第7話 ゴーレム馬車


 俺達は近くの街にたどり着き一泊する。そして翌日に馬車に乗りこもうとしたがやめた。


 今は街から出た少し離れた森にやってきて、よさそうな木を探している。


「坊ちゃまー、馬車に乗るんじゃなかったんですかー……」

「……馬車が想像以上に高かったんだよ」


 メイルが責めるように告げてくるので、ぶっきらぼうに答えておく。


 リテーナ街行きの馬車は物凄く値上がりしていだ。


 理由は簡単。リテーナは敵国であるアイガーク王国と隣接していて、戦地になってしまう可能性があるから。


 なにせアイガーク王国は極悪非道で有名な、略奪で生計を立てる侵略国家だ。奴らが過ぎ去った後には草も残らない。


 馬車の御者だって危険なところには向かいたくないだろうから……妥当な判断と言わざるを得ない。


「そもそも何でリテーナに向かうんです? 他の場所じゃダメなんです? わざわざ危険な土地に向かうなんてバカです!」

「リスクを背負わないと出世は難しいんだよ。敵が攻めてきたら兵隊が募集されるはずだ。それで雇ってもらったら活躍できるだろ」


 戦争となれば人は離れていく、というのはまやかしだ。


 むしろ商人からすれば大儲け、兵士からすれば手柄立てのチャンスなのだ。


 戦争なので大勢の兵士が必要だし、兵糧に武器にと大量の物が必要になるからな。


 何なら娼婦とか大道芸人が軍に帯同することだってよくあったりする。


 大勢の兵士たちが集まるということは、それだけチャンスでもあるわけだ。


 そこでゴーレムで無双することにより、俺も立身出世の階段を登ることができるはず。


 まあ他にも理由があるんだが……実はリテーナ街の長でもあるライラス領主が絶世の美少女という噂がな。美少女はいいぞ。


 真面目に話すとこの世界で女領主って、相当優秀じゃないと無理だ。トップが優れている領地は将来性も高い。


「理由はわかったです。でもリテーナまで徒歩で行けるのです?」

「徒歩だと二ヶ月以上かかりそう」

「無理です!?」

「わかってるよ。だから徒歩では行かない……《コア・クリエイション レストリクショントゥーマンス》」


 俺はゴーレムの核を作成して2mほどの高さの大樹に投げ込んだ。


 すると大樹はクマのような姿へと変形していき、木のゴーレムへと変貌した。


 特徴としては地に四本の脚をつけた四足歩行だ。もちろん大きさは変わっていない。


「お、大きいです……もしかして……」

「このゴーレムに乗っていく。馬車よりもスピードはだいぶ遅いが、走れる時間は長いしまあ徒歩よりは幾分マシだろ」


 これも俺の修行、そして師匠の今までの研究がもたらした成果のひとつだ。


 ゴーレムは二足歩行である、という前提を壊した。


 師匠は優秀であるが故にゴーレムの固定観念に囚われていた。それを現代地球の知識を持った俺が壊したわけだ。


 ロボットなら四足歩行も当たり前にいるから、俺からすればむしろ簡単に思いつく。


 だがゴーレムは二足歩行という前提があれば、なかなか発想が出てこないのだ。


 まあ四足歩行に出来るようにするの物凄く大変だったけどな。ついでに言うと足の速さも普通のゴーレムと変わらない。


 つまりは亀みたいなものだ。利点は背中に乗れる程度で改良の余地大ありだな。


「すごいです! そういえば坊ちゃまのゴーレム魔法って、どれくらい使えるのです?」

「お? それ聞いちゃう? 聞いちゃう? 気になるなら仕方ないなー!」


 俺は用意していた紙を懐から取り出して、メイルに見せびらかす。


 ╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌

¦魔力表               ¦

¦                  ¦

¦並みの魔法使いの一日分の魔力 5  ¦

¦俺の一日分の魔力       300¦

¦普通の岩ゴーレムに必要な魔力 800¦

¦ゴーレムの核を造る初期魔力  1  ¦

¦ゴーレムの駆動時間一週間毎  1  ¦

¦                  ¦

¦※素材によって消費魔力が変動する。 ¦

¦主に硬さと重さが影響。       ¦

¦同じ体積の土なら必要魔力は岩の半分。¦

¦※初期魔力のみで作成時、      ¦

¦稼働時間は五分となる。       ¦

 ╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌╌


「補足すると核を造る初期魔力というのは、ゴーレムを造るにはどれだけ時間を削っても1の消費魔力が必要ということだ。それと稼働時間五日などの半端は無理だ。時間追加するなら一週間単位になる。五分の次は一週間、その次は二週間だ」

「坊ちゃま、結構真面目に研究してたんですね」

「俺の命綱になる魔法だぞ!? どれくらい使えるかよく分かりませんではダメだろ!」

「確かにです。それにしても……この魔力表を見ると、短期間だけ動くゴーレムはかなり必要魔力低いです」


 メイルの言葉にうなずいておく。


 例えば稼働期間一年の岩ゴーレムならば、50ほどの魔力で製造できてしまうのだ。


 永続稼働の物ならば800必要なので、その圧倒的なコストの差が分かるだろう。


 なお十年を超える稼働時間のゴーレムは製造不能だった。


 それ以上はコアに貯蔵魔力を貯められずに割れてしまうので、永続稼働で造るしかない。


「そういうわけで俺は凄いんだ。ちなみにこの表には書いてないが、ゴーレムは魔力の膜を作るから水などの流体で身体を構成することも可能だ」

「凄いです。わざわざ自分の凄さをこれみよがしにアピールするために、貴重な紙を浪費して表をつくるなんて」

「ふっ……そんなに褒め……ん? けなされてない?」

「いえ褒めてるです。流石坊ちゃまと言わざるを得ないです」


 ……おかしい。美少女に褒められてるはずなのに嬉しくない。


 ま、まあいいか。今後もこの紙を見せびらかして、俺の凄さを女の子にアピールしていこう。


 そうして俺とメイルは四足歩行ゴーレムの背中に乗る。


「よし道に沿って進め」


 俺の命令に従ってゴーレムがゆっくりと歩きだす。人間の徒歩より遅いな。


「お、遅いです……歩いた方が速い気がするです」

「その代わりに疲れ知らずで二十四時間歩き続けられる。歩くよりは楽だし速いはずだ。まあ急ぐ旅ではないからゆっくり行こうじゃないか」


 そうしてゆっくりと旅を始めて、結局次の日には街に戻って馬車を購入した。


 ……ゴーレムに乗ってたら背中揺れて気持ち悪いし、不安定で寝れないのだ!


 結局休息取る必要がある。日中稼働時間が歩くのとあまり変わらなかった。


 なのでひかせる車として馬車を購入したわけだ。ゴーレムにひかせるからゴーレム車だな。


 そうしてのっそりゆっくりとゴーレム馬車は進んでいく。俺とメイルは御者台で仲良く隣り合って座っている。


 馬と違って怯えたりとかしない。それに遅いから事故もほぼ心配ないので、御者としては正直やることない。


 居眠り運転でいいんじゃなかろうか。


「あー……これ馬車というか牛車だな」

「馬車に何も積載してないのもったいないです。何かリテーナで売れそうな物を購入するです」

「ゴーレムは力だけは有り余ってるからなぁ。三馬力くらいはありそうだからな。かなり色々載せてもスピード落ちないのはメリットだ……眠くなってきた」

「メイルもです……」


 俺達はちょくちょく互いにもたれあって居眠りしたり、近場の街によって行商品を購入しつつ鈍行をつづけた。


「ひゃっはー! 通行料として金をよこしやがれっ! さもなくばしねっ!」

「ゴーレム、やれ」

「ぐわあああああぁぁぁ!?」


 なんか何度か出てくる盗賊は、馬車を曳いているゴーレムで粉砕した。


 あいつら馬を止めるノリでゴーレムの前に出てくるので、簡単に吹っ飛ばせるんだよな。癖とは恐ろしい。


 そうして俺達は目的地であるリテーナへと到着した。


「あいつらゴーレムに馬車ひかせてるぞ……」

「馬鹿じゃないの……?」


 周囲の人たちの声が聞こえる。


 ゴーレム馬車のせいで死ぬほど目立ったがまあいい。俺達は門を通って街の中へと進んだ。


「やっとついたぞ! ここから俺のハーレムライフが始まるんだ!」

「坊ちゃま! そんな恥ずかしい妄言を叫ばないでください!」

「妄言ではない! いずれ訪れる現実だ! さて早速だが家を借りに行くぞ!」

「その前に馬車の中身を売りさばくです……ゴーレム、見張りをお願いするです」


 近くにあった金貨の描かれた看板を立ててある建物――商店――を指さす。


 RPGとかでさ、絵の看板の店があるじゃん? あれって識字率が低いからなんだよ。


 文字読めない人が多いから、イラストで店が分かるようにしているんだ。


 早速商店に入った俺達にボブショートの緑髪をした女の子が、商品を陳列させながら笑顔で出迎えてくれた。たぶん俺と同い年くらいかな?


「いらっしゃいませ! 何をお求めですか!」

「君が欲しい」

「……はい?」


 近づいて彼女の手をとろうとするが、メイルからの凍てつくような視線に引き下がってしまった。


 仕方ないだろ、ずっと師匠の屋敷に籠ってたから女の子に飢えてるんだ!


 メイルがいただろって? なんかこう、美少女もずっと同じ娘ばかりだと少し新鮮味が欲しいというか。


「坊ちゃま、お願いですから話を進めてくださいです……このままじゃ呆れられてしまうのです……」

「わかったわかった。実は家を借りたいんだよ、ゴーレム可の」

「ゴーレム? あの人型のやつだよね? あんなの家に置いてどうするの? ただの置物にしかならないと思うけど」


 首をかしげる緑髪美少女。ヒラヒラの魔法使いみたいなローブを着ているのだが、さっきからそれが揺れてなんか可愛らしい。


 まるで海でヒレを揺らせて泳ぐ金魚のようだ……金魚って褒め言葉か? まあいいや。


「ふっふっふ。ゴーレムが役に立たないのはもはや過去の話! この俺によってその常識は塗り替えられる! なので俺の記念すべき最初の家を貸して欲しい!」

「なかなか面白い人だねー。ボクは貸してもいいけど……庭つきの家はどう? 庭にゴーレム置けるよ。ただ家賃はそれなりに高いけど」


 ぼ、ボクっ娘だと!? おいおいおい、ドストライクだわ。


 まじでこの娘を俺のハーレムに加えたいんだが!? 


「坊ちゃまはダメそうなのでメイルが交渉するです。広さはどれくらいです?」

「普通の民家を想像してもらえればいいかな。広さもそれなりでそこそこ新しいよ」

「見学して問題なければ貸して欲しいのです。坊ちゃまもそれでいいです?」

「ん? ボクっ娘はいいぞ」

「そんなこと聞いてないのです!? お願いだからちゃんとして欲しいのです!?」


 こうして俺たちは建物に案内されて内装や外装を確認した。大通りに面した場所ではないが、建物の状態自体は悪くない。


 庭もまあ標準サイズのゴーレムなら十体くらい置けそうだ。


 問題なさそうだったので借りることにした。


「毎度ありー、これが鍵ね。あ、そうそう。ボクはミレスだよ。これからもごひいきにー」

「俺はベギラだ。ちなみに誰かと付き合ってたりする?」

「お金持ちの伴侶募集中でーす」

「メイルなのです。よろしくお願いするのです」

 

 ミレスはそう言い残して去っていき、俺達だけが借りた家に残された。


 なるほど……つまり稼げばワンチャンありそうだな! やる気出て来たぞ!


 しかし女の子で商店を経営とは凄いな。普通なら見習い……女だとそもそも商人になるのすら難しいだろうに。


「坊ちゃまー。じゃあ私は掃除を始めるので、ゴーレム作って来てくださいです。ゴーレムの腕だけは信用してるので、安心して送り出すです」

「ほいほい、じゃあ掃除は任せた」


 こうして俺は街の外に出て、岩の人型ゴーレムを造って家に連れて帰って来た。


「やだ……ゴーレム魔法使いよ……まだ存在してたなんて……」

「あれが魔力という約束された才をドブに捨てた愚か者……」

「いい? 絶対にあんな人にはなってはダメですからねっ!」


 なお帰り道ですれ違った町民たちからぼろくそに言われた……お前ら覚えてろよ!?

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