第14話 アイガーク軍涙目


「矢を恐れず進めぇ! 奴らの領地には女も食べ物もたらふくあるぞぉ!」

「「「「おおおおおぉぉぉ!!!」」」」

「お前たちはアイガーク軍の精強なる兵士だ! レーリア軍の貧弱で卑劣な策など食い破ってやれ! こんな小細工を弄するのは直接刃を交えるのに自信がないからだ!」


 私はアイガーク軍の中央部隊の指揮官として、騎乗して突撃命令を下していた。


 奴らの卑劣な風策によって向かい風が吹いている。


 こちらの矢が届かず、敵の矢に一方的に兵が討たれているのだ。これでは弓矢戦を続けても損害が増えるばかり。


 多少の犠牲をはらってでも乱戦に持ち込まざるを得ない。


 それに……どうやら敵は失策を犯している。


「我らの前方の兵は薄いぞ! 手柄をあげる好機ぞ!」


 レーリア軍の中央部の兵士の数が少ないのだ!


 私には分かる! これは奴らが両翼に重きを置いたということだ!


 敵は数で劣るので正面から戦えば不利! ならば両翼を分厚くして我が軍を破り、そこから包囲していくつもりだ! 


 愚か者ならば中央を手薄にするなど何かある、と違和感で様子見するのだろう!

 

 だが私にはそんな手は通用しない! そしてこれはもろはの策だ!


 兵たちに突撃命令を下し続ければ、奴らの中央部が壊滅して敵軍は崩壊する!


「いけぇ! 戦に勝って女を奪え! 金を奪え! 全てを奪いつくすのだ!」

「「「「「おおおおおお!」」」」」


 我が軍は意気軒高! もはや負ける要素など皆無! 少し離れた後方からは魔法使い部隊からの攻撃魔法の支援も飛んできている!


 魔法使いは遠距離部隊なので、乱戦になる前に部隊から切り離して少し後ろで控えさせているのだ。


 対して奴らは魔法使いの数を揃えることができなかったようだ。数も質も勝っている我らの勝ちぞ!


 そうしてレーリア軍の先頭と乱戦まであと僅か、と言ったところで妙な声が響いた。


「見事に引っかかってくれたな、俺の秘策に! 地中から出でよゴーレムたち! 奴らを倒すのだ!」


 何者かの号令と同時に我らの右にゴーレムが大勢現れた。


 ……ふっ。何をするかと思えばゴーレムとは! しかも土なんてあんなでくの坊、恐れるに値せんわ!


 後方で様子見させている魔法部隊が即座に撃滅して終わりだ! レーリア軍は本当に魔法使いの質がない!


「控えさせている魔法使い部隊に『ゴーレムに一斉法撃を向けて粉砕せよ』、と伝令を送れ!」


 私は側に控えた副官に命令を下す。


 これで奴らの秘策(笑)とやらを破れば、前方の部隊は瓦解して我らの勝ちだ!


 だが副官は返事をせずに困惑している。


「ぜ、全方位をゴーレムに囲まれております! いったいどこに撃てば……!? それに後方支援である魔法使い部隊と分断されて、伝令も送れません!」

「……なにっ!? ほ、本当だ!?」


 馬上の高い視線から戦場を見回すと、我が軍の周囲は全てゴーレムが包囲している……。


 ば、バカなどうなっている!? これほどのゴーレムをどうやって用意した!?


 そんなことを考えている間にもゴーレムがゆっくりと距離を詰めて来ていて……。


 いやそんなことを考えている場合ではないっ!? この状態は……どう考えてもまずいぞ!?


「「「「「ごおおおおおおお!!」」」」」


 我が軍は左右後方を俺のゴーレムに、前方をレーリア軍に包囲されてることになっている!?


 これでは逃げ場もない我が軍は、力任せにゴーレムに摺りつぶされるだけぞ!?


「ば、バカな!? 平野の中央付近で伏兵など!? そもそもレーリア王国にゴーレムなど存在していたのか!?」

「ま、魔法使い部隊の援護はどうした!?」

「ここまで近づかれたんだぞ!? ゴーレムを粉砕するような魔法を叩き込まれたら、近くにいる俺らも巻き添えだぞ!? 馬鹿後ろだ! 後ろの包囲を破らないと逃げ場が!」

「馬鹿、横だ! 横を破れば味方と合流が……!」


 ま、まずい! 我が方の兵が完全に混乱している! 


 まさか平野の中央部で大量の伏兵に包囲されてしまっては!?


 私だって夢にも思っていなかったのだ! これでは一般兵は混乱して使い物にならぬ……!?


 そんなことを考えている間にもゴーレムは我らとの距離を詰めて、包囲の輪を少しずつ狭めて行く。


 い、今ならばまだゴーレムたちの間に空間が開いているが……ゴーレムの威圧感の前で間を抜けろとは酷か!?


「ま、待てっ!? やめろっ!? やめろっ! こんな卑劣な策など許されるわけが……!」






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 俺は混乱する敵軍を見てほくそ笑んでいた。


 ふふふ、大量のゴーレムを地面に潜ませての伏兵包囲は想像だにしなかったろう。


 そもそもゴーレムを大勢揃えるのなんて現実的じゃないからな。そんなことするくらいならば魔法使いを大量に雇う、というのが常識だ。


 故に奇策となった! ゴーレムを舐め腐ってるからだよばぁか!


 敵どもら、ゴーレムを最初に見た時に明らかに舐めた顔してたからな! 包囲されたの気づいてから真っ青になってやがった!


 この伏兵にて周囲を囲む策は中国に古来より伝わる伏兵戦法、十面埋伏……否! 十面埋没の計! 


 地中に潜めるゴーレムだからこそできる計略よ! 墓場から這い出るゾンビ映画のパクリとか言うの禁止な!


 まあ何なら十面埋伏とも微妙に違う気もするけど気にするな!


 敵が混乱している間にゴーレムたちは敵軍にかなり近づいた。もうこれで後方に残った魔法使い部隊も支援はできないだろう!


 この風の強い戦場で迂闊に撃ったら、狙いが逸れて同士討ちになりかねないからな!


 そして蹂躙劇が始まった。


「ひ、ひいっ!? ロングソードじゃ土ゴーレムには微妙だぞ!?」

「槍もだ! メイスとかの武器なら勝てるのに!」

「やめろ前に行ってくれ!? こちらにもう逃げ場はないんだ!」

「お前こそ下がれ! こちらはゴーレムに……!」


 土ゴーレムはそこまで強くないが、それでも並みの兵士数人分の力はある。


 ましてや敵は包囲によって身動きが取れないので、まともに力も発揮できていない。


 こんな状態ではゴーレムに正面からの力勝負を挑まざるを得ない。そうなれば力自慢のゴーレムはそうそう負けない!


 どんどん包囲の輪が狭まっていき、敵兵は逃げ場をなくしておしくら饅頭し始める。


 いやそんな生ぬるい物ではない。おしくら饅頭、押されて死ぬなみたいな感じだ。挟まれたら潰れて終わるレベル。


 それにもみくちゃで転んで倒れた奴が、踏み潰されたりとかするんだろうなぁ。少し可哀そうではある、だが容赦は絶対にしない!


 ここで加減して敵兵の被害を減らせば、その分だけ我が軍の死者が増えかねない!


「お前たちが攻めて来たんだからな! やれっ、ゴーレム!」


 更に言うならこちらは別にゴーレムが数体やられても全然問題ない!


 敵からすればゴーレムを殺しても手柄にならず、殺されたらただの討ち死と大損に過ぎる。


 そんな状態で軍の態勢を保てるはずがなく……敵の中央軍はほぼ全滅した。


 ゴーレムに踏み叩き潰されるならまだマシ、酷いのは自軍の兵に踏み潰されて死んでいるのまでいたのだった。


 この策を思いついたのはメフィラスさんのおかげだ!


 危険を犯さずに手柄を立てるためにこの策を思いついたのだから!


「ありがとうメフィラスさん! おかげでゴーレムを活かす策を手に入れました!」

『メフィラスはそんな意図で話したわけではないと思いますよー』


 ライラス辺境伯からのツッコミが入ったのだった。



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