第9話 仕官しよう


 俺は冒険者ギルドに併設された酒場のテーブルで、知り合った冒険者仲間と酒飲みながらだべっていた。


「ゴブリンクラッシャー、次は何の依頼を受けるんだ?」

「オーク退治だな。ゴーレムならば力負けしないし、機動力もないからゴーレムのおやつだ」

「オーク退治の報酬をひとりでもらえるなら悪くないよな。ゴーレム魔法ってクソクソ言われてるけど別に弱くはなくね?」

「そりゃそうだろ。あくまで他の魔法使いと比較するとゴミってだけで、ゴーレム魔法自体がゴミなわけじゃねぇ」

「違う。ゴーレム魔法こそが最強の魔法だ」

「「はいはい」」


 いやぁ、二週間ほどで俺もこのギルドになじんだなぁ。


「それでベギラ坊ちゃんや、今度こそ娼館に行かないか? いい娘が入ってるぜ。それこそ数人買ってハーレムしろよ」

「断る。俺は女とヤリたいんじゃない、美少女を侍らせたいんだ」

「でもお前が侍らせてるの、ハーレムじゃなくてゴーレムだよな」

「聖剣ばりの切れ味の指摘やめろ」


 くだらない話をしながら酒を飲み、毎日暮らしていく。


 このままゆったりと日銭を稼いで貯金して、メイルと慎ましくも温かい生活を……いや待て暮らしてたまるかぁ!?

 

 俺はハーレムを築くためにゴーレム鍛えて、ツェペリア領を出たんだぞ!? ぬるま湯にひたってどうする!?


「……違う。俺は立身出世したいんだ! 冒険者に骨を埋めるつもりはない! ゴーレム魔法の可能性を世界に広めて、ハーレムを作って!」

「高ランク冒険者になれば金も名声も思うがままだぞ?」

「…………い、いやダメだ。俺はハーレムの大義が欲しいんだ……だから手柄を立てて貴族になりたいんだ……! だから募兵を待ってるんだ……」


 自分に必死に言い聞かせながら、我が野望を取り戻す。


 俺は冒険者になりにこの街に来たのではない!


 戦争で手柄を立てて土地持ち貴族となり……という方向に進みたいのだ! そうじゃないとハーレムの大義がない!


「ふーん。それなら募兵待たなくても、ライラス辺境伯家に仕官すればいいんじゃねぇの? 魔法使いとしては無理でも、雑兵ならゴーレム使えるし雇ってもらえそうだし。そこで手柄立てれば」

「お前ら! 俺はもうここには戻ってこないが達者で生きろよ! 今日の飯はおごってやる、あばよ!」

「「生き急いでるなぁ……」」


 俺はテーブルに金貨を置いて席を立ち、急いで自宅に向かって駆け出す!


 そうだよ! よく考えたら募兵じゃなくても、仕官して正規兵として出陣すればいいじゃん!


 それにただ戦うよりも色々な仕事があるので、手柄を立てるチャンスだってあるはずだ!


 すぐに家についたので勢いよく扉を開く! 


 メイルが着替え中で下着姿だった! 眼福!


「きゃあっ!? 坊ちゃん何するです!」

「メイル! 家のゴーレム何体か連れて行くからな! ライラス辺境伯家に仕官して来る!」

「メイルの着替えを覗いたことに言うことはないんですかっ!」

「ごっつあんです! 帰りになんか果物買ってくる!」

「お肉がいいです!」


 俺は自宅の庭に埋まっていたゴーレムの中から岩の四体を引き連れて、急いでライラス領主の屋敷へと向かった。


 ちなみにゴーレムは地中に簡単に潜れる。こいつら手が大きいし力も重機みたいなものだから地面掘るのは得意だ、便利。


 他にも鉄とか水とかの変わった奴もいるけど今回は置いていく! 流石に多すぎて全部連れて行ったら邪魔からな!


 屋敷の前でに着くと、大勢の仕官希望者が屋敷の前に詰めかけて何やら叫んでいる。


「我こそは槍の名手! 是非雇っていただきたい!」

「私は剣だけでなくて数字を扱えますし他にも様々な特技があります!」


 押し合いへしあいして、見せびらかすように剣や槍を振り回してる奴までいる。


 こいつら全員仕官希望者かっ! 募兵がなかなか来ないからってなんて個性のない!


「ゴーレム! 俺を頭に乗せろ! 他の奴は……待機!」

「「「「ごおおおおおお」」」」

「な、なんだぁ!? ゴーレムだとっ!?」


 他の者たちは俺のゴーレムに気づいて驚きの声をあげた。


 俺はゴーレムを少し前傾姿勢にさせて、その岩頭の上に立って屋敷に向かって叫ぶ!


「やあやあ我こそはこの国で天下二双のゴーレム使い! 名をベギラと申す者なり! 一般兵としてライラス辺境伯家への仕官を望む!」


 そこらの奴とは頭の高さも頭に乗り具合も違うのだ! これは目立つだろ! 





------------------------------------





 ベギラが門の前でアピールしている一方、屋敷の中では廊下の窓から外の様子を眺めている者がいた。


 ウェーブのかかったロングヘアを腰まで伸ばし、ヒラヒラのドレスを着たいかにも貴族令嬢な少女。


 彼女はほくそ笑みながら愉快そうに呟く。


「面白そうな少年ですね。あの者の素性は分かりますかー?」


 話しかけられた老執事は、持っていた書類を確認する。


「はっ。あの者はつい最近この都市にやって来て、ゴーレムを引き連れて歩く傾奇者です。隣領ツェペリア家の四男で、著名なゴーレム魔法使いから師事を受けたと」

「……絶賛内乱中の隣領の息子ですかー。使い道があるので、雑用係兼雑兵としてなら雇ってやりなさいー」

「……よろしいので? 街ではかなりの変わり者と噂されてますが」

「ゴーレム魔法を使う時点で、人格問わず変わり者扱いでしょう。それに……革新者と馬鹿は紙一重と言います。私も変わり物ですしー。いいですねー?」

「承知いたしました。


 老執事は深々と頭を下げると、廊下から去っていった。


 それを見ながら少女は更に騒いでいるベギラの様子を見る。


「優秀なら使えそうですけど今後次第ですねー。さて仕事をこなさなければ。我が王は耄碌されて貴族からも不評ですし。有事に備えて私も仲間を増やしておかないとー」


 ライラス辺境伯はベギラのことなど忘れたとばかりに、執務室に入って仕事を始めるのだった。






--------------------------------------------






「我こそはゴーレム魔法の使い手なり! 世にも珍しいゴーレム相撲をご覧にいれましょう! さあはっけよい!」


 俺は屋敷に必死にアピールしようと、ゴーレムたちを組み付かせ合って相撲させていた。


 お、おかしい! これだけ目立っているのに屋敷から反応がない!?


 ゴーレムなんだぞ!? そこらのとは客観的に見て訳が違うだろ!?


「馬鹿だなあいつ……ゴーレムなんか連れてくるなよ。邪魔だし存在自体が不愉快だ」

「今日はもう無理かなぁ。ゴーレムなんていたらお貴族様の目に毒だ。ゴーレム魔法使いの分際で目立つなよ」


 周囲の奴らは俺から距離を取って眺めていた! 見物料取るぞこの野郎!


 そんなことを考えていると屋敷の門が開いて、中から老執事といった風の者が出て来た。


 や、やっと俺のアピールが認められたか!


「怒りに来たよ。ざまぁ」

「そりゃゴーレム相撲とか屋敷の前で始められたらねぇ。ゴーレムなんて価値のない奴は、街のすみでどぶさらいでもしてろや」

 

 周囲の言葉は気にしない。俺が評価されたい相手は野次馬ではなく、ここの屋敷の仕官希望者採用者なのだから。


 俺は老執事に近づいていき軽く頭を下げて挨拶した。


「自分はベギラと申します! 是非屋敷に雇っていただきたく! 雑用係でも何でも我が手腕にて抜群にこなします!」

「はい採用します。少し話をしたいので屋敷の中に来てください」

「ははっ!」

「「「「「「そんなバカなっ!?」」」」」」


 よし! 作戦成功だ!


 俺はな、少しやりすぎなくらいにわざと目立ったんだ! 


 商品を売る時の鉄則だ。そもそも相手に存在を知られなければ購入の選択肢に入らない。


 多少インパクトがある方がよいから、わざわざゴーレムを何体も連れて来たんだ。


 やりすぎはよくないけど、俺はそこまでおかしなことはしていない。


 他の奴だって武芸自慢に槍振り回したりでアピールしてるんだぞ。危ないだろ。


 そもそも周囲の奴ら、ゴーレムに偏見持ってるっぽいからな。俺がゴーレムで何かをしている時点で悪く見えるのだ。


 ゴーレム相撲だって別に誰にも迷惑かけてないし、目立つアピールとしては許容範囲内だろう。


 というか屋敷の前で剣振り回すよりはマシだと思うがな。


「ちょっ……! なんでゴーレム魔法使いなんかが仕官されて、俺達は無視されるんですか!」

「こんな屈辱受けたのは初めてです! 俺達も雇ってください! そうじゃないと……!」


 野次馬共の中の数人が激怒している。どうやらゴーレム使いが仕官に成功したのがよほどお気に召さないらしい。


 俺を追いかけるように無理やり屋敷の門を潜り抜けようとする。


 ……こいつらもはや荒くれ者だろ。元々は募兵目的でこの領地に来た奴らだから、血の気が荒いのは納得できるが……限度がある。


「ちょうどよいです。あの狼藉者たちを追い返してくださいますか?」

「ははっ! ゴーレム、奴らをぶっ飛ばせ!」


 命令に従ってゴーレムたちが、奴らの前に立ちふさがって体当たりした。


 男たちは屋敷の門の外へと吹っ飛んでいき、屋敷の警備兵たちが中から門を閉めた。


 これでもう心配ないだろう。あの狼藉者たちは侵入罪みたいなのでたぶん捕まるんじゃないかな。


 俺は改めて老執事に頭を下げた。


「仕官をお許しいただきありがとうございます! 粉骨砕身してお家のために働きまする!」

「よろしくお願いします……ところでその妙な喋り方はツェペリア領のなまりでしょうか?」

「いえ気分でこんな口調にしておりまする!」

「なら今後は普通に話していただきますぞ。ライラス家で働くからには、礼節から厳しくしつけます。それはもうじっくりと……ええはい。鞭なども用意しておきましょうかのう」


 ……俺は仕官する家を間違えた、かもしれない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る