第12話 お褒めの言葉
俺はライラス辺境伯に、屋敷の執務室に呼び出されていた。
彼女は執務用の椅子に腰かけたまま、俺に対してニコニコと笑みを浮かべてくる。
ものすごく可愛い。幼い見た目も相まってとても辺境伯とは思えない。
「よくやりましたー。メーダ―伯爵はすごく驚いてましたよー」
「ははっ! ありがとうございます!」
水槽ゴーレムを見た時の伯爵の顔、漫画みたいに目を見開いてたもんな。
内陸地で魚を食べれると聞けば驚くか。
あのゴーレムをここまで連れてくるのは大変だったけどな……魚の餌を定期的に放り込まないと餓死するし。
水温とか水の綺麗さとかはゴーレムの力で保ってくれるが、エサばかりはどうにもならない。
「褒美を与えねばなりませんねー。メフィラスから貴方の希望は聞いてますー。実はアイガーク王国の我が国に対する出兵の兆しがありましてー、防衛のための我が軍に帯同しますかー?」
「は、はいっ! 是非!」
「わかりましたー。貴方に手柄を立てる機会を与えますねー」
よっしゃ渡りに船だ!
ライラス辺境伯の正規軍にしっかりと紛れ込めるなら、手柄を立てる機会もきっと生まれる!
募兵に応じての参加は微妙なのだ。状況次第では手柄を得る機会に恵まれないからな!
例えば軍の後ろの方に配置されたら、戦う前に勝負が決して撤退命令が……などもあり得る。
だがこの場合はライラス辺境伯が俺の望みを汲んでくださっている!
きっと前線に配置してもらえる。この機会を逃してなるものか!
「頑張ってくださいねー」
「はい!」
戦争に活躍すれば土地をもらえて貴族にも任命される!
そうなれば俺のハーレムにも大義が生まれる。お家存続のために子供が大勢必要という大義が!
……まあ実家のファリダン領みたいな弱小領地だと、ひとりの妻で複数子供作ればいいじゃんってなるけど。
ちなみにこの国の貴族は騎士、準男爵、男爵、子爵、伯爵、侯爵、辺境伯、公爵と位がある。
俺としては最低でも男爵になりたい。騎士や準男爵は……貴族と呼べるか微妙だからな。
それなりの商会のトップの方がよほど贅沢に暮らせるレベルだし。
「あ、ちなみに今回の戦は隣国との戦いなのでー。我がライラス領軍も王国軍所属になりますー。貴方が活躍すれば王から直接褒美をもらえるかもですよー」
そう、これこそが国同士の争いに参加するメリット。貴族同士例えば男爵同士の小競り合いで活躍してもあまり褒美は期待できない。
なにせ男爵が勝手に領地を与えるなんてできない。彼らの土地も国からもらっているものだから。
なので褒章はお金や感状――活躍を示す証書、他家に仕える時などに履歴書に利用できる――になってしまう。
伯爵などの偉い貴族ならば複数の爵位を持っていて、よほど大活躍をすればそれを分け与えてくれることもあるらしいが……。
例を上げるなら辺境伯が騎士爵を余分に持っていて、手柄を立てたものを騎士に任ずるなどだ。
だが他爵位を持っている貴族は稀で夢物語に近い。
だが王国に雇われの身になるならば、活躍すれば貴族になれる道も開ける! 王国が貴族を任命するのだから!
「それと手柄を立てる機会とは別に、金貨三枚ほど褒美にあげますねー」
「いいんですか!?」
「はいー。勲功を立てた者にはそれに相応しい褒賞を、それがトップに立つ者の義務ですからー。はい、どうぞ」
ライラス辺境伯はテーブルに置いていた金貨三枚を手に取って、それらをいれた革袋を差し出してきた。
両手で丁寧に受け取ってしっかりと頭を下げる。
「ありがとうございます! 今後も忠義を尽くします!」
「よろしくお願いしますー。ベギラ、貴方には期待してますよー」
何ということだろう! 辺境伯ともあろうお方が一般兵である俺に、期待しているなどと言ってくださるとは!
いや本当によい主君に仕えたなー! 見た目も可愛いし有能だし文句なしじゃん!
「では下がってよいですよー。おそらく出陣は二週間後ほどでしょうから準備してくださいねー」
「ははっ!」
そうして執務室から出て扉を閉めた後、そのまま思わず叫びそうになるのをこらえる。
来た来た来たー! 俺のゴーレムで戦場を大暴れして、手柄を立てて貴族になってやる!
「よし。そうと決まれば早速ゴーレムを造らないと!」
「待ちなさい」
廊下を駆けだそうとした俺の肩を、誰かの手ががっしりと掴んだ。
「め、メフィラスさん。何か御用でしょうか? 俺は戦場で活躍するためにゴーレムを造りたいのですが……」
「確かにそれも大事なのでしょうが、普段の仕事をおざなりにしてはなりません。まずはやるべきことをやってください。貴族を目指すならばそういった品性も大事です」
「…………は、はい」
有無を言わさぬメフィラスさんが怖いです。というか肩を掴む力もすごいです。
こうして俺は彼と一緒に庭掃除を始めた。しばらく外で箒をはいてゴミなど集めていると、メフィラスさんが俺の近くにやって来た。
彼は俺の顔をまじまじと見た後に、少し心配そうな表情をする。
「戦場で無理をしてはいけませんよ。手柄を立てようと無理して死んだ若者を多く見てきました。命あっての物種です」
「気を付けます。ですが俺にはゴーレムがあるので」
「戦場に絶対はありません。例え後方にいる貴族だろうと死ぬこともあります。戦場では常に周囲を見て状況に先んじて動き、死なないことを前提に動きなさい」
メフィラスさんが俺を心配してくれているようだ。
……確かに何かあれば人なんてすぐ死ぬ。俺は平和と言われた地球ですら、線路に突き飛ばされて死んだのだ。
ましてや戦場なんていつ何時死んだっておかしくない。警戒し過ぎることなんてないのだろう。
「わかりました。肝に銘じておきます」
「よろしい。私としても仕事仲間が死んでしまうのは悲しいですからね。貴方は明日も分からぬ陣借り者とは違います。もし手柄を立てられなくても、この屋敷に戻ってこればよいのですから」
「はい……!」
メフィラスさんの言葉が温かい……。
ちなみに陣借り者とは正規軍とは別で勝手に参戦して、手柄を立てようとする者のことだ。
ひとりとは限らず従者つきなこともある。例えば落ちぶれた騎士や傭兵団とかが、再起をかけて配下連れて参加するみたいな。
彼らは仕官を夢見ていて戦場に出向くがなかなか厳しい。
例えば正規兵や傭兵の食事は軍が用意するが、陣借り者は兵糧など全て自費で準備するのだ。
そんな彼らは基本的に必死だ。何せ定職についていない者が大半、手柄を立てて恩賞や感状をもらわないと自分や配下を食わせられない。
「命を賭けてまで活躍しても、結局褒美は禄でもない。ということもありますからね。特に今回の戦は……」
「今回の戦は?」
「……いえ。私の思い違いかもしれませんのでお気になさらず。とにかく生き残ることを第一に考えなさい」
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本日三話目です、やりました。
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