第8話 ゴブリンクラッシャー


 家を借りてから五日後。


 俺はひたすらに暇を持て余していた。


 おかしい……傭兵の募集がされない。このままじゃどんどん金が消えてくぞ。


「坊ちゃま。私、他のところで仕事してきてもいいです?」


 メイルが手持ちぶさたなようで、特に汚れてもない床を箒ではいている。


 今の家は狭いからなぁ。専属のメイドなんて不要だもんな。


 とはいえメイルを外で働かせるのはなんか惜しい。ほら帰ってきたら美少女がお出迎えのシチュがね。


「いや待て。今まで傭兵の応募がなかったのだから、そろそろ来る確率が上がってるはず……」

「そんなわけないです。ミレスさんに臨時の金稼ぎ方法でも聞いてくる方がマシです」

「それだ」


 俺と同い年くらいなのに独りで店を切り盛りしてるミレスなら、きっとよい案を出してくれるはずだ。


 彼女としても俺が稼いだ方が店舗賃貸料で儲かるし。


「じゃあちょっと遊びに行ってくる」

「遊びに行くなです! ちゃんと助言を聞いてきてください! お土産もあった方がよいです!」


 俺は外に出て街を歩きつつ、ミレスの店へと向かって行く。


 歩きついでに露店でお土産になりそうな物を探すと、美味しそうな果物が売ってある。


 土産というよりお見舞いみたいだな。でもミレスの好みを知らないし、果物ならそんなに外れはあるまい。


「おばちゃん。その果物をくれ、お土産にしたい」

「あらやだゴーレム魔法使いじゃないのさ」


 露店のおばちゃんに話しかけると、彼女は俺の方を見て目を丸くする。


「お? もしかして俺って有名?」

「そりゃそうだよ。ゴーレム魔法使いなんてまだこの国にいたんだねぇ。もう生きて行けずに絶滅したものかと」


 人を特別天然記念物みたいに言わないで欲しい。


「それでミレスちゃんの父親さんにお見舞いの品だろ? なら少しまけてやるよ。代わりにあんたも家賃滞納するんじゃないよ! あの娘も辛いだろうしねぇ……」

「父親に見舞い? どういうことだ? 俺はそもそも彼女の父親に会ったことすらないんだが」


 何で俺がミレスの父親に見舞いを? 娘さんをください、と言うにはまだ早すぎる。


「あ、勘違いだったのかい。あの子の父親は重い病気なんだよ。治すには金貨百枚ほどするポーションが必要で、必死にお金を貯めてるわけさ」

「金貨百枚は大金だな」

「ただ親父さんも日に日に弱ってるようでねぇ。少し前までは外に出てたけど、もう寝たきりみたいだ。あれはもう長く持たないだろう」


 地球換算だと金貨一枚が十万円ほどの価値があるので千万円だ。


 そこらの商人が簡単に用意できるような代物ではない。


 ポーション飲めば難病でも治せるのは夢のある話だが、莫大な価格は逆に夢も希望もないよな。


 金貨百枚は貴族なら出せるが庶民にはなかなか手が届かない。


「だからあんたも家賃滞納するんじゃないよ! まけて銅貨三枚にしてやるよ!」

「肝に銘じておきます。はいお代」


 おばちゃんに銅貨三枚渡して、果物の入った籠を受け取った。


 そしてミレスの店に入ると、彼女は先日と同じ姿で出迎えてくれた。


「いらっしゃいませー。お、ようこそベギラ君。何をお求めかな?」

「仕事が欲しい」

「ここは商店だよ? 仕事が欲しいならギルドに行きなよ。ゴーレムを活かすなら冒険者ギルドでいいんじゃない?」


 冒険者ギルドか。腕っぷしに自信のある奴らが、魔物討伐とか薬草集めなどの依頼を受けるところだったな。


 俺の領地は田舎過ぎてそんな代物はなかったので存在を忘れてたよ。


 臨時の日銭稼ぎくらいにはなりそうだな。立身出世はできないので繋ぎの仕事だが。


「ありがとな、これお礼代わりの果物だ」


 果物の入った籠を渡すとミレスは嬉しそうに受け取ってくれた。


「お、ありがとう。ボクの好みのやつばかりだよ」


 なるほど、あの果物露店におばちゃん。どうやらミレスの好みを把握してるらしい。


 なら彼女の父親のことも本当なのかもしれないな。現状の俺にできることはないので心の中で応援しておこう。


「冒険者ギルドってどこにある?」

「それならこの店から北に……」


 そうしてミレスの店から出て行って、しばらく歩いて冒険者ギルドの看板のある建物へとやってきた。


 中に入ると右半分は事務の受付のカウンターが並んでいて、左半分は併設された酒場が占領している。


 そこでは飲んだくれ共がテーブルで酒をあおっていた。


 真昼間から酒を……なんていう者はここにはいない。この世界は真水よりもワインのほうがよほど安いからな。


 そんなことを考えながらカウンターに立っている受付嬢たちを値踏みする。


 ふむ、右端が一番好みなのでそっちに行くか。胸も大きいし。


「すみません。初めての者です、依頼を受けたいのですけど」

「承知しました。でしたら冒険者登録を」


 なんか色々と説明されたけど、服の上からでも揺れがわかる胸に注目してたからほとんど覚えてない。

 

 かろうじて頭に残ってるのは登録料で銀貨三枚払ったこと。


 そして依頼にはランクがあるけど難易度を示す基準なだけ、受けるのに制限はないですわよ。でも死んだら自業自得ってくらいしか記憶にない。


 やはり巨乳もいいな。うちのメイルは貧相でそれもそれでよいのだが。


「ずっと胸ばかり見ていましたが頭に入りましたか? まあ死んだら自己責任なので勝手にしてください」


 説明を終えた受付嬢さんからの冷たい視線。はい、死なないように頑張ります。


 聞いてないの分かってて説明するのは厳しいように思えるが、受付嬢さんだって受付人数のノルマとかあるだろうしな。

 

 それにこの世界の人の命は軽い。冒険者が五人くらい行方不明になっても、死んだんだなぁくらいで終わる。


 冒険者が行方不明だから捜索依頼? そんなの冒険者ギルドがやってくれるわけがない。


 危険がつきものどころか、危険に飛び込むような仕事なんだから。そんなのやってたら大赤字で冒険者ギルドなんて成り立たない。

 

「これがギルドカードです。冒険者ギルドで名前を照会する時に使います。具体的には依頼を受ける時と、死体で見つかった時の判別の役に立ちます」

「後者では役に立って欲しくないですね」

「安心してください。後者は二割くらいの人しか使われません」


 それは二割は死んでるのでちっとも安心できないです。


 ま、まあ俺はゴーレム魔法使えるから、ゴーレムに戦わせれば安全に依頼達成できるさ! 


 そこらの凡人とは訳が違うのだから、この二割の法則は当てはまらないはず!


 そうして説明が終わった。さっそく依頼の紙が貼られたボードに近寄って、よさげなものを受けることにしよう。


 しばらく値踏みした後に依頼書を一枚ひったくって、先ほどの受付嬢のところに持っていく。


「ゴブリン討伐依頼ですか。初心者の上にひとりでは死ぬようなものですが、受けたいならどうぞ」

「本当に止めないんですね」

「死に行く愚か者を見送るのも仕事の内なので。この依頼は一週間で依頼達成できなければ失敗とみなされます。その後に達成報告に来ても無駄な努力です。この依頼も前に受けた人たちの報告がなく、流れたのを貴方が」


 つ、冷たい……だがなんかこの歯に衣着せぬ言動がクセになりそう。


「ゴブリンを殺したら左耳をもってきてください。討伐証明とします」


 そうして俺はゴブリン討伐のために、近くの山を木々をかきわけて歩いている。


 横にはすでに造り上げた岩ゴーレムが三体。家から連れて来たのと新たに造ったやつだ。


 この依頼は山に生息しているゴブリンを四体殺すだけだ。ようは間引き依頼。


 ゴブリンは小さい緑色の肌した人型の魔物で、それなりの知能があるので木の棒などの武器を扱う。ようは気持ち悪い小人をイメージして欲しい。


「ごぶぅ!」


 そんなことを考えているとゴブリンが三体ほど、草の茂みからのっそりと現れた。


 むぅ、後一体いてくれればちょうどだったのに。


「さてゴブリンたちよ、俺の出世のための贄になってもらおうか。やれゴーレムたち」

「「ごおおおおおおお」」


 二体のゴーレムたちがゴブリンにゆっくりと歩を進めて行く。


 ゴブリンたちは喚きながら持っていたナイフや剣を構える……ん? 随分と状態のよい武器だな。

 

 普通はゴブリンが持つナイフなどは、捨てられて錆びた物を拾う程度だ。


 だが奴らが持ってるブツは明らかに古くない。刃が最近に研がれているな。


「まあいいか、どうせ死ぬ魔物だ」


 ゴブリンたちは俊敏に動いてゴーレムに対して、剣やナイフを勢いよく振り落としたがガキンと弾かれる。


 当然だ、岩ゴーレムに対して並みの剣で刃が立つわけがない。


 奴らが困惑して足を止めた間に、ゴーレムたちがゴブリンをの頭をわしづかんで宙に浮かす。


 哀れにも手足をバタバタさせるゴブリンだが、もはやどう足掻いても無駄だ。


「潰せ」


 ゴーレムはゴブリンたちの頭を握りつぶした。すると後ろの茂みからガサガサと音が聞こえてくる。


「茂みを見てこい」


 側に控えさせていた残り一体のゴーレムが、俺の後ろにある茂みに突撃していき……隠れていたゴブリンの頭を同じように掴む。


「ごぶぅ!?」

「なるほど。さっきの二体がこれ見よがしに出て来たのは陽動だったか。潰せ」


 最後の一体もトマト顔負けに潰れたので、これで依頼達成だ。


「ゴーレム、周囲に人がいないか探ってくれ。一体は護衛に残れ」


 武器を奪われたであろう者たちが生きているかも知れないので、ゴーレムに捜索させると……近くにあった巣穴に囚われていた。


「あ、ありがとう! 君のおかげで助かった!」

「貴方は命の恩人です!」


 解放した男どもから礼を言われる。なんと奇跡的にまだ殺されてなかったのだ。


 おそらくゴブリンたちの今晩のディナー予定だったのだろう。助けた女の子からきゃーきゃー言われないのが残念だが、よいことをした俺の心は晴れやかだった。


 初依頼も完璧にこなしたのだから、今後の俺の未来を示すかのようだな!


「討伐証明の耳は?」

「…………顔と一緒に潰しました」

「じゃあ払えません」

「そんな!? 耳はないですが潰れた頭を持ち帰りました! とれたてほやほやですよ!?」

「気持ち悪い汚物をカウンターに広げないでください」


 俺のあだ名がゴブリンクラッシャーになった。


 ゴーレムは手加減苦手なのが欠点だな。



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始まったばかりですが冒険者回はこれで終わりです。


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