第10話 出世の機会


 ライラス辺境伯屋敷に仕官してから数日。


 俺は門番としての仕事を与えられて勤務に励んでいた。


 とは言えここで普通に門番をやっているのは無欲のやること。立身出世を夢見るのだから命じられたことにプラスアルファを出さなければならない。


 あの豊臣秀吉だって草履取りの時に、ただ草履を出すのではなくて懐で温めたのだ。


 そんなわけで俺は手柄を成すことに尽力し、その提案を上司である老執事に提案しているところだ。


 老執事は屋敷の門の前に立ち、ゴーレムと門番一人を見て感心している。


「ふむ。門の前に置く兵士はいつも二人でしたが、確かにゴーレムを一体置けば兵士一人で事足りるかの?」

「そうですね、むしろ戦力だけなら門番二人よりよほど頼りになります。流石にゴーレムに全て任せるのは不安なので、人間の門番も必須でしょうが。思うように命令にも従いますし」


 老執事の質問に対して門番の男は力強く答えた。


 俺は今の屋敷の門番二人体制から、門番一人と岩ゴーレム一体での警備への変更を具申したのだ。


 岩ゴーレムならば並みの一般兵二人よりも遥かに強いからな。


 これからは門番の人件費を一人分節約した上で、更に門の警備を万全にできるというわけ。


「それならば兵士一人分浮く分、他の仕事に振ることもできそうだのう。ふむ……」


 老執事は少し顎に手を置いて考え込んだ後、俺に笑顔を向けて来た。


「では試し期間を設けて、うまくいきそうなら今後はゴーレムも門番に加えましょう」

「ありがとうございます!」


 ゴーレムは命令する者がいるのなら、特に問題を起こすことはない。


 そして門番するのにすごく向いているのは、師匠の屋敷でゴミクズの配下相手に散々実験して分かっている。


 なので本採用はほぼ確定みたいなものだ。


 そうして一週間が経過し、ゴーレムは門番を完璧にこなし続けて本採用となった。


 俺は老執事の私室に呼び出されてお褒めの言葉を受けている。


「よくやりましたな、ベギラ。礼節も普通にできていますし、今後に期待しておきます」


 この老執事、名はメフィラスというらしい。この人はライラス辺境伯屋敷を取り仕切る人なので、この人の覚えがめでたくなれば出世もできるはずだ。


「ははっ! 今後も頑張ります!」

「ちなみに貴方は希望する仕事はありますか? 門番をやらせておくのも勿体ないと思ってますので、やりたいことや自信のあることがあれば」

「与えられた仕事は全力でこなしますが、可能であれば手柄を立てるために戦場に出たいです! そしていずれは貴族になりたいです!」

「戦場にですか、覚えておきましょう。ではこれで話は終わりです」


 俺はメフィラスさんの私室から出て行く。


 この人は屋敷の最重鎮、そしてライラス辺境伯家の譜代家臣らしい。


 そのために特別扱いで専用の部屋が与えられていて、辺境伯本人ともやり取りする人だ。


 今後もメフィラスさんの評価を稼げば出世できるはず。


 そうして俺は引き続き振られる仕事を頑張った。


 山に薪用の木を伐りに行けと命じられた日は。


「ただいま戻りました! 今からゴーレムを切って薪にします!」

「木自体をゴーレムにして持って帰って来るとは……確かにこれなら木の枝など拾ってくるよりもよほど多く取れる……」


 面倒なので木自体をゴーレム化して連れて帰って来て、その後にゴーレム化を解いて薪にした。


 大量の油などを購入するために、メイドのお供として街に出た日は。


「すごいです! 普段なら何回かに分けないと重くて運べないのに!」

「任せてください! 鬼に金棒、ゴーレムに荷車です!」

「しかも油自体をゴーレムにするなんて!? これ不純物混ざったりしないの?」

「ご安心ください! ゴーレムは魔力の膜を外にまとってますので、外から無理やり押し込まない限りは! それにゴーレムは劣化もしません!」


 何回かに分けて買い込む物を、ゴーレムに運ばせることで一回で終わらせた。


 そしてメイドが熱を出したせいで衣服の洗濯が滞りそうになった時は。


「何でメイルは坊ちゃまの仕官先屋敷の、従者の人たちの服を洗ってるんです……? 別に洗う分には構いませんけど……」

「頼んだぞメイル! お前も一応は貴族屋敷というにはおこがましい家で働いてたんだ!」


 自宅に全部持って帰ってメイルにやらせた。ゴーレム? 洗濯なんてやらせたら服を綺麗サッパリボロ切れに破るだけだが?


 ちなみにゴーレム化した物体は、魔力の膜などで守られているのか普通に放置してても劣化しない。火であぶるとか外からかなりの力が加わったら話は別だが。


 もしすぐに劣化なりするなら、土ゴーレムなんか乾燥して砂になって崩れそうだし。


 こうして俺は仕官してから手柄を立て続けて三ヶ月が経つと、家中の人たちからも一目置かれる存在となっていた。


 今も屋敷の廊下でメフィラスさんにお褒めの言葉をもらっている。


「よくやっているなベギラ。屋敷内でも評判がよい、困りごとがあればお前に頼めば大抵何とかなると」

「ありがとうございます!」

「それでな、お前は戦場に出たいと言っていたが、このまま屋敷で働くのは……」


 俺達は即座に話をやめて立ち止まり、俺達の前を歩いているお方に礼をする。


 ライラス辺境伯様だ、廊下ですれ違うなど初めてだな。


 この人は大抵屋敷を留守にしているか、滞在なされても執務室にこもりっきりだ。


 屋敷の外で仕事がメインの俺とは、ほぼほぼ出会う機会がないからな。


 しかし……すごい美少女だ。目はパチっと大きいし肌は綺麗だし……まるで誰かが考えたボクの最強の美少女みたいな容姿。背が低い割には胸は標準サイズありそうだし。


 しかも風の識者、もしくは風の指揮者との異名も持つ優秀な人。何やら風魔法で戦場で凄まじい力を発揮するのだとか。


 このライラス辺境伯自身の評判も、俺がこの領地に来た理由のひとつだったりする。


 彼は頭を下げ続けていた俺の前を通ろうとして……立ち止まった。


 な、なんだ!? まさか空前絶後の活躍を続ける俺にお声がけを!?


「一ヵ月後、この屋敷の晩餐にメーダ―伯爵を招待します。その時に相手が喜ぶような物を出したいのですー」

「承知いたしました。好みを調べておきます」


 少しふわっとした少女の語りに対して、メフィラスさんは承諾の返事をする。


 あ、メフィラスさんへの指示か……そりゃそうか。


 この人は屋敷をしきっているのだし、ライラス辺境伯から直接指示を受けるのも普通だ。


「お願いしますー。ですが今回は少し大きな交渉事があります。メーダ―伯爵を喜ばせるだけでなく、私たちの経済力を見せつけて有利に進めたい」

「では高級品や手に入りづらい品を揃えます」

「それもよいですがー……出来れば普通なら用意が困難な品がよいですね。そんな物を用意できる手段を持っていませんか? ギベラ?」


 !? ライラス辺境伯閣下が俺に問うている!? たかが屋敷の雑用係に等しい俺に!? 名前少し間違えられてるけど!


 落ち着けこれはチャンスだ! ここで大役を果たせば俺は出世街道へのスタートをきれるはずだ!


 晩餐に出せる凄い物……それでゴーレムを使える俺だから用意できる……あ、あるぞ! 


「ございます! 私は……魚を、とれたてピチピチ新鮮で生きた海魚を用意できます!」

「まあお魚をー? それは楽しみですねー、この内陸地では干物くらいですし。出せるなら客人も驚くことでしょうー。ではメフィラス、珍しい物を用意しておいてくださいー」


 あーうん。やはり俺が魚を用意できない前提のようだ。


 一兵卒の言葉なんてそりゃそうだよなぁ……でも悔しいので何としても用意してやるからな!



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今日はもう一話か二話投稿予定です!


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