第13話 いざ戦場へ!


 アイガーク国は敵国に侵攻して略奪で生計を立てていた。


 ライラス領に攻める四か月ほど前、彼らは自国の西に位置する国を攻め滅ぼした。


 そして……。


「へっへっへ! ほら逃げろよ! 捕ったら後はお楽しみだぞ?」

「い、いやぁ!」


 とあるアイガーク兵は、わざと逃がした女をいたぶるように追っている。


 当然だが彼女に逃げ場などなく、地獄が後回しになるだけだった。


「チッ、お前しけてやがんなぁ! まあ死んでるからもう返事できないか」


 とあるアイガーク兵は民家に強盗に入り、住民を殺して散々漁った後に死体にツバをはいた。


 彼らは占領した国で好き放題を尽くしていた。


 家は焼き、作物は全て奪う。女はさらって犯す、男は殺すか捕らえて売り払う。


 略奪で生計を立てる国というのは昔からある程度存在した。


 だが当然ながら隣国からすれば大迷惑以外の何者でもない。


 彼らが略奪した後には草木も残らなかった。


「次はレーリア王国だって? 豊かなんだろ? 奪いがいがあるじゃねぇか」

「わざわざ俺達のためにため込んでくれてるんだ。しっかり回収しないとな!」

 

 下品な笑い声が周囲にこだまするのだった。

 


 


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 ライラス辺境伯に戦場参加の許可を頂いてから一ヵ月後。


 都市リテーナの正門の前には、大勢の兵士が集められている。


「皆さんー。憎きアイガーク王国が攻めてきていますー。私たちは防衛のために国境にて迎え撃ちますー!」


 ライラス辺境伯が即席で作った木のお立ち台に立って、兵士たちの前で号令をかける。


 そうしてもうすぐ出発しようかというところだ。


 兵たちの士気は高い、何せ敵は極悪非道のアイガークだ。俺達が負けて奴らが領地に侵入すれば、家族や親しい者が恐ろしい目にあいかねない。


 そんな中でも脚光を浴びる天才ゴーレム使いの俺は、皆からものすごく注目の視線を受けていた。


「おいおい……土ゴーレムどれだけ揃えてるんだよ。百体くらいいるぞ」

「あれだけいれば今回は手柄を立てられるかもだが、あのゴーレム全部潰れたらもう無能使いじゃん」

「言ってやるなよ。ゴーレム使いなんて馬鹿しか、いや馬鹿でもならねーよ」


 言ってろ馬鹿にも及ばぬゴブリンどもが!


 俺のゴーレムたちはな、お前らみたいな雑兵とは違う役目があるんだよ!


「ベギラ、そろそろゴーレムで馬車をひいてください」

「ははっ!」


 近づいてきたメフィラスさんに対して元気よく返事をする。


 俺のゴーレムは戦いだけが仕事じゃないんだよ。馬の代わりに馬車を運ぶのもできるのだ!


 もちろんゴーレムのひいた馬車は、普通のそれよりもだいぶスピードが遅いのが大きなデメリットになる。

 

 だが今回の場合は軍に帯同する形になるので、基本的に一般兵に合わせて徒歩での進行だ。


 この場合はスピードは大して問題にならず、更に馬に比べて大きなメリットが二つある。


 ひとつは馬を扱う場合は多くの餌が必要だがゴーレムならいらない。もうひとつはゴーレムの方が馬よりも力があるので、より多くの荷物を無理なく運べる。


「よしゴーレムたち! 各自、空いている馬車をひいていけ!」

「「「「「ごおおおおおおお」」」」」


 ゴーレムたちは馬のついてない馬車に寄って行って、各々が車体から出ている轅――馬を馬車と繋ぐ部分――を手に取って前進し始めた。


「「「いっ!?」」」


 ゴーレムを馬鹿にしてた奴らが驚くさまは愉快だなぁ! 


 そうして俺達はアイガーク王国との国境付近の平野にたどり着き、陣幕を周囲に設置して簡易な陣をつくった。


 それから一日後、やってきたアイガークと互いに軍を展開した状態で相対する。


 その中で俺は軍の布陣の中央部分の手薄なところに配置されていた。ちなみにゴーレムは側にいない。


 とある作戦をライラス辺境伯に具申して許可を頂いたのだ。ここで手柄を立てればと思うのだが……。


「アイガーク軍……俺達より明らかに数が多い……」

「こちらは二千五百、敵はおおよそ五千らしいぜ……」


 周囲の兵士たちの不安そうな声が響く。


 明らかに敵の方が兵数が多いのだ。装備の質などは変わらないようだが、兵力差二倍はなかなか厳しい。


「わ、私は男爵として部隊を指揮する役目がある! 死ぬわけにはいかないので、後方支援に徹することにする!」


 あげく騎乗した貴族のひとりが逃げ纏うように、後方へと下がり始めた。


 ……余計に士気落ちるだろ馬鹿。しかも貴族ならむしろ矢面に立てよ。


 指揮官になるのは木っ端貴族じゃなくて、子爵以上とかだろ知らんけどたぶん。


 対して敵軍は余裕しゃくしゃくの態度で、特に大声自慢の奴がこちらに向けて叫んでいる。


「ライラス辺境伯様ー! 俺達に捕縛されたら性奴隷ですぜー! 穴という穴を犯させてもらいますぜー! さっさと逃げた方がいいんじゃないですかねー!」


 なんと品のない挑発、まあ戦争なら罵詈雑言なんて当たり前か。これで敵が顔真っ赤になってくれればしめたもの。


 よく対戦ゲームで煽りはマナー違反と言うが、倫理とか取っ払うなら勝つ可能性を上げる戦術としては有効だからな……。


 こうなると兵の士気が不安になるな。我が軍に負けられたら困るのだが。


『皆様ー、恐れることはありませんー。奴らは確かに極悪非道です。我が領地に侵入すれば、食料は奪って女は犯しと略奪の限りを尽くすでしょうー。ですが……弱い犬ほどよく吠えるものですー』


 そんなことを考えていると、戦場にライラス辺境伯の声が響き渡った


 これはあれか。風魔法で声を運んでいるのだろうか。


 更に俺達の背から突風が勢いよく吹いてきた。


『私が風で皆様を指揮しますー。乱戦ですと声は聞こえない恐れがあるので、追い風は前進、向かい風は後進と覚えてください―』


 嘘だろ。ライラス辺境伯、まさか戦場中の自軍全体に魔法で風を吹かしているのか?


 もしこの言葉が本当なら大きな利点が二つある。


 まず戦場全体に風を吹かしていることだ。例えばこちらが追い風になるならば、相対している敵は向かい風だ。


 そして矢は風の影響を強く受ける。つまり我が軍と敵軍の矢の射程距離に大きな差がつく。


 もちろん追い風側が射程を伸ばせる、逆に向かい風側はまともに矢を飛ばせない。


 こちらは敵の射程外から矢を放ち続けられるので、疑似的な防衛戦に持ち込めるわけだ。


 柵などはないので完全に防衛戦の利を得られるわけではない。それでも敵からすれば自分から近づかなければ一方的に矢を撃たれるのはきついだろう。


『矢を放ってください―。自分から近づく必要はありませんよー』


 そしてもうひとつの利点は指示伝達のアドバンテージだ。


 通信機器などのない原始的な戦場において、大軍同士の戦では連携に伝令の馬などを要する。


 だが風で指示できるならば、乱戦においても兵たちに即時の指示が可能になるのだ。どう考えても有利である。


 我が軍から矢が一斉に放たれて、敵兵に襲い掛かっていく。


 敵も返しの矢をうつが……やはり風に遮られて俺達のところまで届く前に地面に落ちる。


 これがライラス辺境伯が風の指揮者と言われる理由か。確かにその名にふさわしい。


 そんなことを考えていると敵が突撃してきている。流石に向かい風での弓合戦は不利と見たか。


 弓と魔法使いの遠距離部隊を後方に残して、早々に乱戦に持ちこむつもりらしい。


「中央が穴だぞ! あいつら馬鹿だ!」

「一気に攻め崩して敵を左右に分断する! 者共かかれぇ!」


 敵の中央配置の部隊共が弱みを見つけたとばかりに、俺達の方へと突撃してくる。


 まあ中央手薄と見れば狙うだろうな。中央で打ち勝てれば、敵の言っているように我が軍を左右に分断して包囲を狙えるのだから。


 だが普通に考えてもみろと言いたい。破られたら特にまずい中央部分を、何の策もなしに薄くするわけがないと。


 アイガーク兵、お前らはもう術中にはまってるんだよ!


 敵軍はもう戻れないところまで来て、俺達と接する直前……今だ!


「見事に引っかかってくれたな、俺の秘策に! 地中から出でよゴーレムたち! 奴らを包囲して倒すのだ!」


 俺の号令と共に地中に隠れていたゴーレムたちが、敵中央軍を囲むように地面から這い出て姿を現した!




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現状こんな感じです。


敵魔   敵敵敵敵敵 王国軍右翼

     ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

敵魔  ゴ敵敵敵敵敵 王国軍中央部隊

     ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

敵魔   敵敵敵敵敵 王国軍左翼


数の問題で隙間のない完全包囲は無理で、まだゴーレムの間には数メートルの感覚があります。

でも大きなゴーレムの横を通り抜けるのはかなり怖いのと、軍が混乱するでしょうから無理そう。


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