境伯が唯一の癒しだった。
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王城の玉座の間。
ベギラやライラス辺境伯たちを追い出した後、王と財務卿は愉悦そうに笑い合っていた。
「王よ。今回の戦はまともに褒賞を払わず、皆を満足させられそうですな」
「うむ、何せ防衛戦では土地も奪えぬのだ。なのに手柄をくれなど強欲な」
王はワインの入ったグラスを口にふくみながら、吐き捨てるように呟く。
今回のアイガーク王国との争いは完全なる防衛戦。国としては勝利しても土地などの得られるものはなかった。
実際は捕縛した敵貴族を返却する時の身代金があるので、ある程度は賄えるが出兵費用を考えると赤字である。
故に王家としては少しでも出費を減らしたい思惑があった。
だが兵として雇われて手柄を立てたベギラには、これっぽちも関係のないことでもある。
「しかし財務卿よ、お主の腹案は見事であるな。今回の戦いで大きな手柄をあげたのはあのゴーレム使いのみ。故にあの者にさえ褒美を渡さなければ、他の者には満足させられるものを与えられる」
「ふふふ、ゴーレムは作るのに時間がかかりますからな」
財務卿は褒められたことで顔をゆるませて、更に話の続きを喋る。
「あのゴーレム使いはもう大軍を揃えられない。今回のような活躍はもう無理。そんな者を飼っておく必要などない。普通の者ならば活躍した者に褒美なしではと、世間からもバッシングを受けます。ですがゴーレム魔法使いならば」
「ゴーレムを学ぶ愚か者故、本人にも問題ありと邪推されるか。わが国の財政も滞っておる。削れるところは削っていかねばな」
「まったくもって。そして今回の出兵の負担は、全てライラス辺境伯に押し付けるのです。無論捕縛した敵貴族の身柄は我らが。さすれば我が国の負担はない!」
「素晴らしいな!」
彼らのしていること。それは全てを失ってまで活躍した兵士を、もう役に立たないから投げ捨てる行為に等しかった。
普通のゴーレム使いならば、人生を捨ててなお用意できたか怪しいゴーレムの大軍。
それを使いつぶして国のために戦った者に対して、彼らは何の褒賞すら渡していない。
これはゴーレムを短期間で再生産できるベギラであるが故、「やってられない」で済んでいるのだ。
普通の一般兵に言い換えるならば悲惨だ。手足を失ってまで国を守るために手柄を立てた兵士に、何の報いもせずに放り捨てるようなもの。
手柄ではなくて今後の役に立つかだけを見るのならば、五体満足でなくなった人間は価値なしということだ。
「うむ! ライラス辺境伯は最近力をつけつつあるし、弱らせる意味でもちょうどよい!」
「アイガーク王国に攻められたとて、常に我らが支援する道理はございませぬ! 少しずつ支援を減らしてきましたが、今後はほぼ自腹で防衛させましょう! そして我が王家派閥にのみ褒美を与えるのです! スクラプ男爵のように!」
王家はアイガーク王国が何度も攻めてきたせいで、その防衛のための資金繰りが厳しく力を失っていた。
だが国である以上、領地の防衛に力を貸すのは当然だ。
それを領主に全て放り投げるならば、その領地が国に所属する意味の大半がなくなってしまう。
領主は土地を守ってもらうために税を払っている。
なのに敵が攻めてきても助けてくれないのでは、義務だけ強制されてるのに対価をもらってないことになる。
「今宵の酒はうまいな!」
「一瓶で金貨百枚はする代物でございますゆえ!」
「興が乗った! 女を呼ぶのじゃ! 今宵は無礼講、ワシを満足させた者には褒美をやる!」
「ははっ! 絶世の美女を揃えます!」
王たちは愉悦とばかりに下卑た笑みを浮かべ、宴を始めるのだった。
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