第15話 勝利だ! でも……
『皆さんー、勝どきをあげてくださいー』
「「「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
ライラス辺境伯が風に乗せた可愛らしい声と共に、男たちの野太い叫びが戦場にこだました。
我らレーリア王国軍の完全勝利である!
俺のゴーレム十面埋没の計が成功して敵中央が崩壊した結果、アイガーク軍は完全崩壊して散り散りに逃げ出した。
当然だろう、中央が壊滅状態した軍が統制など取れるわけがない。
そして敵兵も人間だ、負けが分かれば他人を蹴落としてでも逃げる。軍の総兵数の三割で全滅と定義するように、全員死ぬまで戦うなんてあり得ないのだ。
更に言うなら軍の三割が死ぬ前に、士気がなくなって兵たちが逃げ出して軍が崩壊することも多々ある。
兵の士気とはそれほど重要なのだ。だから地球でも軍の飯は割と味にこだわってたりする。マズイ飯では士気が落ちるから。
『活躍した兵士たちは、王から褒美が出ることでしょうー。特にゴーレムを使って敵中央を崩壊させた者。ベギラという勇者は最低でも騎士に任命されますでしょうねー。されなければおかしいですー』
なんとライラス辺境伯が戦場中に俺のことを広めている!?
俺はゴーレムを五体くらい侍らせているので、物凄く周囲から注目が集まって来る!
なお残りは全部壊れた。包囲戦自体の被害は軽微だったが、その後に敵の右翼と左翼に正面から突っ込ませたから是非もない。
所詮は土ゴーレムだしな。岩でない理由は消費魔力が多いもあるが、純粋に大量の岩を用意するのが難しいからだ。
流石に百体の岩ゴーレム揃える分の岩はな……。
「だよなあ、あれだけ働ければなぁ。ゴーレム犠牲にしたのも偉いぜ」
「ゴーレム普通に強いのな。魔法使いより活躍してんじゃん」
「ゴーレムを造るには時間がかかる。あのゴーレムの数はもう用意できないだろうが、これで貴族になれるなら悪くないだろうな」
ああ、周囲から賞賛の嵐が……! 師匠、ゴーレム魔法の評判が上がっていきますよ!
どうか空の上から見守っていてください、って死んでないか。
『ではリテーナ街に凱旋しましょうー。逆侵攻には準備も足りませんからー』
こうして俺達はリテーナに帰って、疲れた身体で夕暮れの中で自宅へと戻ると。
「やったねベギラ! おめでとう! ボクは君をただものではないと思ってたよ!」
「坊ちゃまお疲れさまです! 無事に帰ってきてよかったです!」
メイルとミレスの美少女二人が出迎えてくれた。
テーブルには普段よりも少し豪華な食事。具体的には鳥の丸焼きなどが置いてある。
「ただいま! 武勲をあげてきたから騎士になれそうだ! ライラス辺境伯からもそう言われたし!」
「まさか坊ちゃま、本当に騎士になるなんて……凄いです!」
「おめでとう! これからもボクの商会をごひいきにー!」
「「「乾杯!」」」
皆でお酒を飲んで乾杯したりワイワイ楽しんだりした。
「どうもこんばんは。ベギラ、活躍おめでとうございます。これはつまらないものですがどうぞ」
メフィラスさんが少し高い酒をプレゼントしてくれたり。
「よくやったねあんた! おかげでこの街も平和さ! これはサービスだよとっときな!」
以前にミレスのお土産を相談した果実屋のおばちゃんが、野菜や果物を色々持ってきてくれた。
「坊ちゃま、飲み過ぎて吐いたらダメですよ?」
「大丈夫だ、俺は天才ゴーレム使いだぞ? 吐くのには慣れている!」
「大丈夫じゃないです!?」
「あははは! ボクもお酒ちょうだい!」
こうして俺は素晴らしい夜を過ごしたのだった。
なおミレスは「明日も早いから」と泊まらずに帰ったし、メイルは速攻酔って潰れたのでムフフな展開はなかった……。
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そして翌日、二日酔いで頭が痛いが頑張って屋敷に出向く。するとライラス辺境伯の執務室に呼ばれて出向くことになった。
「ベギラ、よく頑張りましたー。私も鼻が高いですよー」
ライラス辺境伯はニコニコした笑顔だ。椅子に座って俺を出迎えてくれる。
「ライラス辺境伯が自分の具申を採用して下さったからです」
「いえいえー、貴方の策は失敗しても痛手がなかったですからねー。なにせ貴方のゴーレムが全滅するだけですしー」
使い捨てしても心が痛まないのはゴーレムの利点だな。
もし百人の人間が伏兵に失敗して眼前で殺されでもしたら、我が軍の兵たちに動揺が走っただろう。
「それでベギラ、王様から貴方に対して王宮へ出向くように言われてますー。私も呼ばれているのでー、一緒に行くことにしましょうー」
「ははっ! 承知いたしました!」
王から呼ばれているということは、間違いなく騎士への任命だろう。
いや侵攻してくる敵軍をほぼ俺一人で半壊させたようなものだ。あるいは準男爵、いやさ男爵への爵位もあるかもしれない!
勲章ももらえるだろうなぁー。それだけの働きをしたのだから!
「それでー、私からも僅かですが褒賞を与えますー」
「えっ? ですが今回の軍は王侯軍になるので、ライラス辺境伯からの褒美はないはずでは……」
ライラス辺境伯は平時の俺の雇い主だ。
だが今回の戦は王侯軍として出兵した。つまり俺もライラス辺境伯も、王に遣わされたという形になる。
なので褒美は王からもらえるのみであり、ライラス辺境伯が俺に渡す義理なんてない。
「貴方がいなければ負けていたかもしれませんー。それにゴーレムのおかげで兵たちが無駄に死ななくて助かりましたー。お礼として受け取ってください―」
そう言って彼女は手鐘を鳴らすと、メフィラスさんが大きく膨れた貨幣袋を持って入室してきた。
ライラス辺境伯は椅子から立ち上がる。彼女はメフィラスさんから貨幣袋を受け取ると、少し重さでよろけながら更に俺に対して差し出してくる。
……待って? この貨幣袋、人の頭くらいの大きさあるんだけど。
それがパンパンに入っているって……あ、銅貨を思う存分詰めました的な?
まさかこれだけの金貨なわけがないだろうしー。
「金貨百枚、褒美に渡しますー」
「!?!?!?!?!? き、金貨百枚!? そんなのとても受け取れませんよ!?」
金貨百枚って金貨百枚だぞ!? 地球換算で千万円だぞ!?
俺の武功に対して国王が払うというならば全然足りないが、褒美を渡す道理のないライラス辺境伯からもらうには多すぎる!?
「受け取ってくださいー」
「いや無理ですって!? ライラス辺境伯から受け取る理由が……!」
「さっき言ったじゃないですかー。それにあの、重くてその腕がぷるぷるしてきましてー。とりあえず持ってください―」
「え、じゃあはい」
ライラス辺境伯が重そうに貨幣袋を抱えていたので、とりあえず助けると思って受け取った。
「ではそれは貴方の物ですー」
「えっ」
「一度渡したものを返されたらー、私の名に傷がつきますー。助けると思って受け取ってください―」
「…………あ、ありがとうございます! これからも忠義を尽くします!」
「はいー。貴族になるならお金もかかるでしょうからー、是非使ってくださいねー」
なんてよい人なんだライラス辺境伯! この恩は忘れません!
この一ヵ月後、俺は彼女と王宮に向かった。
そして豪華に彩られた玉座の間に案内された。
玉座に座った王に対して、俺とライラス辺境伯と誰かよく知らない男と共に謁見している……とうとう貴族になる時が……!
「活躍、大義であった。褒めてつかわす」
「ははっ!」
「では下がってよい」
「……え?」
「何を呆けておるか! さっさと下がるがよい! 国王陛下の時間は貴重であるのだぞ!」
えっ、ちょっと待って?
あれだけ手柄を立てたのに……お褒めの言葉のみだとっ!?
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一日一話投稿に戻る予定です。
ランキング伸びて勝負所と見たらまた考えます。
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